第2章神魔武闘祭~ヒロインバトル~
閑話思い出
冒険者ギルドは今日も賑わっている。
モンスターの討伐を終えてパーティーで喜びを分かち合う者。
ギルドの酒場で飲んだくれる者。
受ける依頼に悩む者。
パーティーを結成を求める者。
そして一人の男が入って来た時、冒険者ギルドから音が消えた。
その男は全身が真っ黒だった。黒いフードに黒い仮面。そして黒いローブ。そして人を寄せ付けない雰囲気を纏っている。
硬い靴音が音の消えたギルドに響く。
彼はギルドの受付に立った。
「ギルドマスターを頼む」
男性の声にしては少し高い。
受付嬢は一瞬固まったが直ぐに復活した。
「か、かしこまりました!こちらへどうぞ!」
受付嬢が案内する。
二人がいなくなった途端にギルドの人間はひそひそと話始める。
「おい、死神だぞ」
「ああ、雰囲気が違うな」
「死神はホビット族なのか?」
「多分そうだろ、子供がモンスターを討伐出きるわけない」
「ホビット族ってあの小さい種族か」
「精霊と相性がいいらしい」
「まじかよ!なら死神は精霊王の契約者だったりするのか!」
「かもしれないな」
彼は死神と呼ばれている。半年前に突然ギルドに現れた冒険者。怪しい見た目と人を寄せ付けない雰囲気から死神と呼ばれている。
***
ギルドマスター室
エルフの男と死神がギルドマスター室で対峙している。
エルフの男が口を開く。
「もうその仮面取っていいよ」
すると死神はフードを取り、仮面を外した。
そこには赤い髪を結んだ、十歳位の少年の顔があった。
「うぃー、仮面の下が痒くて大変だったわ」
「はは、それは大変だったね。アルカが探してたモノ見つかったよ」
「まじか!流石ギルマス!愛してるぜ!」
アルカの言葉を聞いてギルマスが真剣な顔で言った。
「すまない、君の愛は受け取れない。僕には妻と娘がいるんだ」
エルフの男━━ジークが言う。
「いや、本気で言った訳じゃないから!俺ノーマルだから!それとミリちゃん元気?」
ミリとは彼の娘だ。
「ああ、お陰さまで。アルカがあの時助けてくれなかったら大切な妻と娘を失うところだった」
エルフ族は皆美しく、性奴隷として取引される事が多い種族で誘拐事件も起こる。彼の妻と娘も街で誘拐される所をたまたまアルカに助けられた。
その事件以降、ギルマスの彼は高難易度の依頼をアルカに優先的に斡旋すると同時にあるモノを探していた。
「たまたまだ。それより俺だけに依頼寄越して大丈夫か?ギルマスだろ」
「大丈夫だよ。今現在この街にはSSをソロ討伐できる冒険者もパーティー討伐できる冒険者もいないから」
現在アルカがいる国は隣国との戦争に備え冒険者を集めている。
「くっだらねぇな。それよりこの国大丈夫か?俺なら国外に連れ出してやれるぞ?」
「はは、大丈夫だよ。いざとなったらエルフの国に直ぐ帰れる。気持ちだけ受け取っておこう」
「へいへい。それでいつ届く?」
「二日かなー。それより届いたらやっぱり冒険者は引退かい?」
「ああ、例のモノを買うために始めただけだ。俺はまだガキだ。ノンビリしたい」
「ただの子供がSSをソロ討伐か。気持ち悪いね」
「ひっでぇ」
二人が笑う。
「二日後に来るから頼むわ」
「わかった」
アルカは冒険者ギルドを後にした。
***
アルカは自室で魔法書を読んでいた。シアは実体化しており、アルカの背後から抱きついた。
「ねぇ、私アルカに言わなきゃいけないことがあるのよ」
「どうした?」
居住まいを正すアルカ。
「ミリちゃんって呼んでたの気に入らないわ」
「嘘だろっ!?相手子供だよ!シア嫉妬してんの!?」
幼女に嫉妬する精霊神。
「アルカには私だけを見てて欲しいわ!」
「……病気だな」
「ちょっとその言い方は酷いんじゃないかしら!それより私ご褒美が欲しいわ。一日貴方と二人きりで過ごしたいわ。勿論、実体化するのよ」
「……」
アルカは考えた。確かにここ半年シアには世話になったと。
一日実体化したシアと過ごす……。少し嫌な予感がしたアルカだが……
「わかった」
「言ったわね!約束よ!破ったら国を一つ滅ぼすわ!」
破るつもりは無いアルカだが、必ず約束を果たさないといけなくなったアルカ。
「俺は夕飯作ってくる」
アルカはある部屋を目指す。
目的の部屋に辿り着くとドアを開けて入った。
部屋ではセツナが魔法薬の調合をしていた。
「セツナ、夕飯何がいい?」
「……何でも……」
「わかった。出来たらまた呼びに来るぞ」
アルカは部屋を出た。
アルカは夕飯を作りながら考える。
「(はぁ……もう四年も経つが距離を感じるな)」
アルカはセツナと暮らして四年経ったが距離を感じていた。
「(避けられてる訳でも無関心な訳でもないんだよな)」
弟子として活動する時も、日常生活においても聞けばしっかりと答える。
「(やっぱりメドゥさんが言ってたみたいな何かのきっかけを作って自分の気持ちを素直に話すのが一番かぁ)」
メドゥとは町で知り合った商人の女性だ。
「(二日後だな)」
二日後の朝。朝食を取っている時、向かいのセツナがアルカに聞いた。
「……今日も魔法書館……?」
俺は魔法書専門の図書館の魔法書館で勉強しているとセツナに伝えて冒険者活動をしていた。
「ああ、でも今日で最後!うし、行ってくる!」
