第4話 ひまわりちゃんとの再会

「じゃあなずな、また明日ね」

「うん、バイバイ」


 ある日の夕方。

 私はいつものように茜ちゃんと一緒に下校し、いつもの場所でお別れをした。


 そのまま家に帰り、玄関の扉を開くと見慣れない靴が置いてあった。

 柑奈ちゃんが新しい靴でも買ったのかな?


 それ以上は気にすることもなく、私はリビングへとむかう。

 そして中に入ってびっくり。

 そこにはなぜか、河川敷の公園で一緒に遊んだひまわりちゃんがいた。


「ひまわりちゃん!?」

「な、なずなさん!?」


 お互いに驚きすぎて固まった。

 なぜここにひまわりちゃんがいるの?

 もしかして私がひまわりちゃんに会いたすぎて幻でも見ているのかな。


 そうか、私は自分でも気づかないくらいにひまわりちゃんのことが好きすぎるんだな。

 今度会ったら私の部屋に招待しよう、そうしよう。


 うんうんとひとりで納得していると、後ろから柑奈ちゃんがリビングに入ってくる。


「あ、姉さん、帰ってたんだ。おかえり」

「ただいま柑奈ちゃん」


「その子はひまわりちゃんっていうの、転校してきてから一番最初に声をかけてくれたんだ」

「そうなんだ」


 よかった、目の前にいるひまわりちゃんは幻ではないらしい。

 私もそこまで病んではいないようだ。


「なずなさんって柑奈ちゃんのお姉さんだったんだ!」

「うん、すごい偶然だよね」


 たまたま河川敷の公園で出会った女の子が柑奈ちゃんのお友達だったなんて。

 世の中は狭いというか、なんというか。

 私はこれを運命の出会いと思うことにしよう。


「えっと、姉さんとひまわりちゃんは知り合いなの?」

「この前公園でたまたま一緒に遊んでたんだよ」


「え……、姉さん、ひまわりちゃんに変なことしてないよね」

「し、してないよ?」

「……」


 なにやら疑惑の視線をむけられてるけど、私は何もしてない。

 いや、写真はこっそり撮ってるけど、他は本当に遊んでいただけだ。


「本当だよ柑奈ちゃん、なずなさんにはいろいろ手取り足取り腰取り教えてもらってただけだから」

「え!?」


「なずなさんの腕に包まれて、いいにおいもして、幸せな時間だったなぁ……」

「ななな……、姉さん! いったい何を教えてたの!?」


 なにやら話がややこしいことになってるんだけど。

 というかひまわりちゃん、あれをなんでそんな変な表現にしたのかな?

 わざとやってるのかな?


 なんでそんなにうっとりした表情で別の世界に旅立ってるの?

 早く戻ってきて誤解を解いてね。


「きっと誤解してるよ柑奈ちゃん。私はただ野球を教えてただけだから」

「野球?」


「そうそう、ひまわりちゃんは私が小学生の頃に入ってた野球チームに所属してるんだって」

「そうなんだ……」


 野球という言葉で柑奈ちゃんはとりあえず納得してくれたみたいだ。

 確かに野球なら手取り足取り腰取り教えることもあるからね。

 うふふふ。


 まあ確かに、教えながら偶然にもいろんなところを触っちゃったりもしたけどね。

 本当に偶然だったし、オッケーでしょ!


「ねえねえ、なずなさんも一緒に遊ぼうよ~」

「え? でもせっかくふたりで遊んでるのにいいの?」


 いくらマイスイートエンジェルひまわりちゃんのお願いでも、私は柑奈ちゃんの邪魔をしたくはない。


「私はひまわりちゃんがそう言うならいいよ」


 しかしマイラブリーエンジェル柑奈ちゃんは私も一緒に遊ぶことを認めてくれた。

 これで私は合法的に天使ちゃんたちと甘々な時間を過ごすことできるってことだ。


「じゃあ何して遊ぶ?」

「なずなさんはゲームとかしますか?」


「そうだね~、かわいい女の子がたくさん出てくるゲームならするよ」

「へえ、じゃあそれ一緒にやりましょう!」

「え……」


 しまった、正直に話し過ぎた。

 まさかそんなゲームの話に食いついてくるなんて思わなかったよ。

 ただのツッコミ待ちだったのに。


「ひまわりちゃん、姉さんのやるゲームはマウスクリックしかしないゲームだよ」

「そうなの?」


 ひまわりちゃんはそっちのゲームを知らないのか、首を傾げながら私のことを見上げてくる。

 その角度かわいいよ!


