にんげんだってちくしょうだ

「グワゥオォオォオォオンン!!」

「うわわっ!!」

「クルトくん!」


 お手に失敗したクルトくんがその大きな犬に前足でたたき飛ばされそうになったからボクとミコちゃんで、ぐいっ、ってクルトくんを思い切り引っ張って空振りさせたよ。そしたら今度はクルトくんはこう叫んだんだ。


「い、犬笛、犬笛っ!」

「クルト!そんなものここに無いし、そもそも犬笛って遠くに離れた犬を呼び寄せるものよ!しっかりしなさいよ!」


 ミチルちゃんが叱るように言うけどボクだってクルトくんと同じであまりにもこわくて叫び出したいくらいだよ。


 でも、こんな時でもミコちゃんは冷静だったよ。


「ボクト、イヌのきらいなものってなにかな?」

「えっ?うーんと・・・」


 ボクとミコちゃんはひっしになってかんがえたんだ。それで片っ端から思い浮かぶものを口に出してみたよ。


「水、暑さ、臭い匂い、火・・・」

「光、音、揺れ・・・」


 う・・・・・・ん・・・・・と・・・


「「サル!」」


 ボクとミコちゃんが声を揃えて叫んだんだ。


「お、俺、申年さるどしだ!」

「わ、わたしもっ!」


 けんえん犬猿の仲っていうもんね。きっとミチルちゃんとクルトくんのペアならこの犬に対抗できるよ!


「ガオオオオオオオォッ!」

「ダメだ!」

「火に油よっ!」

「な、ならさ!反対にイヌの好きなものはっ!?」

「ええと・・・」


 ミコちゃんが何か思い浮かんだみたい。


「ボ・・・」


 えっ。

 まさか、ボク?


「ボールっ!」

「おお、あるぞっ!」


 クルトくんがポケットに手を突っ込んで小さな野球のボールを取り出してね、


「そうれぇっ!」


 って思い切り投げたよ。


「ウワワワワンッ!♬」


 行っちゃった・・・


「き、消えた・・・」

「と、とにかく逃げよう!」


 でももうその必要はなかったよ。


「ニャニャニャニャニャーッ!」

「キャウキャウキャウーン!」


 KOCが先頭になって猫の連合会が残りの犬たちを追い払っているところだったよ。


「いやあ・・・今夜も勝ちやしたぜ」

「えっ。まさか毎晩これを繰り返すつもり?」

「ミチルさん、アッシらぁ、やりやすぜ!」

「いいえ。今すぐやめて。近所迷惑だから」


 とりあえずはほうっておいても大丈夫だろうということでしばらくはKOCたちに任せることにしたよ。


「自然の摂理、ってやつでさあ」


 そう言うKOCをボクはちょっとだけかっこいいな、って思ったけど、よく考えたらあまり意味はわからなかったね。でもね、もっとわからないことがあったよ。ミチルちゃんが素直にクルトくんに聞いてたよ。


「クルト。なんでボールなんて持ってたの?」

「いやあ・・・猫の集会見物するだけじゃ暇だろうと思ったから、ポケットに突っ込んできたんだよ。みんなでキャッチボールでもしようと思って」

「・・・・・・・」

「クルトくん、ありがとう。クルトくんの遊びゴコロのおかげでボクたち助かったよ」

「いやあ、日頃の心がけが功を奏したよ」

「なに言ってんのクルト。コドモなだけじゃない」

「ミチルちゃん、少年のようなココロを俺は忘れてないのさ」


 そういえばボクももうひとつミコちゃんに質問があったんだ。


「ミコちゃん。もしボクが犬が好きだって言ったてら、どうなってたの?」

「ん?あのさ、威抜孤路寺イヌコロじっていうお寺が海の方にあって、そこはね、飼い主に捨てられた犬のいきりょう生霊が毎晩集まってくるんだって」


 猫でよかったよ。

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