II 徳増学園
ただの園児じゃないトキャケ
年長さんのボクが居るのは『トキャケ組』
どうしてボクたちの組が『トキャケ組』っていうのかというと、理事長せんせいがトカゲのことを『トキャケ』って言うからなんだ。理事長せんせいはトカゲはトキャケ、カエル=
ごめんね、最後のはボクのおふざけだよ。
でもなんでトカゲを組の名前につけるのかな?
うーん。年長さんの他の組はね、『スイカ組』さんと『もみじ組』さん。
どれもちょっと変わってるけど『トキャケ組』がやっぱり一番変わってるよね。
「ボクト。今日はこの『トキャケ組』のシンボルマークであるトカゲを捕まえに行くわよ」
「えっ・・・ミコちゃん、トカゲなんてどこにいるの?」
「園庭にいるでしょ、そんなの」
学園の庭には花壇なんかがあるからもしかしたら居るのかもしれないけどボクは一度も見たことないなあ・・・ミコちゃんは見たことあるのかなあ・・・
「おやおや仲よしお二人さん。何かお探し?」
「あ。理事長せんせい。ボクたちトカゲを探してるんです」
「あら、そうなの?どうしてまたトキャケを?」
「ウチらのシンボルマークだから!」
「あらあらミコちゃん。シンボルマークなんていい感じですね」
「理事長せんせい。どうしてボクたちの組だけトキャケ組って少し変わった名前なんですか?」
「そうですねえ・・・知りたいですか?」
「は、はい!」
「ではお教えしましょう」
理事長せんせいは花壇のブロックのところにきれいな絹のハンカチを敷いてボクたちを座らせてくれたよ。それで、お話してくれたんだ。
「わたしがこの学園を作ろうと思ったのは『ほんとうのこと』を勉強する生徒たちを育てたかったからなんですよ」
「『ほんとうのこと』ってなんですか?」
「そうですねえ・・・たとえばミコちゃんは女の子ですよね。これはほんとうのこと?ウソのこと?」
「ほんとうのこと」
ボクとミコちゃんが声を揃えていうと理事長せんせいはにっこりしてこう言ったよ。
「では、ミコちゃんの『ココロ』は女の子のココロ?それとも男の子のココロ?」
「えっ・・・」
「どちらでしょうね?」
ボクもミコちゃんもクイズに正解したいみたいな気持ちで一生懸命考えたよ。こういう問題の出し方をする時ってたいてい予想とちがう答えになるのを知ってるからわざとむずかしい風に考えてみたんだ。相談してふたりでこう答えたよ。
「ミコちゃんのココロは女の子の時も男の子の時もあります」
「素晴らしい!正解です!」
やった!
「もっと言いますとね、ミコちゃんのココロは大人のときもあれば子供のときもあります。優しいときもあれば怖いときもあります。寂しいときもあれば嬉しいときもある。ミコちゃんは色んなココロで姿形は変わらなくても色んな人になれるんです。そういう『ほんとうのこと』をこの学園でみんなで勉強してほしいんです」
むずかしいような、でも理事長せんせいのせつめいはなんだかとても納得できるようなお話だと思ったよ。
「よろしかったら」
そう言って理事長せんせいは巾着からハンディポットを取り出してやっぱり巾着に入っていた小さいサイズの紙コップをボクたちに渡して注いでくれたの。
「こんぶ茶ですよ。サクラの花びら入りの」
「わあ」
きれいな色。季節は春じゃないけどお茶にしっかりした形で浮かんでいるサクラの花びらがとてもいい香りがしたよ。
「さて、ではなぜ『トキャケ組』なのかです。怒らないでくださいね」
「?はい」
「カッコいいから、です」
ボクもミコちゃんもちょっとの間、両手でこんぶ茶を持ったまま理事長せんせいのお顔をじっと見てたの。
でも、我慢できなくなっちゃった。
「あははははははっ!」
「ほほほ。おかしいですか?」
「はい!だって理事長せんせいって、そういうおふざけをしないと思ってました」
「あら、失礼ですね。おふざけじゃないですよ。本気でトキャケはカッコいいと思っていますよ」
理事長せんせいも笑ったよ。
そっかあ・・・ボクたちはカッコいいんだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます