挿話

 私は暗闇に立っていた。


 泣き崩れる骸を抱えた紫髪の少女が見えた。


 焼け爛れた背中、折れ曲がった腕、夥しい数の生傷から流れる血。


『覚えてる?あれがお姉ちゃんの始まり』


「ミカ……」


 隣には私をそのまま幼くした容姿の少女。


 私は長髪だが、彼女は髪を肩で切り揃えている。


 妹━━ミカエルが言った。


「貴方……ん"ッ……」


 ミカが私の口を塞いだ。


『あまり時間が無いから』


 そう言ったミカが空中に手を翳した。すると景色が切り替わった。


「これは……」


 魔神、神、悪魔と呼ばれる存在を一人で相手にする女性の姿。


『魔神、神、悪魔がお姉ちゃんを討伐する為に手を組んだ戦争』


「懐かしいわね。この時は流石に死を覚悟したわ」


『あのねぇ……お姉ちゃんが殺戮を繰り返すからだよ。よく生きてたね』


「そうね」


『……何か感じた?』


「昔の私なら何も感じなかったわね」


『……』


「でも今は違うわ。私に殺された彼等だって守りたいナニカの為に戦った。そんな彼等の生を奪った私は貴方を殺した奴等と同じ」


『……』


 思い浮かべるのは愛しい彼。


「大切な存在が出来て気づいたのよ。『守りたい』って。あの日、欲しかったのは守る力。だから私はここで変わらないといけないのよ」


『……その大切な彼に会えなくなるかもしれないよ』


「それでもよ。それに彼の前では胸を張って生きたいわ」


 ミカがハァーと長いため息をついた。


『お姉ちゃん、ごめんね。私が死ななかったらお姉ちゃんは……』


 私はミカを抱き締めた。


「ミカは悪くないわ。それに今の私がいるから今度は守れる」


『……道を外したお姉ちゃんを見るのは辛かった』


「ずっと見てたのね」


『うん』


「貴方を助けられなくてごめんなさい」


 するとミカが私の額を小突いた。


『バカ、私は後悔してない。それよりお姉ちゃんは死なないでよ』


「彼を残して死ねないわ」


『そうだね、だって彼と……』


「『シアわせになる』」


「『ふふっ……』」


 二人同時に笑った。


『お姉ちゃん、いい名前だね』


「ええ、彼からの贈り物よ」


 ミカが近づいて私の額にキスをした。


『おまじない。あそこから出られる』


「愛してるミカ。行ってくるわ」


『私も愛してるよ。行ってらっしゃい』


 ゆっくりと立ち上がり、ミカに背を向けて私は歩き出す。





 そして途中、私は立ち止まった。


「ミカはあの時、魂まで消滅した。さっき会ったミカは紛れもない私の妹だった。ミカに会わせてくれて感謝するわ」


 返事は返ってこなかった。

















 目を開けると現実に戻ってきていた。




 私は立ち上がった。









「さぁ、世界を救うわよ」






















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