第9話 文芸部
「じゃあね愛花ちゃん、バイバ~イ」
5分ほど続いた彩香ちゃんの妹さんとの通話が終了。
その電話の間、彩香ちゃんはずっと甘ったるい声で話し続けていた。
「ごめんなさい、待たせたわね」
何事もなかったかのように私たちの方へ振り返る彩香ちゃん。
しかし私たちの視線は冷たいものになっていた。
さっきまで幼女がどうとか言っていた人物が、自分の妹相手にあの態度ではどうしようもない。
「ねえ彩香ちゃん、幼女同好会、入る?」
「入りません!」
「どうして? きっと話が合うと思うんだけど」
「なんでそう思うのよ!」
「だって……、ねえ?」
私は同意を求めて茜ちゃんと珊瑚ちゃんの方を見る。
ふたりはうんうんと頷いている。
「と言うか、委員長の妹さんっていくつ?」
「11歳、今年小学6年生よ」
茜ちゃんが妹さんの年齢を聞くと、そんな答えが返ってきた。
柑奈ちゃんやひまわりちゃんと一緒だった。
「私の妹と同じ学年だね」
「あらそうなの?」
「うん、それより、小学6年生相手にあの口調はさすがの私もしないよ」
「う……」
自分でも甘やかしすぎだと自覚しているのか、言葉に詰まる彩香ちゃん。
まあ私も自覚がないだけでやっちゃってるかもしれないから注意しておこう。
「だって、すっごくかわいいんだから仕方ないじゃない!」
「うんうん、わかってるよ彩香ちゃん、だから落ち着いて」
突然顔をぐいぐいと私の顔に近づけてくる彩香ちゃんに、私は気押されて少し後ろに下がった。
これはもう間違いない。
私にはわかる、彩香ちゃんの妹を愛する心が。
この人は私たちと同類だ!
「彩香ちゃん」
「な、なに?」
「一緒に幼女同好会、頑張ろ!」
「は、入らないって言ってるでしょ?」
「どうして?」
「だって、私が好きなのは幼女じゃなくて、妹の愛花ちゃんだけだからああああああああ!!」
突然屋上で愛を叫ぶ彩香ちゃん。
とてもまじめな委員長の姿とは思えなかった。
「はい、入部決定っと」
「ちょっと!」
彩香ちゃんは未だに抵抗していたけど、そんなに嫌そうには思えなかった。
「まあまあ、一緒にいた方がいざって時に助かるかもしれないし」
「いざっていう時?」
「例えば人前で妹ちゃんを隠し撮りしていたら警察の人に捕まったりとか」
「その時点で終わってる気がするけど……」
「いやいや、ほら私たちも一緒に他の女の子を撮ってたら撮影会かな? ってなるかも」
「ならないわよ! 全員仲良くお縄につくだけよ」
「もう、いい加減素直になればいいのに」
私はいつまでも抵抗を続ける彩香ちゃんをぎゅっと抱き寄せる。
すると彩香ちゃんの体から力が抜けていくのがわかった。
「は、恥ずかしいから離れて……」
「離れたら同好会に入ってくれる?」
「はぁ、仕方ないわね、別に嫌なわけじゃないし、入ってあげるわ」
「やった、ありがと~」
私がぎゅっと彩香ちゃんの手を握ると、恥ずかしそうに顔を逸らしていた。
「うふふ、最初から素直に入りたいと言えばよろしいのに」
「浜ノ宮さ~ん?」
「うふふ」
珊瑚ちゃんと彩香ちゃん、意外と相性がいいのかもしれないね。
「それじゃあ放課後、部室に案内しますね」
「え、部室あるの?」
「はい」
さらっと珊瑚ちゃんが言った言葉に彩香ちゃんが驚く。
私もびっくりした。
同好会とか言ってるけど、てっきり珊瑚ちゃんが名乗っているだけの存在かと思っていた。
なのに部室があるとかどういうこと?
まさか学校が認めたっていうのかな、幼女同好会なんてものを。
そうか、ついに世の中が私たちに追いついたってことだね。
「実は私、元々文芸部員だったんですけど」
「そうなんだ」
「部員が私一人しかいなくて、あと漫研と映研とオカルト研究会も部員がいなくなったらしいんですよ」
「い、いなくなった?」
「はい、それで全部まとめて一つの部にするから、そのまま文芸部の部室を使っていいよって顧問の先生が」
「え、じゃあ幼女同好会って正式な部として認められてて、部室もあるし顧問の先生もいるの?」
「そうですね、正式には文芸部ということになってますけど」
「そういうことか」
びっくりしたよ、まさか学校が幼女がどうとか言ってる同好会を正式な部にしたのかと思ったよ。
「うふふ、今日から放課後がひとりじゃなくなるんですね、嬉しいです」
「いったいひとりで何してたの?」
「そうですね、撮影した写真を整理したり」
「え……」
「トラックにひかれた女子高生が異世界へ転生したら幼女だらけの世界でした、っていうWeb小説を投稿してました」
「え……」
それは何というか文芸部らしいっちゃらしいけど、何とも言えない活動だね。
っていうか珊瑚ちゃんはそんな異世界へ行きたい願望があるのかな。
「部室へ行って、私たちもそんな感じの小説を書くのかしら」
彩香ちゃんが少し困ったような顔をしていた。
そりゃそうだよね、特に何かしないといけないなんて私も考えてなかったからなぁ。
「そんなことはありませんよ、暇な時にそうしていただけですから」
「ふ~ん、じゃあ何をすればいいのかな」
茜ちゅんが聞くと、珊瑚ちゃんはふわっと笑いながら答える。
「別に何も。ただ暇なときに集まって、お茶でもしながらかわいい女の子の話でもすればいいと思います」
「いいの? そんなことしてて」
「いいんですよ、お母さまにお願いして何も言ってこないようにしてますから」
「……」
珊瑚ちゃんのお母さんって、この学校に関係ある人だったんだ。
だからこんな自由にさせてもらってるのか。
うらやましい話だけど、その恩恵を私たちも受けることができるなんてラッキーだ。
持つべきものは親友だね。
「それじゃあ放課後に文芸部室だね」
「強制参加ではありませんからね、私はだいたいいると思いますけど、暇なときに顔を出してもらうだけでいいですよ」
「あはは、わかったよ」
柑奈ちゃんとの時間もあるし、がっつり部活っていうのは遠慮したいところだね。
まあ別に入部届とか出してないから正式な部員ってわけでもないんだけど。
でも精神的な繋がりって大事だし。
共通の趣味で集まれる仲間がいるっていうのはきっと幸せなことだと思う。
なんといっても特殊な趣味だからね。
茜ちゃんはちょっと違うけど、3人も仲間がいるなんてすごい偶然なんじゃないかな。
この貴重な仲間たちを大事にしないとね。
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