「……行ってくらっしゃい……」
***
ギルドマスター室
「やぁ、待ってたよ。これに例のモノだ」
転移した先にジークが待っていて、小さな箱をアルカに渡した。
アルカは中身を確認した。
「ありがとう、助かったギルマス」
「うん、喜んで貰えるといいね」
「ああ、ジーク元気でな。もう会うことは無いだろうし」
「そっか、それは寂しいね。君も元気でね」
「おう!」
「いやー、いい買い物したなぁ。セツナに嘘ついてたのは悪いけどこればっかはな」
机に伏しながら例のモノを眺めるアルカ。
「ねぇ、私も何か欲しいわ!セツナだけズルいわ!」
アルカに抱きつきながら抗議するシア。
「(シアにも渡したいんだけどなぁ、まだ強制送還出来ないんだよな)」
シアにも何か渡したいと思ってるアルカだが本人の見えないところで用意したいと考える。
「(こいつ実体化してなくてもずっといるからなぁ)」
シアは基本アルカにベッタリであり、精霊界に帰らない。
「(ま、未来の俺が何とかするだろ)」
アルカは未来の自分に託す事にした。
「ああ、そのうち用意する」
「ふふっ、嬉しいわ。ありがとうアルカ」
「今の時間、セツナは屋根にいるから行ってくる。付いてくるなよ!」
「わかったわ」
セツナは毎夜必ず屋根に座り空を眺めている。
「(……はぁ……今日も上手く伝えれなかった……)」
セツナもアルカとの距離に悩んでいた。こうして毎夜反省する事四年。
セツナはアルカが自分との距離を縮めようとしているのは理解出来ていた。
しかし……
「(……私にはアルカとの生活も一瞬……また彼も私を置いていくと……思ってしまう……大切な人は失いたくない……辛い……)」
セツナは半精霊になった事で寿命が存在しない。
失う辛さに耐えきれないセツナ。
昔アルカに言われた言葉を思い出す。
「(セツナって笑わないよな)」
「……私……心が死んでる……のかな……」
「心がどうしたって?」
セツナが振り向くとアルカが立っていた。
「隣座るぞ」
アルカがセツナの隣に座る。
「恥ずかしいから一回しか言わない。しっかり聞いててくれ」
アルカが一度深呼吸して話を始めた。
「俺がセツナだったらって考えてみたわ。多分セツナは失うのが辛くて大切な思い出を作らないようにしてたんだな。大切な思い出があるだけ独りになった時、耐えられない」
「俺はきっとセツナを置いて死ぬ。だからセツナがまた独りになった時に寂しくならないぐらいの思い出を二人で作れたらいいと思う」
アルカがセツナに近づき手を取った。
「だから二人で最高の思い出を作っていかないか?俺が生きてる間は必ずセツナを幸せにしてみせる」
そう言ってアルカはポケットから箱を取り出した。
「……これは……」
「俺からの贈り物」
セツナが箱を開けると雪晶石の首飾りがあった。雪晶石は魔力を内包する魔石の一種。その中でも希少な魔石で、内包する魔力が途切れる事なく循環し続けて魔力が雪の結晶のように輝く様子から雪晶石と呼ばれる。
セツナはここ半年、死神と呼ばれる冒険者が現れた噂を思い出した。その冒険者は仮面をしていて背が低く亜人種か子供とされている。
どうやらアルカは魔法書館に通ってたのではなく雪晶石のために稼いでたようだった。
「ほら、首だせよ」
「……ん……」
セツナの首にアルカが首飾りを付けた。
「……どう……?」
「うん、完璧だな。すげぇ似合ってる!」
アルカがニィッと笑う。
つられてセツナも笑った。
「なんだよ、しっかり笑えるじゃんセツナ。ほらセツナは心が死んでなんかいない」
「……うん……アルカのおかげ……」
「そ、そうか」
頬を朱に染めたアルカ。
「と、とにかく!今日が俺達の始まりだ!これからも頼むぜセツナ!」
「……うん……」
「じゃ、お休み!」
アルカは屋根から降りていった。
セツナは胸に手を当てた。
「……温かい……決めた……」
セツナは立ち上がった。
「……私はアルカと生きる……だから今を大切に生きる……これは私の誓い」
この日彼女は自分に誓った。
「……それに……幸せにして貰う……」
こうして弟子コンが爆誕した。
それから二人の距離は縮み数多くの経験を共にした。
「……ん……懐かしい夢を見た……」
今見た夢は彼女の大切な思い出。
彼女はストレージから何かを取り出した。ストレージは時空魔法の一種で時の止まった空間に物を収納する魔法。
彼女が取り出したのは小さな箱。そしてその箱を開けて中身を取り出した。
中に入ってたのは雪晶石の首飾り。
彼女はこの首飾りに強化魔法を何重にもかけて時空魔法に大切に保管していた。
「……あの時から私はアルカを……」
セツナは首飾りを付けた。
「……大丈夫……あの時の誓いは忘れてない……」
セツナはこの首飾りを見てアルカがどんな反応をするか気になり、しばらく付けて生活する事にした。
鏡の前にセツナは立って自分を見る。
「……私は今……笑えてる……幸せ……」
永い時を孤独に過ごした少女。
彼女は少年と出会い恋をした
その恋が成就するのは……彼女にとっての一瞬か
それとも彼にとっての一瞬なのか
それが分かるのはもう少し先のお話
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