第3話 妹、柑奈ちゃん

 河原でひまわりちゃんたち小学生とキャッチボールをした後、家の近くで茜ちゃんともお別れして帰宅した。

 運動自体は日頃からなるべくするようにしているけど、キャッチボールはひさしぶりだったかも。


 軽い疲労を感じながら、家の玄関の扉を開くとちょうどリビングから妹の柑奈ちゃんが出てきたところだった。

 柑奈ちゃんはいつも通りの落ち着いた感じで私をむかえてくれる。


「あ、姉さん、おかえりなさい」

「柑奈ちゃああああああん!!」

「わわっ」


 さっきまで小学生と遊んでいたせいか、逆にいろいろと溜まってしまっていた。

 その我慢していたものを柑奈ちゃんにぶつけて抱きしめる。


「姉さん、なにするの」

「いやぁ、柑奈ちゃんがかわいいからさ」


「姉さんの方がかわいいと思うよ」

「あはは、またまたそんなこと言って~」


 柑奈ちゃんは私がかわいいと言うと、いつもそう返してくる。

 しかし私は恋人がいるわけでもないし、今まで告白されたこともない。

 だから私がかわいくないことくらいはちゃんとわかっている。


 柑奈ちゃんはやさしいからなぁ。

 ホント天使だよ~。


「それじゃあ姉さん、私はお風呂入るから」

「ああ、ちょっと待って柑奈ちゃん、私汗かいちゃったから先に入りたいなぁなんて……」


「それじゃあ姉さん、私は先にお風呂入るから」

「柑奈ちゃん、スルーしないで!」


 うえん、柑奈ちゃんがやさしくないよぉ。

 実際そこまでの汗はかいてないんだけど、おしとやかな女子高生を目指す身としては一刻も早く汗を流すべきだと思うんだ。


 それなのに柑奈ちゃんは本当に私を見捨てて、着替えなどを取りに部屋へとむかってしまう。

 こうなったら私にも考えがあるぞ。


 私は急いで自室へと戻り、自分の分の着替えとバスタオルを抱えてお風呂場にむかう。 


 扉の前まで行くと、そのむこう側で服を脱ぐ音が聞こえる。

 実に素晴らしい音ではあるが、今は気にしないふりをして中に入る。


「柑奈ちゃ~ん」

「きゃっ、姉さん何してるの?」


「一緒に入ろうと思って」

「もう……、それなら先に言って」


「まあまあ、いいじゃない」

「別にいいけど……」


 先に浴室へと入っていった柑奈ちゃんに続いて、私も制服を脱いでお風呂に入る。

 中では柑奈ちゃんが先にシャワーを浴びている。


「柑奈ちゃん、体洗ってあげようか?」

「い、いいから」

「そう?」


 柑奈ちゃんに嫌われたくないし、あんまりしつこくはしないようにしよう。

 私もシャワーを浴びて、ふたり一緒に髪と体を洗っていく。


 髪の長い私と違ってショートヘアな柑奈ちゃんは先に髪を洗い終えた。

 体を泡まみれにしていく柑奈ちゃんを見ていると、なんだかドキドキしてしまって息が苦しくなる。

 ああ、これは恋なのかもしれない。


 私が髪を洗い流していると、その間柑奈ちゃんは泡まみれのまま私の後ろで立ち尽くしていた。

 なんだか申し訳ない気もするけど、これは仕方ないことなんだよ。


 そんなことを思いながらもゆっくり髪を洗っていると、突然背中にぬるっとした感触が襲ってきた。


「ひゃっ」

「姉さんが髪を流してる間に私が体を洗ってあげる」

「あ、ありがと」


 まあ、じっと待っててもらうよりはいいか。

 そう思って、恥ずかしいけどお願いをすることにした。


 柑奈ちゃんは泡立てたボディソープで背中から洗い始める。

 タオルやスポンジも使わないので直に素手でだ。

 くすぐったい感触が背中を撫でまわして、それが気になって髪を洗う手が止まってしまう。


 そして柑奈ちゃんの手がゆっくりと背中からお腹へ移動し、そして私の胸に到達する。

 そこで何か気になるのか、柑奈ちゃんはずっと私の胸を揉み続けていた。


