第11話計画通り
ここはアスモの部屋。
現在この部屋に居るのは私とアスモそして……
「やぁ、まさか君達に助けられるとは驚いたよ!」
「私も驚いたわヴィネー。まさかエルフの元王女と契約していたなんて」
ヴィネーは正真正銘、悪魔。
「突然、姿を消したと思えば死にかけていたとは驚いたわ」
「うんうん、君が助けてくれなかったらほんとに消えてたよー。ありがとう……えっとシアだっけ?」
「ええ、そう。今はシアよ。それで何であの世界にいて、死にかけていたのかしら?」
「んー、地獄に飽きて飛び出した世界がたまたまあの世界。降り立った瞬間に魔法使に封印された。驚いたよ。この僕が負けるなんて思ってなかったからね。それで封印が綻びた時にお気に入りの少女と契約して、少女のために無理しちゃったんだよね」
悪魔は悪魔因子を活性化させることによって魔法の威力を爆発的に上昇させる。
あの世界は悪魔因子を停滞させる特殊な世界。
「成る程、それでこれからはどうするのかしら?」
「勿論、彼女の復讐に手を貸すよ」
「あまり本気を出すんじゃないわよ?」
「わかってる、わかってる。それじゃ、バイバーイ!」
「待ちなさい。まだ話は終わってないわよ」
「んー、どうしたの?」
「貴方、乗っ取ろうとしたわね?」
グニャリと私の魔力で空間が歪む。
「……ど、どうしたんだい?シア?」
「私が聞いているのよ」
「がッ……」
私はヴィネーの首を掴んだ。
「離ッ……せェェ!」
漆黒の嵐が吹き荒れた瞬間、手に力を込めた。ゴキリと音を立ててヴィネーは気絶した。
ぐったりと動かないヴィネーの首を掴んだままアスモに近づいた。
「気を失ったわ」
そう言ってアスモにヴィネーを預けた。
「折ったっすよね!?」
アスモが騒いだ。
「私のアルカを乗っ取って魔力を根こそぎ奪おうとした罰よ」
「……そ、そうっすか」
「そんな事どーでもいいわ。今から彼女達の相手をしてくるわ」
「計画に変更は?」
「無いわよ」
「気をつけて行ってくるっす」
「ええ」
***
怨嗟の森
怨嗟の森に二人の女性が立っていた。一人はレア、そして隣には目隠しを巻いたメイド服の女性。
「起動」
隣のメイド━━メドゥが結界を起動した。
「あら、見つかってしまったわ」
そして二人の前に姿を表したシア。
「閉じ込めさせてもらった」
「どうやらそのようね」
「あんたがシアか。アタシはレアだ。いつも見てるから知ってるか」
「ええそうね、顔を会わせるのは初めてだけど」
「そうだな。単刀直入に聞く、お前は何モノだ?」
「それを知ってどうするの?」
「いいから答えろ」
「精霊神よ」
「それだけじゃないだろ。アタシが気配を感じ取れない時点であんたが精霊神じゃないのは気づいてる」
「貴方もモンスターじゃないわよね?」
「さぁな」
レアが右手に槍を呼び出し、踏み込んだ。
「乱暴なのね」
刺突をシアが半歩、後ろへ下がり回避。
そしてほぼ同時に横凪ぎに繰り出された槍が空を切った。
「ここよ」
シアがレアの背後から声をかける。
「フッ!」
更に左手に槍を呼び出し、レアが肉薄する。
「はぁ……遅いわね」
シアが鬱陶しい羽虫を払うように手を払った。
ガキンッと重い音を立てて槍が弾かれた。
「なッ!?素手かよ!?」
動揺したレアはシアから視線を離してしまい……
「あら、よそ見かしら?」
「しまったッ!?」
シアが懐に踏み込み、手刀を首に振り下ろした。
バシュッっと音を立て、何かが落ちた。
「あら、避けれたのね。でも再生しないわよ?」
「はぁ……はぁ……みたいだな」
何とか回避したレアだが、左腕を切断された。
そして切断された腕は黒く変色して彼女の再生能力を封じる。
「くそッ!異常だぞ!」
「そうかしら?それより次は当てるわよ。逃げるなら今よ」
「ふざけんな、お前が誰だか分かってねぇよ。それにな……」
レアが右手の中指を立てた。
「てめぇの余裕な表情がムカつくッ!〈海神の水葬〉ォォ!」
水がシアを拘束、そして数万に及ぶ巨大な水槍が襲いかかった。
「流石に当たっただろ……」
「あら、まだ終わってないわよ?」
━━ブスッ!
「う……そだろ……ゴフッ!」
レアの背後からシアが胸を貫いた。
「貴方もう少し相手をよく見なさい。あれは私じゃ無いわよ?」
「……え?」
視界の端に見えたのは血だらけになって倒れ伏しているメドゥだった。
「ふふっ、酷い人。自分のメイドを傷つけるなんて」
「お……前ェ……!は……なせェ!」
「それは貴方が死んでからよ」
「いえ、離して頂きます」
二人の頭上から降ってきた影がシアを森へ蹴り飛ばした。
シアは木を薙ぎ倒しながら森に消えていった。
「……相変わらず、バカ力……だな」
「それより撤退ですよ、汚嬢様。神薬も一回使ってしまいました。あれには我々も勝てません。暫くは大人しくしましょう」
メドゥに瓶を渡され、レアが飲み干すと胸の傷が塞がる。
「ぷはッ……ふざけんな。アイツの正体も分かってねぇよ。それに……」
森の奥からシアが歩いてきた。彼女の足取りは軽く、無傷。
「逃がすつもりは無いようだッ!
胸の首飾りが三叉の槍へ変化した。
「全力は出せねぇが一撃で決めさせてもらうッ!〈海神の閃光〉!」
青い閃光が地面を抉りながらシアに迫った。
「〈失楽の
世界が切り替わった。
青い閃光は切り替わりと共に消滅。
灰色の空、紅い月、一面に咲き誇る赤い花
「おいおい、嘘だろ。別世界じゃねぇか」
「まさかッ!?汚嬢様ッ!本気で魔法をこの世界にぶつけてくださいッ!」
緊迫した様子のメイドの姿を見てレアが決断した。
「〈神化〉!」
そして━━
「嘘……だろ」
何も起こらなかった。
「この世界では私がルールなの」
シアが二人の目の前に立った。
「ほら、私に触れてみなさい」
「ぶっ殺すッ!」
レアの槍をシアは回避しなかった。
「無理よ」
「……完敗だ。ただメドゥだけは見逃してくれ」
レアは槍を消した。
槍はシアをすり抜けた。そして自分がどう足掻いても勝てない現状を悟ったレアは矛を納めた。
「貴方を殺せば、戦争になるわ。だから殺さない。さよなら、家出中のお嬢さん」
「なッ!?」
パチンッとシアが指を鳴らすと悪魔の彫刻が施された扉が出現。
扉が開き、二人を吸い込んだ。
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