月に怒鳴っちゃうミコちゃん
「ぼうや。あれが今のワシの住まいだよ」
山の神さまはケンケンパみたいにジャンプし続けて一番高くまでジャンプした時に真下を指さしたんだ。
「木じゃないんですか?」
「ああ。情けない話だが・・・あのマンションの給水塔がワシの今の寝ぐらさ」
「新しいご神木は?」
「庄屋の息子が山を売ってね。新しい所有者はやっぱり『知らないよ』って言って木をほとんど伐採してしまった」
ボクは神さまがかわいそうでしょうがなかったよ。
「エネルギーはどうやって補給してるんですか?」
「ははっ。マンションに住んでいる人間たちの生活力というか、赤子を育てたりペットの動物の赤ちゃんが生まれたりとかそういう若々しい力がかろうじて最低限の神通力を補充してくれているのだ。本来なら完全に飛べるのだが」
ボクは思わず言ったよ。
「ボクにできることはありますか?」
「・・・ぼうやは優しいな。優しいだけでなく賢いな。物事の根源がわかるな」
「ごめんなさい。少し難しいです」
「本当のことが分かる、ということだ」
ボクはもうひとつ気にかかることを聞いたよ。
「山はどうなったんですか?」
「荒れ果てて消えてしまったよ、ぼうや」
「え。山が消える?」
「そうだよ。形は残ってる。だが、あれじゃあただの土の塊だな」
ホップ・ステップ・ジャンプで神さまは見せてくれたよ。
クマもいない。
イノシシもいない。
猿も、鳥たちもいない。
ミミズやゲジゲジや蚊や蟻も。
柿の実や木苺の実はただ地面におちて腐るだけで。
木も倒れて折れた枝が罠みたいに獣道を塞いで。
小川もせき止まったところでヘドロみたいに水が腐ってドロドロで。
山全体からなんだか臭い匂いが空の上まで上ってきたよ。
「ぼうやすまなかった。ワシがもっと厳しくみんなに警告しておけば」
「え」
「ぼうややワシの新たなご神木を手配してくださった仏さまが・・・」
「え! あのお話のおお婆さまって、仏さまなんですか!?」
「そうだよ、ぼうや。ホンモノの仏が娑婆に生まれて人間だけでなく神であるワシたちのためにも骨折ってくださったのだ。ぼうややおお婆さまのようにワシらを見て話すことのできる人間はほとんどおらぬからな・・・話の通じない相手に対しては荒い方法で伝えるしかないのじゃ。山を崩落させて伝えようとも考えたが・・・ためろうてしもうたのじゃ・・・」
神さまがホップ・ステップで満月の月影のど真ん中までジャンプしたとき、ずっと下のマンションから声が聞こえたんだ。
「わああああああーっ!お父さん!お母さん!見て見て見てーっ!」
ボクは声ですぐにわかったよ。
「ミコちゃんだ!」
「なに!? ぼうやの知り合いか?」
「はい。同じトキャケ組のミコちゃんです」
ミコちゃんの声が僕らに向けてずっと続いてたよ。
「うわわわわーっ! 飛んでるよ!人が飛んでるよーっ!」
神さまは呆れたみたい。
「なんという大きな声じゃ。閻魔大王さまの声より大きいわい」
「ミコちゃんは、元気なんです」
「こらーっ!降りてこーい!降りて説明しろーっ!」
「説明しろと言っておるぞ」
「うーん。大丈夫です。ボクがいつか本当のことを話しますから」
「信じるかのう」
「え。信じるとか信じないとかじゃなくて、神さまはホンモノの神さまですから」
「なるほどのう。やはりぼうやは賢いのう」
神さまはきっと跳びたい気分だったんだね。ボクはやっぱり怖いから早く降りたかったけど、何度も何度もジャンプしてくれたよ。
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