「か、柑奈ちゃん、何してるの?」

「おっぱいを揉んでるんだよ」


「なんで?」

「私にはないから」


「そ、そっか……」


 確かに柑奈ちゃんの胸はぺったんこだけど、それはそれでよいものだと思う。

 それよりもくすぐったいから揉むのをやめて欲しいんだけど。

 私はこの状況から逃れるために急いで髪を洗い終えることにした。


「もう大丈夫だよ柑奈ちゃん、後は自分で洗うから柑奈ちゃんは体を洗い流しちゃって」

「ここまできたら全身洗ってあげるよ?」

「や、やめて、目が怖いよ」


 私が柑奈ちゃんの入浴に突撃してきたはずなのに、なぜ私が襲われてるんだろうか。

 私ももっと押していかないとダメかなぁ……。


 柑奈ちゃんが体を流している間に、私は残りの体を洗っていく。

 そして順番にお湯の中に入っていった。


「はぅ……」


 運動の後のお風呂は身に沁みますなぁ……。


「じ~」

「うん? どうしたの柑奈ちゃん?」


 なぜか柑奈ちゃんが、お湯に浮く私の胸を凝視している。

 そんなにみられると恥ずかしいなぁ……。


「なんで私たちは姉妹なのに、こんなに大きさが違うの……?」

「胸のこと?」

「うん」


 普段から柑奈ちゃんが私の胸をチラチラ見ている気がしてたのは間違いではなかったのか。

 確かに私は大きい方だし、小学生の時でも今の柑奈ちゃんより大きかった。

 というか柑奈ちゃんはぺったんこだ。


「胸の大きさって遺伝よりも生活習慣で決まるって聞いたことがあるなぁ」

「え?」


「私たち別々に暮らしてたから大きさが違うのかもね」

「そ、そんな……、じゃあ姉さんとお母さんが大きくても私は小さいままってこと?」


「いやいや、もう一緒に暮らしてるんだし、もしかしたら大きくなるかもしれないよ?」

「そうかな……」


「私はぺったんこな柑奈ちゃんの方が好きだけどなぁ」

「姉さんは大きいからそういうことが言えるんだよ」


「あはは……」

「罰としてそっちに行きます」


「お?」


 柑奈ちゃんは私の対面からこっちに来ると、後頭部を私の胸に挟むようにもたれかかってくる。

 なかなかの甘えん坊っぷりだ。


 もしかして私が柑奈ちゃんを好きなこと以上に、柑奈ちゃんは私のことが好きなんじゃないだろうか。

 なんて、そんなわけないか。


 いまだに部屋にも入れてもらえないしね。

 一緒にお風呂には入ったんだから、少しずつ踏み込んでいくことにしよう。

 柑奈ちゃんも繊細なお年頃だろうし。


「ふぅ……、満足。私は先にあがるから」

「もうあがるの?」


「姉さんはゆっくりしてていいよ」

「うん、そうする」


 柑奈ちゃんは私の胸枕を堪能した後、ささっとお風呂場を離れていった。

 いつも一人で入ってたお風呂だけど、さっきまでふたりだったせいか少し寂しく感じる。


 また今度、柑奈ちゃんのお風呂タイムに突撃しよう。

 チラッと目をむけた脱衣所からは、すでに柑奈ちゃんの姿はなくなっていた。

 お早いお着替えだなぁ。


 もしかして部屋まで帰ってから服を着ているのだろうか。

 いや、そんなわけないか。

 普段からそんなことしてたらすでに私に発見されて大変なことになっているはずだ。


 とりあえず私もお風呂から出るとしますか。

 湯船から出て脱衣所に移動し、タオルで体をふいて着替えようとする。

 しかしここで問題が発生した。


「パンツがない……」


 おかしいなぁ、確かに持ってきたと思ったんだけど……。

 でも最近よく持って来るの忘れるしなぁ。


 この歳にして物忘れが激しいとか将来が心配になってくるね。

 とりあえず今はパンツなしで着替えておこうっと。

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