XIII クリスマスもお祭りも準備の間がたのしいの

じゅうなんってやわらかいこと

「やりましょう、クリスマス会」

「えっ。ほんとにいいんですか?」

「ええ。寮のみんなで楽しいことをするのはとてもいいことですわ」


 園長せんせい=寮長せんせいのお許しが出たの。寮生のみんなはちょっとびっくりしたけど大喜びだよ。


「ミチルちゃん、俺と素敵なイブを過ごそうね!」

「ボクトくん、楽しいパーティーにしようね」

「ミチルちゃ〜ん。スルーしないでよー」


 ボクは園長せんせいに聞いてみたんだ。


「あの・・・ミコちゃんも呼んでいいですか?」

「ええ、構いませんわ。ですけれどもミコちゃんはご家族でイブを過ごすのではありませんこと?」


 そうだよね。

 でもいちおう聞いてみたの。


「ボクト!行きたい行きたい!お父さんとお母さんに聞いてみるよ!」

「それでね、もしよろしければミコちゃんのお父さんとお母さんもご招待すれば、って園長せんせいが言ってくださったの」

「うんうん!それで決まり!」


 ミコちゃんにはいつも寮の晩ご飯のお手伝いとかしてもらってるからね。寮生のみんなも大賛成だったよ。

 ミチルちゃんだけはなんだか変なかんじだったけど。


「でも園長せんせい。いいんですか?徳増とくまし学園はお寺もある仏教系の学校なのに」

「ええ、ミチルさん、構いませんわ。日本の仏さまはとても柔軟ですから」

「そうですか・・・じゃあ、園長せんせい。神さまはどうですか?」

「そうですわね・・・『神も仏も一骨いったい分身にして別あるにあらず』・・・これは法然上人の歌の一節ですけれどもこういう大らかさが日本という国のよいところだと思いますわ。クリスマス、OKですわ!」


 だからボクたちは準備も楽しくてね。


「クリスマスプレゼント、どうしようかな・・・」

「クルトくんは誰か上げたいひとがいるの?」

「もちろん、ミチルちゃんさ。でもクリスマス・パーティーじゃくじ引きで交換だからだれに渡せるかわからないからなあ・・・」

「そうだね。ボクはみんなにお世話になってるから誰になってもうれしいよ」

「ボクトはそういうところが自然でうらやましいよ」


 レイジさんも腕をふるってくれるんだ。それになんだかとても楽しそう。


「さあて。ちょっと普通ではお目にかかれないクリスマス・メニューを考えてるから楽しみにしておいで」

「レイジさん、ヒントだけでもダメ?」

「ふふふ。ボクトくんの頼みでもこればっかりはね」

「わあ。でも食材のお買い物とかするからその時にわかるかな」

「さあてね。とにかく、あっと驚くものにするつもりだよ」


 うーん。たのしみだなあ。


「柔軟すぎませんかね」


 みんなが準備を進めてたらね、隣の市のお寺のごじゅうしょくからそういう連絡が理事長せんせいに入ったんだって。

 寮の中だけのイベントなのにどうして知ってるんだろう、ってミチルちゃんもクルトくんも、高等部のおにいさんおねえさんたちは言ってたけど、そのごじゅうしょくはね、今までも理事長せんせいにそういうことを連絡してきてる方なんだって。


 なんだかボクとクルトくんが一緒の夢の中で見た清廉せいれんさまみたいなひとなのかな。


「で、理事長せんせいはなんてこたえたのさ?」

「ミコちゃん、理事長せんせいはこうおっしゃったんだって」

「うんうん」

「『すみませんね。わたしたちはクラゲのようにぐにゃぐにゃに柔らかいんです』って」

「ふえ・・・クラゲ?」

「うん。クラゲ」

「ぷっ。なんか水族館で見たイカ・ウェポンを思い出したよ」

「うーん。そういえばなんだか似てるかなあ」

「センスが同じ」

「そっか」


 ぐにゃぐにゃなのって、わるいことじゃないよね、きっと。

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