第13話 今日はいい一日だった

 お母さんも交えて5人で遊んでいると、あっという間に夕暮れ時になっていた。

 楽しい時間はすぐに過ぎちゃうんだよね。


「ひまわりちゃん、愛花ちゃん、お家まで送っていくね」

「ええ!? いいんですか!?」


「うん、もうすぐ暗くなるし、ちょっと心配だから」

「いつもひとりで帰ってるから心配しなくても大丈夫ですよ。でも今日はお願いしようかなぁ~」


「任せて!」


 ひまわりちゃんは靴を履き終えると、先に外に出て待っていた。


「愛花ちゃんもいいかな?」

「はい……、ありがとうございます」


 愛花ちゃんは外に出るとひまわりちゃんの隣に並んだ。

 私が真ん中に入ろうとしてたのに失敗に終わってしまったか。

 真ん中にはひまわりちゃんが入り、私は右端になった。


「それじゃあちょっと行ってきます」

「気を付けてね」

「は~い」


 お母さんに見送られながら、私はふたりを家まで送り届ける任務についた。

 まあ、ただ私がもう少し一緒にいたかっただけなんだけどね。


「ふふん、ふふん」

「ご機嫌だねひまわりちゃん」


「えへへ、だってなずなさんに家まで送ってもらえるなんて夢みたいですから」

「お、大袈裟だね」


「そんなことないですよ~、小学生が高校生とお友達なるなんてなかなかできないんだから」

「まあ姉妹でもいないと接点がないよね」


「これは奇跡なんです」

「それはやっぱり大袈裟だと思うよ」


 何かしたわけじゃないのに、本当になんでこんなに懐いてくれてるんだろう。

 嬉しいんだけど謎だなぁ。


 もしかして昔どこかで会ってるのかな?

 そしてそれをひまわりちゃんだけが覚えてるとか?


 でも私が小学生と交流するようになったのは、つい最近柑奈ちゃんが家に来てからだ。

 ひまわりちゃんみたいなかわいい子と話でもしてたら絶対に覚えてると思うんだけど。


 まあわからないものはわからないし、今が幸せだしいいか。


「ふたりの家はどっちが近いの?」

「私の方が近いですよ、だって近所だし」


「そういえばそう言ってたね」

「ほらそこですよ」


「近い!」


 ひまわりちゃんの家は私の家から数百メートル程度の位置にあった。

 まあ野球するのにあの公園を使ってたんだから、家が近いのは当然か。

 これだと茜ちゃんの家からも近いなぁ。


「じゃあね愛花ちゃん、なずなさん、バイバ~イ」

「バイバ~イ」

「バイバイ」


 ひまわりちゃんは元気よく家の中に消えていった。

 残された私と愛花ちゃん。

 家まで送るとは言ったものの、ひまわりちゃんの離脱が早すぎてまだ気まずい。


「それじゃあ今度は愛花ちゃんの家だね、こっちであってる?」

「はい」

「じゃ、行こっか」


 本当は手をつないで歩きたかったけど、まだ少し打ち解けてないし、今は無理かな。

 私は歩く速さを愛花ちゃんに合わせてゆっくり歩く。


 愛花ちゃんは私のすぐ隣を歩いてくれて、思ったよりもそばに寄ってくれている。

 それが少しうれしかった。

 私がそんな喜びに浸っていると、愛花ちゃんがくいっと私の服の袖をつかんだ。


「うん?」

「あ、えっと、こっちです」

「そうなんだ」


 愛花ちゃんの家は、川沿いにある私たちの家とは違って市街地の方にあるらしい。

 私たちは川沿いの道から街中へと進んでいく。


 国道まで出て信号待ちをしていると、不意に私の手を愛花ちゃんが握った。

 驚いて私が愛花ちゃんの方を見ると、じっと私のことを見上げていた。


「えっと、お姉ちゃんがいつもこうしてくれてるのでつい……」

「そっか」

「ダメですか?」


 不安そうに私を見上げる愛花ちゃん。

 めちゃくちゃかわいい。

 こんな人の多い大通りじゃなかったら抱きしめていたかもしれない。


「そんなことないよ、私のこともお姉ちゃんだと思ってくれていいからね」

「は、はい」


 なんだなんだ、私ってば意外と懐かれてるんじゃない?

 このまま順調にこのエンジェルちゃんのハートを射止めてみせるよ!


 横断歩道を渡り、そのまま国道沿いに歩いていく。

 私はこのあたりだと商店街の方を歩いてることが多いけど、そっちに行かないということはもっとむこうの住宅街なのかな。


 だとすると愛花ちゃんは結構家が遠いなぁ。

 と思ったら角を曲がってすぐのマンションの前で愛花ちゃんは立ち止まった。


「ここです」

「このマンションなの?」

「はい」


 そこは私がたまによるコンビニが一階にあるマンションだった。

 ということはもしかして、今までにも偶然すれ違ったりしてたんじゃないかな。


 この辺りは自転車でもよく通るし、この辺りの人はだいたいこの近くのショッピングセンターで買い物するだろうし。


「ここで大丈夫です、ありがとうございました」

「いえいえ、また家まで遊びに来てね」

「はい」


 私たちは手を小さく振りあってお別れをしようとする。

 その時、私の後ろから聞き覚えのある声がした。


「あ、愛花ちゃん! 今帰ったの?」


 その声は愛花ちゃんの姉であり、私のクラスの委員長である彩香ちゃんのものだった。

 彩香ちゃんは愛花ちゃんを見るなり、駆け寄って抱きつこうとする。

 それを愛花ちゃんはさっとよけて、なぜか私の後ろに隠れてしまった。


「うう……」

「あらら」


 私の背中から顔を出して、まるで変質者を見るような目を彩香ちゃんにむけている。

 なにこれ、どういう状況?


「彩香ちゃん、愛花ちゃんに何かしたの?」

「白河さん!? どうしてここに?」

「さっきまで愛花ちゃんは家にいたから。ちょっと暗くなってきてたから送りにきたんだよ」


 まあ、私がふたりを送っていきたかっただけだけどね。


「そうだったの、ありがとう。さあ愛花ちゃん、帰るわよ」

「うん」


「……えっと、どうして白河さんの背中から離れないの?」

「最近のお姉ちゃん、ちょっと怖い」


「が~ん」


 妹に怖がられるなんて、いったい何をしたんだろう。

 私も気を付けないと柑奈ちゃんに同じこと言われたりするのかな。


「柑奈ちゃんのお姉さんはやさしいです」

「わあ、ありがとう」


 なぜだか愛花ちゃんの好感度が上がっていた。

 今日一日だけでこれはなかなかの成果じゃないかな。

 私はうれしくて愛花ちゃんの頭を軽くなでた。


「えへへ」


 きゅ~ん!

 照れてる愛花ちゃん、めちゃくちゃかわいいよぉ!

 これは彩香ちゃんがメロメロになるのもわかるなぁ。


「それじゃあ私は帰るね」

「あ、お姉さん、バイバイ」

「うん、バイバイ」


 愛花ちゃんが手のひらを私にむけてきたので、恐らくこういうことだろうと思い、軽くハイタッチをする。


「彩香ちゃんもまた明日ね」

「え、ああ、また学校で」


 私はふたりに手を振って来た道を引き返す。

 今日は愛花ちゃんと出会えたし、思った以上に仲良くなれたし、いい一日だったなぁ。


 明日もまたかわいい女の子と仲良くできたらいいなぁ。

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