Ⅳ にちようびの過ごしかた

朝の目覚め

 ボクは日曜日は早起きなんだ。

 ううん、いつも寮の朝ごはんを作る準備で平日も早起きだし日曜日は寮の食事はお休みだからほんとうは早起きする必要はないんだけどね、ボクはボクのためだけに早起きするの。


 日の出を見るんだ!


 これが日曜日のボクだけの楽しみ。

 でもねえ、今日はふたりなんだ。


「ボクトくん、高いところに登るんじゃないの?」

「違うよ。それは着いてからのお楽しみだよ。それよりミチルちゃん、こんなに早起きして大丈夫?」

「ボクトくんと一緒にいるためなら・・・いやいや、朝日を見るためならこれぐらい平気!」


 ミチルちゃんも前からボクが日曜に早起きしてるのは知ってて、いつか日の出が見たいって言ってたんだ。でも、本当に街の中をお散歩するだけみたいになるから申し訳ないなあ・・・


「あれ?神社?」

「うん。ここから行くのが一番わかりやすいんだよ」

「ふうん」


 ボクたちはまだ暗くって、でもそろそろ参拝してる人がいる境内の常夜灯の横を通ってお賽銭箱の前まで歩いて。

 ミチルちゃんはなにをおいのりしたのかな?


「ねえボクトくん。毎週こんな暗い中を歩いて来てるんでしょ?怖くない?」

「うーん。怖いんだけどでもどうでもいいっていうか」

「どうでもいい?」

「うまく言えないけどもっと怖いことがあるんだって思うとこれぐらいの怖さは別にいいかな、って」

「へえ・・・なんか、男の子、って感じだね」

「ミチルちゃんこそ怖くない?怖い人が今襲ってきてもボクじゃあまり役に立たないよ?」

「怖くない。ボクトくんは強いもの」


 強くないのに強いなんて言われると恥ずかしくなっちゃうなあ。

 ボクとミチルちゃんは境内を通って鳥居をくぐって大通りに出るよ。

 鳥居の前からねえ、まっすぐに太い道路が伸びてるんだ。デパートの横とかを通って、ずっとまっすぐな道なんだ。


「この辺が一番迫力あるんだ。それでねえ、ミチルちゃん。お日さまが出るとかえって暗くなっちゃうんだよ」

「暗く? 日食?」

「ううん。見ればわかるよ」


 ふたりでね、大通りの歩道のところに立ってね、まっすぐ前を見たんだ。


 顔を上げて。


「あっ!」

「ほらミチルちゃん。レンポウだよ」


 夜の暗さでそこにあることがわからなかったけど、向こう側で地面からお日さまが昇るとはっきりと山があることが分かるんだ。

 ボクたちの街のそのお山はね、高い頂上の山がいくつも横に並んでいて、大きな壁みたいにして目の前にあるんだよ。レンポウって言うんだって。誰かが教えてくれたよ。園長せんせいだったかな?それとも理事長せんせいだったかな?


 地面から上の方に光が行くから山の向こう側の全体がぼやっと明るくなってきて。そのままお日さまがちょうど山の背中の一番上辺りまで昇ってきた時にね。


「ボクトくん!」

「うん。真っ黒になるよ!」


 これも誰かから教えてもらったんだ。

 りょうせん稜線って言うんだね。

 太陽がレンポウのりょうせんの境目に来た時にね、りょうせんの黒い線がとっても太い、ほんとうに濃い真っ黒な線になって。


 そしたらミチルちゃんがボクの手をぎゅうって握ってきたよ。


「きれい・・・きれいだよ!」

「うん」


 ボクもそう思うよ。もうなん回もこの真っ黒な濃い線を見たけど、それでもいつ見てもほんとにきれいだもん。


 黒が目一杯の濃さで線も目一杯の太さになった後、お日さまそのもののまぶしさがボクたちの目に入ってきて、もう目を開けていられなかったよ。


 だからミチルちゃんにね、今度は振り返って見てね、って言ったんだ。


「わあっ!」


 ミチルちゃんはほんとうに驚いてくれたよ。


 振り返った僕らの見上げる空は、レンポウのりょうせんから昇りきったお日さまの光がその真向かいの空の色を青く照らし出してね。

 それでね、神社の鳥居の上の方にね、それは神社のお社のその屋根の上なんだけどね、白いお月さまがあったんだ。


 お日さまとお月さまが向かい合って。


 眩しいけどお日さまを見てるとだんだんもっと高い空に昇って行って、振り返るとお月さまが代わりに沈んで行って。


「ボクトくん、今朝はわたしが朝ごはん作ってあげるよ」

「え?ほんと?」

「うん。チーズトーストとか、どうかな。キュウリも挟んだやつ」

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