クリスマス・フィードバック・マイ・ラブ・スクール・デイズ

 クリスマスのじゅんびをしてるとね、なんだか体があたたかくなってくるような気がするよ。


 たのしい買い出し。

 パーティーは寮のしょくどうでやる予定だから、飾り付け、の前にそうじもね。

 あまりほんかくてきにやるとそうじだけで疲れちゃうから無理しないていどにね。

 レイジさんも張り切ってるよ。レイジさんはね、本当は和食のりょうていの板前さんだったんだ。だけどね、命にかかわるような大きな病気をしたときのこういしょうで味を感じることができなくなったの。

 おいしいものを食べてもその味がもうわからないんだって。

 かわいそう。

 でもレイジさんは今でも料理のたつじんだよ。

 舌で味見をすることはできないからそのかわりに食材や出汁や調味料をせいみつに分量を目で見極めて、前におぼえていた味がこうなるはずだ、って味を頭の中にうかべて毎日寮のごはんを作ってくれてるよ。

 それでほんとうにとてもおいしいんだもの!


 平日はボクとミコちゃんがレイジさんの料理を手伝ってるけど、おやすみの日になるとね、ミチルちゃんが腕をふるってくれるんだ。


 ふだんの家庭料理ともまた違う手の込んだものをつくってくれるよ。

 オムレツもね、ふつうのオムレツじゃなくって『スパニッシュ・オムレツ』っていうのを作ってくれたりとか。

 え?スパニッシュ・オムレツを知らない?

 そうだよね。ボクもミチルちゃんが作ってくれるまで知らなかったよ。

 あのね、じゃがいもを薄く切ったのとかウインナーとかを溶かした玉子に入れてまぜて・・・それでフライパンで焼くの!


 おいしいんだよ、スパニッシュ・オムレツ。


「ミチルさんには幸せな結婚をしてほしいな」


 レイジさんはいつもそう言うよ。

 そんな時、ミチルちゃんはね、どうしてかこう言うんだよ。


「ボクトくん、どう?」

「えっ。どうって?なにのこと?」

「わたしと結婚、とか」

「⚡︎⚡︎⚡︎〜!あの、ボクはまだそんなこと考えられないよ」

「そっ・・・か。わたしはボクトくんとならいいかな、ってかなり本気で思ってるよ」

「えっ。どうして」

「似たもの同士だから」


 ボクは5歳だけどその意味はわかるよ。

 それは前にミチルちゃんが『わたしに両親は居るけど居ないのと同じ』って言ってたことがそうだよ。


 でも、だから、やっぱりクリスマスなんだよね。

 外国のぎょうじかもしれないけど、それでもクリスマスはあったかい、家族のふんいきが出るんだと思うんだ。

 ずうっと、子供のころからこの寮で育ってきた思い出を思い出してみてそうだなって思うんだ。


「ボクトくん、ちょっと」


 その日はクリスマスツリーのデコレーションを買いに行く日曜日だったんだけどね。寮のみんなでショッピング・モールに出かけようとしたら園長せんせいに呼び止められたの。

 それでね、理事長せんせいは学校のない日はご自宅で過ごされるはずなんだけどね、高等部の建物の中にある理事長室に園長せんせいとボクとで入っていったらね。理事長せんせいがしつむづくえで掌をぴったり重ねて置いておられてね。

 それでうつむいておられたの。


「ボクトくん。一度深呼吸をしてくださいね」

「?はい」


 おっしゃるとおりにしたよ。

 すうっ、て息を吸い込んでね。

 それでふくしきこきゅうっていうのを前ミコちゃんが教えてくれたからおなかを、ぶくっ、てふくらませて、それではいておなかをぺったんこにしたの。


「ボクトくん。お父さんのおられる場所がわかりました」

「えっ」

「今から会いにいきましょう」


 おとうさん。


 えっ。


 おかあさんは?

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