シルバーのゆびわ

 銀色の小さなゆびわを見てね、みんないっせいに言ったよ。


「誰の指輪?」


 路人ロットさまはそのゆびわを長い親指と人差し指で挟んで丸い輪の形をみんなに見せてね。


「このリングのサイズにぴったりな者が所有者だな。いや、正確に言うとこのボクトというぼうやが渡したい相手だな」

「ちょっと待って」


 ミチルちゃんが路人さまをさえぎるみたいにして言ったよ。


「ここには女子がふたりしかいない。そして結婚できる年齢に達しているのはわたしだけ。つまりこれはボクトくんからわたしへのエンゲージ・リングということね」

「ちょっとミチル!」


 こんどはミコちゃんがミチルちゃんをさえぎったよ。


「エンゲージ・リングっていうことはつまり結婚の約束・・・その約束が将来ずっと先のためのもの、ってこともあるよね」

「くっ・・・ミコ、なかなか頭が回るわね」

「当たり前だ!ほんとにミチルは油断スキもないんだから!ボクト、わたしとその、えとえと。けっ・・・」


 なんだろう、さっきとおんなじこと言ってる。


「わ、わたわたわたしとととと・・・けっ、けっこ・・・・」

「血行よくすると風邪を引きにくいよ!」

「っミチル!黙ってて!」

「なあみんな」


 クルトくんがのんびりとみんなに声をかけてくれてね。なんだかすごく落ち着く感じ。


「みんな、エンゲージ・リングとは言ってるが、それは本当に女子に贈るものなのか?」

「クルト、どういうことよ」

「ミコ、これはボクトの心の奥底から出てきた物だぞ?ボクトがそんな女の子とイチャイチャするような感じのことを考えてると思うか?」

「やらしーわね!ボクトだって男子なんだからそれぐらい思っててもおかしくないでしょ!?それにきっとそういうことを考える時は真剣に考えてるわよ。クルトと一緒にするな!」

「あの、ごめんね」


 ボクはみんなに聞いてみたよ。


「エンゲージ・リングって、なに?」


 そしたらね、路人さまが大声で笑い出されたの。


「はっはっはっはっ!これはいい!ぼうや、おもしろい!なあみなさん。もしかしたらこれは指輪ですらないかもしれないな」

「指輪じゃない?」

「ふふ。おにいさんよ。女子へ向けたものじゃないっていうのはいい線いってたかもしれないな。更に進んで指輪じゃないとしたらこういう形の物は何に使うんだろうな?」


 路人さまの質問をクルトくんがいっしょうけんめい考えてる。


「鼻輪、とか」

「ええっ!?クルト、完全に繋がったリングなのにどうやって鼻に穴開けて通すのよ!」

「ご、ごめんなさいミチルちゃん!俺がうかつでした!」


 クルトくんはミチルちゃんに叱られちゃったけど、このクイズはおもしろいよ。ボクも本気で考えよう・・・


 あっ!


「わ、輪投げじゃないかな・・・」

「ボ、ボクトくん!」


 うわっ。

 ボクもミチルちゃんに叱られるかな。


「かわいい!」

「ちょちょ、ミチルちゃん!輪投げのわけないじゃない」

「いいのよ!ボクトくんがそう言ったらそうなのかもしれないでしょ!」

「ひどいなあ・・・俺にはあんなに大声出したのにボクトには、かわいい、だもんなあ・・・」

「ねえボクト」


 さっきまで笑ってたミコちゃんが、なんだか寂しそうな顔でボクに話しかけてきたよ。


「ボクト。わたしはあなたのココロの中をなんとなく分かった気になってた。でも、小さな銀の輪っかを見て分からなくなった。ボクト、いつもあなたはココロの中で何を考えてるの?本当はわたしたちのことをどう思ってるの?」


 なんでだろう。

 ココロのずうっと深い底のところってとても大事な気がするのに、出てきたのがこのリングだもんね。

 ボクは何を考えてるんだろう。

 どうしたいんだろう。

 みんなのこと、大切に思ってるつもりなのに、出てきたのがこれ。


 なんだかみんなに申し訳ないよ。


「ふふふふ。そろそろタイムリミットだな。オレっちの口から正解を言っていいかい!」

「えっ!路人さまは知ってるんですか!?」

「おねえさんよ。一応オレっちは神だからね」


 そう路人さまはおっしゃってね。

 でも、その時に路人さまとは別の声が、なんだか上の方から聞こえたよ。


『ココロを覗くのよ』


「ちっ」


 路人さまが舌打ちをするとね、目の前にもうひとり、手のひらが大きい神様?がお出になられたよ。


 女神さまだったよ。


「何しにきた、求図グッズ!」

「路人、あなたが人を惑わすのを止めにきたのよ」

「惑わしてなどいない。オレっちはこれからこの者たちにリングの本当の使い道を教えるところだったんだ」

「へえ。どういう使い道?」

「服従させたい者の指にはめてコントロールするためのリングだと」

「ほら、やっぱり騙そうとして!このボクトくんていう男の子がそんなこと考える訳ないじゃない」

「何を言う。人間なんて心の奥の奥の闇で何を考えてるかわからんもんだぞ」

「いいわ。わたしから正解を言います。ボクトくん」

「はい、求図さま」

「アタイは賞品の神よ。路人はくじの神だけど人間の心の奥の願望を示すキーを取り出せるに過ぎない。このシルバーのリングそのものがあなたの望んでいるものじゃない。本当の賞品は別にあるわ」


 すごく難しいけどボクは分かるように一生懸命考えたよ。

 でも、考えてもわからないってことに気づいたんだ。

 だから、考えるんじゃなくて、思い出すことを一生懸命やってみたよ。

 それでね、真剣に真剣に思い出してみてね、多分こうだ、って思うことを言ってみたんだ。


「このリングをずうっと昔につけてた人がいるんですね、求図さま」

「そうよ、その通りよ。ボクトくん、もう一息、頑張って!」

「このリングをつけてた人は・・・」

「ええ・・・」

「ボクの、おかあさん!」

「正解!」

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