神さまって気まぐれなの?
「タイローさん、マリナさんはどうなったの?」
「わからない。ボクトくん、事実だけ話すよ。彼女のヨットは出港した後たった1時間でコースト・ガードに捕捉された。ほとんどのことをおじさんは知らないままだよ。わかってるのは彼女は巡視艇の停止命令を無視してそのままヨットを走らせ、最後は自分から追突してヨットが沈んだってことさ。彼女がほんとうにスパイだったのか、もしそうだとしたらギリシャ人だったのかどうかもわからない。彼女の死体は発見されてない。もしかしたら生きてるのかもしれない」
「マリナさんに会いたい?」
「ああ・・・会いたいよ。おじさんのほんとうの意味での初恋だったし、結局その後で商売をやめて日本に戻ってきてしまったし・・・その後のおじさんの人生は残りカスみたいなものさ。だからもしマリナがまだ生きてておじさんの前に現れてくれたら・・・おじさんはもう一度何かを成し遂げたいっていう気持ちを持てるかもしれない」
「タイローさん・・・」
「動くな!」
あっ。
警察のひとだよ。
ピストルを構えてる!
「両手を頭の後ろに組んでその子から離れなさい!」
「ちがうの!タイローさんはなにもしてないよ!」
「その子から離れなさい!」
タイローさんはね、一回目を閉じて、それからボクのそばから離れたよ。
最後にこう言って。
「ボクトくん、ありがとう。マリナにはとうとう会えなかったが、君と会えてよかったよ。じゃあ、さよなら」
「待って!どうするの!?ボクが警察の人にわけを話すよ!」
タイローさんにはボクの声はもう聞こえなかったんだと思う。
僕からずっと離れてからね。
上着の胸ポケットにね、手を差し込んだんだ。
パン!
音でボクが目をふさいでね、もう一度目を開けたらタイローさんが倒れてたの。
うつ伏せで、左手でお腹の辺りを押さえて。
右手にはね、ペンダントなのかな。
遠くてはっきりとは見えなかったけど、女の人のしゃしんだったよ。
マリナさんなんだろうね。
「救急へ連絡!」
「はっ!」
警察のひとたちはすぐにAEDっていう機械を出して、タイローさんを仰向けにしてね、それで手でタイローさんの胸を押してたよ。タイローさんのお腹から血が流れてた。
タイローさんはわざと胸ポケットに手を入れたとしか思えないよ。だって、わざわざその時にマリナさんの写真を見るなんて、ほんとうにお別れのつもりだったとしか思えないもの。
心臓マッサージをしてる警察の人の口をみるとね。
お六字をとなえる形だってボクにはわかったよ。
そうだよね。仕事だもんね。撃ちたくて撃つわけないもん。
じゃあ、だれがわるいの?
ねえ、だれが?
神さまにお聞きしたら、こたえてくれるのかな。
やっぱり、ボクには、わからないよ。
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