第12話 なずなの母、白河小百合

 私の『愛花ちゃんとラブラブになろう大作戦・第一回』は失敗に終わってしまった。

 でも嫌われているというよりは恥ずかしがっているだけのような感じだし、きっと時間が解決してくれるだろう。


 あとは珊瑚ちゃんにも私のこと好きになってもらわないとだよね。

 珊瑚ちゃんに好きになってもらえたらそれはうれしいことだと思う。


 でも、珊瑚ちゃんのことを応援したい気持ちもあるんだよね。

 きっと柑奈ちゃんのこと大切にしてくれるだろうし。


 ただ柑奈ちゃんを目の前にすると、どうしても他の人のものになってほしくないと思ってしまう。

 私って小さいなぁ。


 そういえば珊瑚ちゃんは柑奈ちゃんのことを盗撮してたっぽいけど、柑奈ちゃんは気付いてたのかな。

 ちょっと聞いておこうか。


「ねえ柑奈ちゃん、この人知ってる?」


 私は柑奈ちゃんに珊瑚ちゃんの写真を映したスマホの画面を見せる。


「知らないけど? でもきれいな人だね!」


 あれ、今、柑奈ちゃんの目が憧れの人を見るような目になった気が……。

 柑奈ちゃんと珊瑚ちゃんを会わせてしまったら、もしかして相思相愛ラブチュッチュになってしまうのでは?


 これはいけない。

 でも珊瑚ちゃんは大切なお友達だし、柑奈ちゃんはかわいい妹だ。

 私はふたりの幸せを願うべきなんじゃないか?


 くぅ、もしその時が来たら私はちゃんとふたりを祝福しよう。

 ただ私も負けないからね。

 私が静かに闘志を燃やしていると、隣にいたひまわりちゃんが私の膝にごろんと寝転んでくる。


「ひまわりちゃん、どうしたの?」

「う~ん、甘いものが食べた~い」


「いきなりだね、そういえばホットケーキミックスがあったような……」

「ホットケーキ!?」


「ちゃちゃっと作ってきてあげる」

「私も手伝う~」


「いいよいいよ、お客さんなんだし。三人で遊んでて」

「隣で見てる~」


「見てても面白くないと思うけどなぁ」


 私はなぜかひまわりちゃんがじっと見ている前でホットケーキを作ることになった。

 この前柑奈ちゃんに作ってあげたばかりだったので作り方はばっちり覚えている。


 すぐに生地の用意をして、フライパンで焼いていく。

 一枚焼けるとお皿に移して、バターを乗せてはちみつをかける。


 それをひまわりちゃんはさっそく運んでいって愛花ちゃんの前に置いた。

 私はまた一枚焼いて同じように仕上げると、またひまわりちゃんが運んでいって柑奈ちゃんの前へ。


「ふたりとも冷めないうちに食べた方がいいよ」


 柑奈ちゃんと愛花ちゃんは全部焼き終わるのを待ちそうだったので先に声をかけておく。

 ついにひまわりちゃんの分を作り始めた時、私の手元を見ながらひまわりちゃんがすごいことを言い始めた。


「ねえねえ、私のホットケーキ、三段にしてください!」

「え、いいけど大丈夫? 食べれる?」


「大丈夫ですよ~」

「じゃあ三段にしちゃおうか」


「やった~、ありがとうございます、なずなさん!」


 私は少しだけ一枚分を小さめにしながら、連続で三枚のホットケーキを焼いていく。

 お皿に重ねて、バターを乗せて上からはちみつを垂らすと、なんとなく絵になるホットケーキができた気がする。


「はい、できたよひまわりちゃん」

「やった~! なずなさん、一緒に食べましょう!」


「え、一緒に食べるの?」

「いいでしょ? 行きましょ~」


 私たちがソファーに戻ると、ひまわりちゃんがホットケーキをフォークで切る。

 そして切った三角形を三枚一気に串刺しして私の前に持って来た。


「はい、あ~ん」

「ええ!? 恥ずかしいなぁ……、あ~ん」


 私の口にホットケーキが入ってくる。

 見事に膨らんだホットケーキが三枚も重なっていると結構な厚みがあった。


 ぎりぎり口に詰め込むと、そのやわらかい生地をゆっくりと味わう。

 はちみつもしっかりしみてておいしい。


「うん、おいしい」

「ふふふ、愛が注入されてますからね」


「私の愛を私が食べてもおいしくはならないと思うけど」

「注入したのは私の愛ですよ」


「……そっか、ありがとうひまわりちゃん、すっごくおいしいよ」

「えへへ」


 ひまわりちゃんが幸せそうに笑う。

 私にすごく懐いてくれているのがわかる。

 これはすっごく嬉しいことなんだけど、でもなんでこんなに懐いてくれているんだろう。


 正直なところ、理由がよくわからない。

 私もうれしいし、ひまわりちゃんはかわいいし、別にいいんだけどね。

 ただただ不思議だなって思う。


 私は一度席を離れ、人数分のココアを用意する。

 その時玄関から物音がして、しばらくしてからリビングのドアが開いた。


「ただいま~」

「あ、おかえりお母さん」


 入ってきたのは私たちの母親だった。

 名前は白河小百合、明るくてまったりした人だ。


 いろいろあったせいで離れ離れになっていた柑奈ちゃんを、今はラブラブに溺愛している状態である。

 もちろん私のことも大切にしてくれているやさしいお母さんだよ。


「柑奈ちゃ~ん、ぎゅ~」

「ちょっと、お友達が来てる前でやめて」


「あら、いらっしゃい、本当にお友達いたのね」

「失礼」


 うん、失礼だ。

 でも柑奈ちゃんはおとなしい性格だから心配になるのもわかる。

 こうやって実際に仲良くしている友達を見せてもらえて、すごく安心できたと思う。


「お母さん、ココア飲む?」

「ありがとうなずな、あらホットケーキ作ってたの?」


「食べるならもう一枚作るよ?」

「じゃあお願いしようかな。なずなの作るホットケーキってなぜだか自分で作るよりおいしいのよね」


「それは愛が注入されていますから」

「あらあらそれはうれしいわ」


「えへへ」

「じゃあちょっと着替えてくるわね」

「うん」


 お母さんは着替えのため自室へとむかった。

 入れ替わりで私の隣にひまわりちゃんがやってくる。

 その表情はなにかすごいものを見たというようなものだった。


「どうしたのひまわりちゃん」

「おっぱいが、なずなさんより大きかった」

「……そんなところ見てたの?」


 さすがひまわりちゃん、目の付け所が違うね。

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