XIV しあわせは小さなアイテム
宝くじ
「うっわ、忙しっ!」
「クルト、待ちなさい!」
ミチルちゃんがクルトくんを呼び止めたよ。
今までに見たこの無い怒ったおかおで。
「な、なあにかな?ミチルちゃん?」
「クルト、あなたこの間から年末の準備するって言いながら毎日遊びに行ってるでしょう」
「ちゃ、ちゃんと働いてるよ。息抜きしながらだけど」
「もう・・・クルト、今度の年末はね、いつもと違うのよ」
「う、うん・・・わかってるよ。大きいもんね」
「?ねえ、ミチルちゃん、クルトくん。今年は何が違うの?」
「宝くじの金額がねえ、一等20億円だからね」
「わっ」
ボクは驚いたフリをしたけど、20おくえんのどこがすごいのかわからなかったよ。だから想像することにしてみたの。
「一等賞が学園の校舎がピカピカになることだったらいいな」
「う・・・ん?」
「それから二等賞がね、みんないっしょに世界旅行とか」
「クルト。一等を当ててボクトくんの願いを叶えてあげなさいよ」
「いやでも、学園の校舎の要は建て直し工事だよね?そんなの20億円の内かなり使ってしまうだろうな。それに、幼稚園、小中高の校舎全部直すとしたら20億円でも足りないかも」
みんなでワイワイやってたらミコちゃんも寮に遊びに来たよ。
「みんな、こんちはっ!なになに?景気悪そうな顔して」
「ミコ、反対だよ。景気が良すぎるんだよ」
「ははあ・・・クルト、散々プロモーションされてる20億円の宝くじのことでしょ?そんなのあぶく銭よ」
「ミコちゃん、すごいなあ・・・20おくえんなのに」
「ボクト、お金なんていくらあったって無駄無駄。人間の幸せはねえ、お金じゃ買えないのよ」
「ふうん。じゃあ、ミコちゃんのしあわせって?」
「そ、そりゃあねえ・・・ボクトとその・・・けっ」
「?ボクと、『けっ』ってなに?」
「ボボボ、ボクトとけっこ」
「ミコ!結構なお手前だね!」
「はあ!?何言ってんの、ミチル!?」
「ミコの冗談はお手前結構!」
「あー、もしもし?」
!?
「わあっ!」
ミチルちゃんとミコちゃんがちょっとだけ言い争いみたいな感じになってるそのふたりの間にね。
突然そのひとが現れたの。
お顔も体の大きさも足の長さも普通の男の人とおんなじなんだけどね。
手のひらが、とーっても大きいの!
「だ、誰!?」
「はいはいはい。オレっちは
「くじの神さま?」
路人さまはね、ボクたちの前で大きな手のひらでこよりをひねってね、くじをお作りになったの。それで引いてご覧?とおっしゃるの。
なんだろう。考える間もなくみんな勢いに押されて1人ずつそのくじを引くことになったよ。
「じゃ、じゃあ、俺から。それっ!」
先っぽは・・・白いよ。
「残念。ハズレだなっ」
「くっそー」
「じゃ、じゃあ、わたし行くよっ。えい!」
ミコちゃんが勢いよく引っ張ると、やっぱり白い。ハズレだね。
「ちっ・・・」
「じゃあ、わたし行くね・・・えいっ!」
ミチルちゃんも、ハズレ。
「ボクトが当たりか」
「さあ、どうかな?」
「なにっ?」
クルトくんが不思議がるのも無理ないよ。だって、くじは4本あって、一本に赤い色が塗ってあったのを最初にみんな確認してるんだもん。
「ふふふふ。一応、引いてご覧」
「はい。えい!」
あれ。
「ほらほら、ぼうや。もっと引かないと」
「えっ・・・こんなに長かったかな・・・」
くじのこよりはね、ボクが引っ張っても引っ張ってもどんどん細いこよりの部分が後から後から出てくるだけで先っぽが全然見えないよ。
「おいおい。路人さまよ。こりゃあ一体なんのマネなのさ」
「マネもなにもない、こういうくじなんだよ。ほらほらぼうや。頑張って引いて引いて」
「はい・・・ふう」
たぐってたぐって、くじの長さがもう何メートルにもなっちゃった。
「路人さま、おふざけにならないでください。ボクトくんがかわいそうです」
「いやいやいや。おねえさんよ。オレっちはふざけてなんかいないさ。ただね、オレっちのくじはそんじょそこらのまがい物とは違う。たぐってたぐって、最後の最後に引く人間が本当に心の底から願っているものが出てくるのさ。それがオレっちの当たりくじさ」
そっか。
じゃあ、頑張って引こう。
「よし、俺も手伝うぞ、ボクト」
「わたしも手伝うね、ボクトくん」
「わたしだって。ボクトの本当に欲しいものって、すごく興味あるし」
「みんな、ありがとう」
えいえいえいえい。
せっせっせっせっ。
とりゃとりゃとりゃとりゃ。
てやてやてやてや・・・・
「なあ、路人さまよ。全長何メートルなんだい?」
「さあね。それだけこのボクトっていうぼうやの心が深いってことさ」
「それって、いいことなんですか?」
「おねえさん。良くもあり悪くもある。この深さは慈悲深さでもあるが、悩みの深さでもある」
「つまり、ボクトくんはとても優しいからたくさん悩む、ってことですか?」
「聡明だね、おねえさん」
そうかなあ。
ボクはそんなに優しくも悩んだりもしてないつもりだけどなあ。
でもこれがボクのココロの深さだとしたら、自分でも自分の本当の気持ちがわからないよ。
ボクは、一体なにがほしいんだろう?
「あっ!ボクト!」
一番前の方で引っ張ってくれてるミコちゃんがなにか手応えを感じたみたい。
「もう少しだよっ!せーの!」
あっ!
「わああっ!」
みんな、くじを引っ張り抜いたらね、勢いで後ろに転んじゃった。
なぜかというと、最後に出てきたそれがとっても小さくて軽いものだったから。
だけどね、その輝きは今までに見たことがないようなピカピカ具合だったよ。
「指輪、だ・・・!」
どういうことだろ。
ボクのココロの底から欲しいものが、この小さな銀色のリングだなんて。
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