ミコちゃんはボクのバディ

「な、なんだよオマエは!」

「ほ・ほ・ほ。わたしはあなたですよ」

「な、なに言ってんだ!」

「わからないようですね。ためしにわたしを蹴ってごらんなさい」

「な・・・」

「ほら、遠慮はいりませんよ」

「よーし」


 男の子たちの中で一番体の大きな子がね、そのスーツの人のすねを蹴ったよ。


「痛っ!」

「ほ・ほ・ほ。どうしました?」

「・・・ならこうだ!」


 あっ。今度はゲンコツで顔を。


「うわっ!痛いっ!」


 男の子は殴った手じゃなくって、自分の顔を押さえたよ。


「ほ・ほ。痛そうですね」

「ど、どうしてオマエの顔を殴ったのに俺の顔が痛くなるんだよっ!」

「言ったでしょう。わたしはあなただと。あなたが生まれ変わるとわたしになるんですよ」

「な、なに言ってんだ!」

「静かになさい」

「なっ・・・」

「よおくお聴きなさい。これが最後のチャンスです。わたしを殴り続けたならばあなたはわたしに生まれ変わります。ではなくに生まれ変わるのです」

「なっ・・・」

「時代も空間も問いません。いじめた相手そのものにあなたは生まれ変わります。その女の子をずうっといじめてきたのならば、あなたはその女の子そのものに生まれ変わります。そしてこう問いかけられるんです。『ならばお前はどうやってこの窮地を切り抜けるのかのう』と」

「う・・・」

「嘘だと思うなら今度はわたしの頭を石で割ってみるといい。即座にあなたの頭蓋骨が割れて、わたしの人生と入れ替わるでしょう」


 男の子たちは改心したかどうかわからないけれども、行ってしまったよ。


「ボクト!大丈夫!?」


 ミコちゃんがボクに抱きついてきたよ。

 あれ?

 どうして助かったのに泣くの?


 そうだ、助けてくれた男の人、大丈夫かな。


「助けてくださってありがとうございました」

「ほ・ほ・ほ。わたしは助けてなどいませんよ。ただ蹴られて殴られただけです」

「とてもできないことです」

「ほ・ほ。それならばあなたもそうしたではないですか、ボクトくん」

「え?どうしてボクの名前を?」

「ほ・ほ・ほ。あなたのことはずうっと見てますよ。それからミコちゃんも」

「・・・え。アタシの名前も?」

「ほ・ほ。あなたたちには隠す必要がないから言いましょう。剣を持った石の神さまを知っているでしょう」

「はい。神速しんそくさまです」

「わたしはその神速さまの前に立っている地蔵のひとりです」

「えっ!」

「ほら。だからこんなにずんぐりした体なんです」


 確かにどこからどこまでが体と足なのかわからなかったよ。


「でもこのスーツ姿、なかなかの変装でしょう?」

「え・・・・うーん」

「ヘンだよ」

「おや。ふたりとも正直ですね」


 ボクたちはお地蔵さまに聞いてみたんだ。どうしてひとがひとをいじめるんですか、って。そしたらこうおっしゃったよ。


「ひとをいじめちゃいけません、って教えることのできるひとが減ってしまったからですよ」

「どうして減ったんですか?」

「卑怯なことをしないと損してしまうような世の中になったからですよ」

「正直者がバカを見るということですか?」

「はい。そうです」


 ボクも、ミコちゃんも、泣きそうになったよ。なんでこんな時にボクたち生まれたのかなあ。


「でも、大丈夫。バカを見たひとが先生になればいいんですよ。それにバカを見たからこそ真剣に、本気で教えられるんですよ。ミコちゃん」

「はい」

「あなたはやさしいですね。そして、勇敢だ」

「ア、アタシはボクトに嘘ついてた。いじめられる子を助けてたって。ほんとはアタシがいじめられっ子だったんだ!」

「いいえ。ミコちゃんは正義を行なってきました。とても勇敢です。殴るひとよりも殴られるひとの方が遥かに勇敢です。何か困ったことがあったらいつでもふたり一緒に観音堂においでなさい。神速さまもわたしたち地蔵たちも、決してボクトくんとミコちゃんのふたりを見捨てたりしません。守り通します」


 ボクとミコちゃんはいつのまにか涙が引っ込んでたよ。

 それでね、お地蔵さまはとっても短いその手でボクたちに握手してくれたんだ。


 石のお地蔵さまのはずなのに、柔らかくてすごく温かかったよ。

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