「失礼だなぁ柑奈ちゃんは。最近は3Dキャラをカスタマイズして一緒に学園生活を送るゲームとかしてるんだから」

「あれもマウスしか使わないでしょ」


「な、なんで知ってるの!?」

「はっ、しまっ……」


 さては柑奈ちゃんも遊んでるなぁ?

 イケナイ、イケナイよ柑奈ちゃん!


「ね、姉さんは勘違いしてるよ! 私は女の子同士がイチャイチャしてるのを見てるだけで」

「私と同じことしてるね!? それよりも柑奈ちゃん、ちょっと落ち着こうか」


 この話はこれ以上続けると、闇の深いところに行ってしまいそうだからここまでで。


「ふうん、ふたりはPCでゲームするんだね? 私はだいたいテレビとスマホだけど」

「だよね~」


 まあ私みたいな高校生はあまりいないだろうなぁ。

 というか柑奈ちゃんが意外だったよ。

 まだまだ私は柑奈ちゃんのことを理解できてないんだなぁ。


「なにか3人が共通で遊んでるアプリとかないのかな?」

「私、あんまりスマホゲームしないかな」


 ひまわりちゃんがスマホの画面を見せてくるけど、そもそも私はあまりゲームをしない人だ。

 ゲーム自体は好きだけど、なかなか時間が取れなくて続かないんだよね。


「私はソロプレイしかしないから」


 柑奈ちゃんはゲーム中に人付き合いなんかしたくないタイプらしい。

 その気持ちはよくわかる。

 お友達ならともかく、見知らぬ人に気を遣ってまでゲームをしたくはないかな。


「むむむ、じゃあさ、野球ゲームしよう!」

「私、野球ゲームではずっと彼女とのハッピーエンドを見るためにプレイしてるから」

「私は自分の作った選手で埋め尽くしたチームを入れて、ペナントレースをスキップして結果だけ見てる」


「ふたりとも野球しようよ!?」


 どうやら私たちはひまわりちゃんからすると相当変わっているらしい。

 私のはともかく、柑奈ちゃんのは私からすると十分野球として楽しんでる気がするけど。


 ひまわりちゃんは顔に手を当てて天を仰ぎ、そして隣に座っていた私の膝の上に寝っ転がってきた。


「あ、なずなさんの膝枕、やわらか~い」

「もう、ひまわりちゃんはかわいいなぁ」

「えへへ」


 一瞬でイチャイチャムードに切り替わった私たちを見て、柑奈ちゃんが慌てて声をあげる。


「ゲームするんじゃなかったの!?」

「あ、そうだったねぇ」


「いつまで姉さんの膝に寝転んでるの!?」

「もうこのまま寝ちゃおうかなぁ~」


「ひまわりちゃ~ん?」


 まずい、なぜだか知らないけど、この前の茜ちゃんに続いて柑奈ちゃんまでひまわりちゃんと険悪なムードに……。


「まあまあふたりとも、冷蔵庫にケーキがあるから一緒に食べよ?」

「「ケーキ!?」」


 ケーキという魔法の言葉でふたりとも一瞬で目が輝きだした。

 ふふふ、こどもだなぁ。

 だから好きなんだけど。


 私がケーキを運んでくると、ふたりはさっそくそれを食べ始める。

 おいしそうに食べているふたりの笑顔を見ていると私も幸せだ。

 私はほほえましく思いながらふたりを眺めていると、不意にひまわりちゃんと目があった。


「なずなさんは食べないんですか?」

「うん、今はいいかな」


「あ、もしかしてダイエットしてるとか?」

「ダイエット? しないしない、私っていくら食べても太らないんだよね~」


 私の言葉を聞いてひまわりちゃんと柑奈ちゃんが固まる。

 まるで空気が凍り付いたかのようだった。


「え、なに? どうしたのかな?」


 ふたりは何も答えず、ただその視線は私の胸をロックオンしている気がした。

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