第11話 白河なずなはどこにでもいるただの女子高生?

 部室で1時間ほど過ごした後、私たちは解散して下校することにした。

 本当に学校帰りの喫茶店のように部室を使っていたけどよかったのだろうか。

 ケーキもコーヒーもおいしかったなぁ。


「じゃあねなずな、バイバイ」

「バイバ~イ」


 いつもの場所で茜ちゃんとお別れをして家に帰る。

 玄関の扉を開くと、柑奈ちゃんの靴の他に、この前と同じくひまわりちゃんの靴があった。

 さらに今日はもう一足、別の靴が置いてある。


 大きさからして、柑奈ちゃんのお友達のものだろう。

 順調にお友達ができているようで私も一安心だよ。


「ただいま~」


 私はリビングに入ってあいさつをすると、最初に目が合ったのはひまわりちゃんだった。


「あ、なずなさんだ! おかえりなさい」

「ただいま、今日も来てたんだね」


「家が近いので」

「そっか、ひまわりちゃんが来てくれると私もうれしいよ」

「えへへ、やった~」


 うんうん、かわいいなぁ。

 柑奈ちゃんもかわいいけど、ひまわりちゃんも全然負けてない。

 特にこのまぶしいくらいの笑顔はひまわりちゃんの武器だよね。


「ねえねえ、ここに座ってください」

「え? どうかしたの?」


 私は言われるがままとりあえずソファーに腰を下ろす。

 するとひまわりちゃんは私にもたれかかるように体を預けてくる。

 正直すっっっごくかわいい。


「ひまわりちゃんは甘えん坊さんだね」

「えへへ~」


 私はさりげなく腕を回して、ひまわりちゃんの肩を抱く。

 あはっ、やわらか~い。


 私は夢のような時間を過ごせていることに感謝した。

 なんだか最近幸せ過ぎて怖い。


 これも柑奈ちゃんと一緒に暮らし始めたあたりからかな?

 なんて思いながらひまわりちゃんの頭をなでていると、急にリビングの扉が開いた。

 そういえばふたりきりじゃなかったんだった。


 でもいまさらこの状況を何とかできないし、開き直ってひまわりちゃんの頭をなで続ける。

 私はてっきり柑奈ちゃんが戻ってきたのだと思っていたんだけど、部屋に入ってきたのは知らない女の子だった。


 あの靴はこの子のだったのか。

 ってあれ? この子よく見たら……。


「あ、えっと……」


 女の子は私たちを見ておろおろとしていた。

 まあそれはそうだよね。

 戻ってきたらお友達が知らない人に抱かれていたら私だって驚くよ。


 まあそんなことよりも私には確かめたいことがあった。


「あの、もしかしてあなた、富山愛花ちゃんじゃない?」

「な、なんで私の名前知ってるんですか?」


 やっぱりそうか。

 放課後、彩香ちゃんに見せてもらったばかりの妹さんだ。


 写真でもかわいかったけど、本人も変わらずかわいい。

 私を警戒して扉の陰に隠れている姿もまたかわいい。


「大丈夫、怖くないよ。私は愛花ちゃんのお姉ちゃんとお友達なんだよ」

「お姉ちゃんと?」

「うん、そうだよ」


 姉の話が出てきて警戒が解けたのか、愛花ちゃんは再びリビングに入ってきてくれた。

 それでもまだもじもじとしていて、それがまたかわいい。


「愛花ちゃんも隣に座る?」

「ううん、やめとく……」


 ひまわりちゃんは私の腕の中で愛花ちゃんを手招きする。

 愛花ちゃんは苦笑いしながら別のソファーに座った。


「そういえば柑奈ちゃんはどこ行ったの?」

「もう少しで戻ってくると思いますよ」

「そっか」


 いったいふたりを置いて何をしてるんだろう。

 そう思っていたら、ようやく柑奈ちゃんがリビングに戻ってきた。


「あ、姉さん、おかえり」

「ただいま~」


「……何してるの?」

「いや~、ひまわりちゃんに頼まれて」


「ふ~ん」


 柑奈ちゃんは私とひまわりちゃんが異常にくっついている姿を見て、冷ややかな視線を送ってくる。

 まあまあ柑奈ちゃんも後でやってあげるから、妬かない妬かない。

 妬いてくれるということは、私のことが大好きってことだもんね!


 私は超ポジティブな考えでそれを受け流す。

 柑奈ちゃんはそのままこちらに歩いて来て愛花ちゃんの隣に座った。

 その時、愛花ちゃんがぴくっと反応し、なんだかもじもじとし始める。


 おやおや~?

 これはつまり、もしかしてそういうことですかぁ?


 でも困ったなぁ、そうなると愛花ちゃんが珊瑚ちゃんのライバルになってしまう可能性が。

 それ以前に柑奈ちゃんは私のものだし。


 ここはうまいことやって愛花ちゃんと珊瑚ちゃんをくっつけるというのはどうだろう。

 でもでも愛花ちゃんもかわいいしなぁ。


 それに私にはひまわりちゃんという天使もいるし。

 これはまいった、降参だ。


 こうなったら私が全員幸せにするしかないんじゃないかな!


 ということで、私が今するべきなのは愛花ちゃんの信頼を勝ち取ることだね。

 私はひまわりちゃんを腕で抱いたまま、愛花ちゃんの方に視線をむける。

 その愛のこもった熱い視線に気づいた愛花ちゃんがふと私の方を見た。


 目が合うなり私はニコッと、できるかぎりのやさしくてやわらかい笑顔を返す。

 すると愛花ちゃんはなぜか驚いて柑奈ちゃんに抱きついて身を隠そうとする。


 そして恐る恐るといった様子で私のことを見続けていた。

 なにこれ、すっごくかわいいんですけど。


 愛花ちゃんの視線が私の方にむいていることに気づいた柑奈ちゃんは、すぐに私が犯人だと決めつけた。


「姉さん、愛花ちゃんのこといやらしい目で見てたでしょ」

「ええ!? ひどいなぁ、そんな目で見てないよ」


「今まさに見てるじゃない」

「今まさにデフォルトなんだけど!?」


 ひどいよ柑奈ちゃん、私のことそんな風に思ってるなんて。

 私はただ女子小学生が好きなだけの、どこにでもいるただの女子高生なのに。


 ……。

 あれ?

 私ってもしかして、世の中では変質者になるのかな?

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