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放課後。僕は学校の図書館で勉強をしていた。それ自体は珍しいことではない。参考書もたくさん置いてあるし、なにより静かだ。勉強には最適な空間だと思う。
つい熱中しすぎてしまい司書さんに「閉館ですよ」と声をかけられてしまった。外に出れば逢魔が時は過ぎ夜といってもいいほどの暗さ。夕飯は家政婦の人が作って置いてあるだろう。歩きながらできることもない。だから頭の中で英単語を思い返しながら最寄りの駅に向かっていった。
ふと見知った顔があった。昨日覚えたばかりの名前。顔と名前が一致する唯一のクラスメート。そう。神楽坂美姫がいた。
その神楽坂美姫は男と歩いていた。別に名前を覚えたからと言って、好意があるわけではない。どうでもいいと思い視線をずらそうとした瞬間、神楽坂美姫がいつも僕にちょっかいを出してくるときの笑顔で僕にちらっと目を向けてきた。
ぶつかる視線。顔は「ついてきて。面白いもの見せてあげる」といった感じ。なぜだか悔しくてついていってしまった。
だんだんと暗がりが多い裏路地を進んでいく。ふたりはたくさんある建物のひとつに入っていった。そこはrest only 6000円と書いてある、いわゆるラブホテルだった。
ガツンと頭を殴られたような感覚。もちろん知識はある。その手のものを見たこともある。だけどそれが自分の世界に入ってきたのは初めてで生々しい嫌な気持ち。なぜだか気持ち悪くて自分が汚れたような気がした。
一夜明け。一睡もできず、まだ気持ち悪かった。朝食をとる気にもなれずのろのろと制服に着替えて家を出る。
僕をそんな最悪な気分にさせた張本人は相変わらず1限をさらっとサボり、1限終わり寸前に登校してきて昼休みになるとどこかへ消えていった。
さすがにお腹が空いたのでいつものように学食に来ていた。といっても油ものを食べる気はしないので、かけそばというヘルシーなものを注文する。さして待つことなく出てきたものを受け取り専用の席に座ろうとしたとき机の上に紙切れが一枚置いてあったことに気が付いた。
この席を使えるのは僕だけで、ほかの誰かが使うことはあり得ない。しかし僕の知るひとりはたやすくそのルールを破るだろう。簡単に推測できてしまう。
その紙切れは封筒に入っていないが手紙のようだった。嫌な予感しかしないが開けなければ後々気になって仕方ないという状態になるのは目に見えている。昨日の思い出したくもないが頭にこびりついたそれは僕を大いに浸食していた。
「お昼食べたら校舎裏の階段のところに来てね! 来なかったらお仕置きだぞ‼」
食欲が一気に失せた。絶対ろくでもないことを企んでいるに違いない。どうして僕が振り回されなくてはいけないのか。名前を聞いてやって勘違いをしているのだろう。とにかく一度しっかりと言わなくてはならない。
そそくさとそばを食べると指定された場所へ向かう。そこは太陽の光が遮られていて、昨日のような暗がりを作っていた。しかし誰もいない。いたずらか? と思い振り返ろうとしたとき、声が聞こえた。
「え~。もうイっちゃうの? あたしまだ物足りないよ?
じゃあもうちょっと頑張ってあたしのこと満足させてくれたら、2回戦目も許しちゃうし、生で中に出させてあげる。
あっ固くなったね。あぁ……。うん……き、気持ち……いいよ。もっともっと頂戴」
それは僕の知るクラスメートで、僕の知らない行為だった。
どれくらいそのまま立っていたのだろう。いつの間にか目の前に女子が、神楽坂美姫がいた。乱れた髪と制服、かすかな香水の匂い、うっすら赤みがかった頬。そのどれもが艶めかしくて。なぜだか僕は興奮していた。その興奮がなにから来ているのかはわからない。初めて感じる感情だった。
「童貞君には刺激が強すぎたかな? これでも優しいほうなんだけど……。わざわざ神水君に見せるためにセックスしたんだからね‼ なにか感想は⁇」
どれだけ待っても僕が何も言わないことに怒ったのか
「じゃあこれでどう?」
僕は人生で初めてのキスをされた。
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