VI わるいひとたち

ミコちゃんは正義

 ボクはミコちゃんが好きだよ。

 だって、カッコいい。

 幼稚園の年長さんだからボクもミコちゃんもまだまだ背は低いし遠くへ行く時は大人のひとと一緒じゃないとほんとはいけないんだけどミコちゃんはひとりで隣の県へ行ったことだってあるんだ。

 ミコちゃんはねえ、じりつ自立してるんだよね。だからカッコいいんだ。


『おい、巫女ミコ!』

『だから漢字で呼ぶなって』

『うるさい!どうしてクソ子を俺たちと一緒にいじめないんだ』

『はっ!アンタたちみたいになりたくないからだよ』

『この!なら今日から代わりに巫女がいじめられっ子だ!』

『やれるもんならやってみなよ』


 そう言ってミコちゃんはいすを持ち上げていじめっ子たちに、ぶん!、て投げつけたんだって。

 凄いなあ・・・・

 でも、そのせいで前の幼稚園は辞めなきゃならなくなっちゃってそれで徳増幼稚園に転園してきたんだって。


「ミコちゃんは正義の味方なんだね」

「ボクト、アタシはただ怒りっぽいだけだよ」

「ううん、そんなことないよ。ミコちゃんは正しいことをするひとだよ」


 そんな風に話しながら寮のご飯の食材をスーパーで買ってたらね、ボクたちと同じぐらいの歳の男の子たちに声をかけられたんだ。


「おい!クソ巫女!オマエ、クソ巫女だろ!?」

「・・・・・・ああ、うん」

「なんだよクソ巫女!俺たちにいじめられて幼稚園辞めてあれからどんだけ経ったかな!?」

「・・・・・・・・」


 なんとなくこのやりとりだけでボクはわかったから言ってみたんだ。


「やめなよ。ミコちゃんが嫌がってるよ」

「ぷ。ミコちゃんだってよ。なんだオマエ!」

「ミコちゃんのバディ相棒だよ」

「げっ、気色わりー。クソ巫女。オマエの知り合いもやっぱりクソだな」

「ボ、ボクトはクソじゃないよ」

「いーや。クソ巫女の仲間ってだけでクソだわ。おい、オマエ。こいつがなんでクソ巫女って呼ばれてるか教えてやろうか」


 ミコちゃんが泣きそうな顔になってる。だからボクはこう言ったんだ。


「必要ないよ。キミたち、誰かに意地悪したりいじめたりしたいんならボクにするといいよ」

「なんだぁ?」

「ボ、ボクト!」


 ボクは神速しんそくさまの闘いを見たけど、やっぱりひとをなぐったりはできないよ。

 けど、代わりに殴られることならできそうだよ。


「ほれ、囲め!」


 男の子たちは3人。

 ボクをぐるん、てかこんでね。

 足でキックをしはじめたよ。


「・・・・・・」

「おい!泣けよ!」


 なんていうか、不思議だな。

 ボクはボクがこうしようって思っていじめられるのを決めたから、痛くてもなさけなくてもなんだか涙は出なかったよ。


「あ、アンタたち!やめてっ!ボクトを蹴らないで!」

「うるせー!黙ってろ、クソ巫女!」


 あっ。

 ミコちゃんも蹴られた。


「ミコちゃんを蹴らないで。ボクだけをいじめる約束だよ」

「ぷ。面白くねー。一発だけ殴らせてやるよ。ほれ、殴ってみろ!」

「やめてよっ!ボクトは誰にでも優しいんだ!一度もひとを殴ったことがないんだよ!」

「なさけねーやつ」

「ミコちゃん、先に帰ってて」

「ボクト!なに言ってんの!ねえ、アンタたち、やめてよ!お願いだからやめてよ!」

「どれ、ぼうやたち。わたしが代わりにいじめられよう」


 突然、低いゆっくりした声が聞こえたよ。


 ちょっとだけ痛いな、もうそろそろ我慢できそうにないな、って思ってたらね。スーツを着た、けれどもとても首の太い、それから足が・・・とっても短い男のひとがね、ボクたちの横にいつの間にか立ってたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る