第6話 ふわふわしたお嬢様
無事教室にたどり着き、そのまま中へ入っていくと、クラスメイトたちが私たちの方を見て驚きの表情を浮かべている。
「なずなちゃん、いったい何をしちゃったの!?」
「もしかしてあんた、ついにやっちゃったのか!?」
クラスメイトの声が耳に入ってくる。
なんでみんな、私が何かしたと決めつけているのだろうか。
「茜、なんて安らかな顔で死んでんだよ……」
「いやいや、死んでないから」
勝手に私の親友を殺さないで欲しいなぁ。
私は茜ちゃんをうまいこと席に座らせると、私も自分の席に戻る。
するとそこに、私よりも後に登校してきた女の子が声をかけてきた。
「なずなさん、おはようございます」
「あ、珊瑚ちゃん、おはよう」
話しかけてきたのは浜ノ宮珊瑚ちゃん。
ウェーブのかかったロングヘアが特徴のかわいい女の子。
うわさではかなりのお嬢様らしい。
浮いた話は聞かないし、なぜかあまり目立つこともない子だけど、私的には同級生の中で一番かわいいと思っている。
「あの……、なぜ高城さんは気絶していらっしゃるのでしょうか?」
「茜ちゃん? それがね、私が頬をなでたら、変な悲鳴をあげながら倒れちゃって……」
「ああ、それが原因なのですか」
「え、私がなでたのが原因なの?」
「恐らくそうでしょうね」
「わ、私にそんな謎の力が……」
「ええ、なずなさんのお力ですよ」
そう言ってニコニコと笑う珊瑚ちゃん。
正直に言ってかわいい。
ちっちゃい子が好きな私が、ここまで同い年の子をかわいいと思うなんて珍しいだろう。
これはもしかして、運命の人……なんて。
私が珊瑚ちゃんと仲良くなったのにはちゃんと理由がある。
それはなんと、珊瑚ちゃんはこう見えて私と同じ趣味の持ち主なのだ。
そう、それはつまり、珊瑚ちゃんも小さい女の子が好きということ。
人は見かけによらないもんだよね。
「うう……?」
「あ、茜ちゃん、大丈夫?」
私と珊瑚ちゃんがおしゃべりをしている間に、やっと茜ちゃんが目を覚ました。
「おはようございます、高城さん」
「え? あ、浜ノ宮さん、おはよう」
茜ちゃんは、近くにいたのが私ではなく珊瑚ちゃんだったせいか、恥ずかしそうに照れていた。
顔がほんのり赤くなっているのは、寝顔を見られて恥ずかしかったからか、それとも珊瑚ちゃんがかわいすぎるせいか。
……多分寝顔の方だろうなぁ。
だって茜ちゃんはおっぱい星人だから!
胸の小さい珊瑚ちゃんは茜ちゃんの守備範囲外だと思う。
「それよりなずなさん、私、ついに見つけてしまいましたの!」
「な、なにを?」
珊瑚ちゃんが珍しく興奮した様子で身を乗り出してくる。
いや、本当に珍しい姿だった。
いつもはお嬢様の見本のような姿しか見たことがない。
珊瑚ちゃんをこんな風にしてしまうなんて、いったい何を見つけてしまったんだ。
「私のマイラブリーエンジェルです」
「へ?」
珊瑚ちゃんはうっとりとした表情でスマホの画面を見せてくれる。
もしかして2次元の話かな?
と思ったら、そんなことはなく、それはまるで盗撮でもしたかのような写真だった。
確実に相手は写真を撮られていることに気づいてないな。
しかもそこに写っていたのは、我が妹、柑奈ちゃんだった。
これは……、どうしたものかな……。
「柑奈ちゃんじゃん」
「え? 高城さん、この子をご存知なのですか?」
「だって、なずなの妹だよ」
「……え」
まったく空気を読まなかった茜ちゃんによって、私と珊瑚ちゃんのまわりの空気は凍り付いてしまった。
でも、バレちゃあしょうがないよね。
「うん、この子は私の妹の柑奈ちゃんだよ」
「まあ、ということは私はこの子とこれっきりにならずに済むということですね!」
「うん?」
少しは私に対して気まずさのようなものを感じるのかと思ったけど、珊瑚ちゃんは思いのほか強かった。
もう人の妹を盗撮していることなど、これっぽっちも気にしていないようだ。
そんな小さなことよりも、偶然見つけた天使の手がかりをつかんだことのうれしさが大きく上回っているのだろう。
その気持ちは私にもよくわかる。
「珊瑚ちゃん」
「なんでしょう?」
「さすが、柑奈ちゃんに目をつけるなんていいセンスをしてるね」
「ありがとうございます、なずなさん」
私たちはお互いに笑顔を交わす。
「それでいいの、なずな……」
茜ちゃんはめまいでも起こしたかのように頭をおさえている。
「それじゃあ、今度家に遊びに来てよ、きっと柑奈ちゃんとも仲良くなれるから」
「本当ですか!? うれしいです!」
「私も珊瑚ちゃんが家に来てくれるのはうれしいよ」
だんだんと私の家が美少女だらけになってきてるよね。
いい感じ、いい感じだよ。
「あ、そうですわ、これを記念して、なずなさんも幼女同好会に入りませんか?」
「幼女同好会?」
「もっとオブラートに包めなかったの……」
私たちのそばで茜ちゃんがあきれたような顔をしていた。
「それって今何人くらいいるの?」
「私だけです」
「ひとりなんかい!?」
さっきまであきれていた茜ちゃんが今度はツッコミ役になっていた。
「ということは私と珊瑚ちゃんのふたりきりってことだね」
「はい、そうなります」
「もちろん入るよ、よろしくね」
「よろしくお願いします、なずなさん」
私たちはがしっと握手を交わす。
茜ちゃんはその様子をジト目で見守っていた。
「あら、あらあら?」
「どうかしたの珊瑚ちゃん?」
「なぜだかなずなさんの手に触れていると、まるで幼女と触れ合う時のような胸の高鳴りが」
「それはきっと、私たちの中にある『少女愛魂』が共鳴してるんだよ」
「まあ、それは素敵ですわね」
珊瑚ちゃんはなぜか私の手を引き、自分の頬へと当てて両手で包み込んだ。
いったい何をされているんだろう私は。
まあ珊瑚ちゃんがかわいいからいいけどね。
朝からちょっぴり幸せな時間を過ごすことができたなぁ。
でもこの時の私たちは気づいていなかったんだ。
ある危険な人物に目をつけられていることに……。
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