指輪には愛と優しさと悲しみがこもるの
ボクが
「あ〜あ。せっかく本物のボクトぼうやのお母さんの指輪をネタにしてみんなを混乱させようと思ったのにな」
「路人。悪ふざけもたいがいにしないと。あなたのくじが人の心の奥底にまで入り込んで『当たり』をひけるように導くのはホンモノの力なんだから。もっと人を優しく幸せにする役に立てられないかしら」
「ふっ。求図は少女趣味だなあ。そんなのはオレっちの趣味じゃないよ。わやわやでスラップスティックなドタバタ劇が好きなのさ」
「ちなみにボクトくん」
「はい」
求図さまがボクが持っている指輪を指差しておっしゃったよ。
「この指輪はホンモノよ」
「えっ」
「ほら、見てごらんなさい」
指輪をボクから受け取ってね、リングの内側を見せてくれたの。そしたらね。
「ほら。小さく『T to S』って刻印があるでしょう。これはね、あなたのお父さんの
「けっこんゆびわ・・・」
「あなたのお父さんは、『S to T』と刻印された指輪を持っているはずよ」
「求図さま」
「なにかしら」
「この指輪がおかあさんのホンモノの結婚指輪だとしたら、今ここにあるということはお母さんはこの指輪を外した、ってことなんですか?」
「そうね・・・離婚、したのよね。ふたりは」
「この間、おとうさんからそう聞きました」
「それが事実ということよ」
「でも求図さま。だったらお母さんはどこにいるんでしょうか?無事なんでしょうか」
「そうね・・・」
クルトくんが怒ったみたいな顔でこう言ったよ。
「なんだよなんだよ!神さまならチャチャっとボクトとお母さんを会わせてやれよ!」
そしたらね、路人さまがこう言い返されたの。
「おにいさんよ。神が何もしないで力を持ってるとでも思ってるのかい?」
「なんだって?」
「やれやれ・・・オレっちはなあ、最初から神ってわけじゃなかった。オレっちはもともと浅草の観音様のところのおみくじのな、番号を示す木の棒がはいった筒だったのさ」
「なんだよ、それは」
「おにいさんは浅草寺に行ったことがないのかい?あそこのおみくじはその筒をカラカラと振ると中に木の細い棒が100本ほど入っててな、漢数字で番号が書かれてるんだよ。それが小さな穴から出て番号を確認したらな。その番号の引き出しを開けるのさ。番号の数だけの小さな引き出しがあってそこにおみくじの紙がはいってるのさ。一番なら大吉、みたいな感じでな」
「なんだ、路人さまはモノだったのか」
「そうさ。オレっちは筒ではあるけど引く人間に一番ふさわしいおみくじを。その人間の将来につながるよう励ましや戒めやご注意が書かれたおみくじが出るように心を込めて番号を出してたのさ。そのオレっちの努力を観音様がいじらしく思ってくださってな。100年ほど修行を重ねたところで『くじの神』として下さったわけさ」
「修行・・・」
「そうよ。これでも路人は努力して修行してるの。神になった今もそうよ」
「神だからって努力しないでなんでもできるわけじゃない。オレっちはもっともっと人間が『本当の事実を告げるくじ』を引いて正しい努力が続けられるように促してやりたいのさ」
「わたしもそう。わたしはもともと讃岐の国にあった神社の奉納相撲のね、賞品の目録を載せるヒノキでできた小さな台だったのよ。本当にその賞品を受け取るに足る心も体も人格も慈悲に溢れた人間が勝利できるように願いを込めてたの。そうしたらその神社の神さまがわたしを賞品の神としてくださったのよ。だから残念ながら今のところ、わたしが努力して得られてる能力はこの賞品に関する能力だけなの」
不思議なこと・・・でも、路人さまののうりょくも、求図さまののうりょくもとても素晴らしいね。
「なあんだ。じゃあ、ボクトがお母さんに会えるかどうかは分からないんだ」
「いいえ」
ミコちゃんが残念そうに言ったらすぐさま求図さまは付け足されたよ。
「この指輪をボクトぼうやが手にした
ということはお母さんとのご縁がまだ深いということよ。きっと、会えるわ」
「ああ。オレっちも保証するさ。くじでその幸運を引き当てたんだよ、ぼうやは」
路人さまと求図さまはまた一瞬で消えてそれぞれのお社にもどって行かれたよ。
それでね、ボクが指輪をポケットにしまおうとしたらミチルちゃんがね。
「ちょっと待って」
っていつも持ち歩いている手芸用のポーチから茶色い紐を取り出したんだ。
「これはクラフトワークに使う革製の紐よ。ボクトくん、こうしてあげる」
指輪に革紐を通して結んでくれてね。
ペンダントみたいにしてボクの首にかけてくれたよ。
「ほら、これなら失くさないでしょう」
わあ・・・
「ミチルちゃん、ありがとう!」
「ミ、ミチル・・・」
なんだろう。ミコちゃんがミチルちゃんにもじもじしながら何か言おうとしてるよ。
「ミコ。なによ」
「そ、その・・・わたしにもその紐、ちょうだい」
「なににするのよ」
「わたしも指輪を首にかける」
「はあ?何ボクトくんとお揃いにしようとか思ってんのよ!アンタなんか5円玉でもぶら下げてりゃいいのよ!」
「なっ!?」
「ミチルちゃ〜ん。俺とお揃いのペンダントにしない?なんならいきなり結婚指輪を指にはめるのでもいいよ」
「嫌」
きれいだな、この指輪。
ボクは絶対におかあさんに会うよ。
そしてこの指輪を指につけてあげるの。
そしたらおとうさんとも、きっとなかなおりできるよ。
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