XII 神も仏もあるやなきや
神さまってしんじるものなの?
「うわあああああ!」
すごく大きな声だったからボクはびっくりしたよ。
それでね、その男の人の声は大きいだけじゃなくってなんていうか、とても急いでいるように聞こえたんだよ。
「おわああああああ!死ね!死ね死ね死ね!全員死んじまえーっ!」
駅前の広場のふんすいの前でね、その男の人はスーツを着てるんだけど、ネクタイを外して振り回しててね。
黒いかばんを地面に、バシン、って叩きつけてるの。
みんなその人を避けて通っていくよ。
どうしよう。
ボク、夕飯の買い物の途中だからほんとうは急がないといけないんだけど、でも放っとけないよ。
「あの。だいじょうぶですか?」
ボクが男の人の隣まで歩いて声をかけるとね、まわりを歩いているひとたちがなんだかとてもびっくりした顔でボクと男のひとを見るんだ。
でも誰も止まらないよ。
男のひとは大声を出してたのがちょっとだけ小さい声になって、ボクに答えてくれたの。
「だいじょうぶなわけ・・・あるかっ!ああ、でもごめんなぼうや。おじさんはなんだかとてもつかれたんだよ・・・」
「つかれたんですね。たいへんなんですね」
「・・・ぼうや。『どうして』って訊かないのかい」
「はい。だって、疲れたのはそれだけでたいへんですから」
「ふうん・・・」
おじさんとボクはベンチに並んで腰かけたよ。おじさんは膝のところに頭がくっつくぐらいに体を前にたおして、ボクと話をしてくれんだよ。
「なあぼうや。神さまっているのだろうか」
「います」
「えっ。なにもまよわないんだな。神さまを信じてるのかい?」
「いいえ。信じるとかじゃなくってほんとうにいるのを知っています。何度も、色んな神さまにお会いしました」
「そうか・・・なら、聞いてくれるかい?おじさんはほんとうにいいことが何もなかったんだ」
「・・・はい」
「大学に入ったんだけどすぐに親が病気して介護が必要になってね。ケアマネージャーさんが親身になってくれておじさんの目線で介護プランを立ててくれてね。なんとか大学は辞めずに卒業できたよ」
ちょっとだけお話がむずかしいけど、ボクはじっと聞いてたよ。
「せっかく大学を卒業できたんだから世の中の役に立つ仕事がしたいと思ってね。それとおじさんは外国を旅することにとても憧れていたから海外に出ていける仕事をと思ってね。仕込み屋、いわゆるチャンドラー、ってやつを始めたのさ」
「チャンドラー?」
「そうさ。食料品、雑貨品、はたまた本から慰みモノまで・・・おっと、君みたいな小さな子にはちょっといけない話だったな・・・つまり、おじさんはオーストラリアの港に行ってね、そこの港に世界中の国から寄港してくる船の船員さんたち相手にご要望の品物を仕入れて売る商売を始めたのさ」
「わあ・・・楽しそう!」
「そうさ!ええと・・・ぼうやの名前は?」
「ボクトです」
「ボクトくんか。おじさんは『タイロー』。外国ではみんなそう呼んだ」
「タイローさん、もっとお話しして?」
「お?そうかい?ボクトくん、聞いてくれるかい?」
「はい」
ボクはタイローさんのお話にひきこまれてしまったよ。だって、ほんとうにおもしろいんだ。
「そうだねえ・・・おもしろい話はたくさんあれど、とっておきの話をしてあげようか」
わあ。
ワクワクするよ!
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