第9話涙のワケ
目が覚めたらシアの顔が目の前にあった。
━━「実体化してくれないかしら?」
「〈来い・シア〉」
シアが俺の手を取って、自分の頬に当てさせる。
スベスベで綺麗な肌だな。
「……何やってんだ?」
「どう?」
「綺麗な肌だな」
「そうよ!気を使ってるのよ!」
精霊って肌は衰えるのか……?
機嫌を損ねそうだから絶対言わない。
「私って乙女よね?」
「何だ突然、乙女だろ?」
「うんうん、そうよね。ふっ、やっぱり私は乙女よ!」
「俺の方が衰えるだろうから少し辛いな」
つい口から出てしまった。
「う"ッ……」
突然抱き締められた。
「……心配しないで大丈夫よ。ずっと私は貴方のそばにいるわ。それにどんなアルカも私は愛してる。今も、そしてこれからもよ」
変な心配をさせてしまった。
「すまん、変な事言ったな」
「ふふっ、些細な事は気にしないの。今を大切に生きなさい」
確かに先の問題を考えるより、今を生きるのが一番だ。
なら早速、行動に移すべきだな。
「そうだな。シア、話がある」
「何かしら?」
シアは抱き締めた状態で顔を上げた。
「俺はもうガキじゃない。今まで後回しにしてきた問題が一つある」
「何かしら?」
「シアの事だ」
首を傾げるシアに続けて言った。
「シアは俺を一人の男として愛してるんだろ?」
「う"ッ……そ、そうよ……」
シアは頬を朱に染めながら頷いた。
「俺もシアを愛している。心の底からだ。この感情に偽りは無い。だがその愛が一人の女性としてか、家族の愛かは分からない」
「……」
「だから答えを見つけたい。こんな情けない俺だが……」
一呼吸置いて言った。
「俺とデートしてくれないか?」
「……う……そ……?」
シアが眼を見開き、口を閉口させながら固まった。
涙がシアの頬を伝う。
「……どれだけッ……どれだけその言葉を待ってたと思うのよッ……!断れるハズ……ないじゃないッ!」
俺の胸で泣きじゃくるシア。
シアが泣き止むのを静かに待った。
目が覚めると俺は横になっていた。
訳が分からないまま俺はベッドから身を起こした。
……ん?
「……う……嘘だろ……?」
俺は生まれたままの姿だった。
ゆっくりと首を横に動かし隣を見た。
そこには━━
生まれたままの姿のシアがスヤスヤと眠っていた。
「ふぁッ!?」
あれから何があったのだろうか。
「(シアを誘ってそれから……ダメだ。思い出せない)」
自分の記憶を辿っていると横でシアが動いた。
「……んッ……」
シアが寝返りを打った。
そしてぷるんッと揺れる二つの大きなスライム。
「……」
シアスライムを脳内にしっかりと記憶してから俺は横になった。
「(これは本当に夢か?)」
俺は横のシアに声をかけた。
「シア起きてくれ」
「……んッ……あら、おはようアルカ。先に起きてたのね」
「おいシア!これは夢か!?」
「ふふっ、現実よ。ほら……」
クスクスと笑ったシアが俺の手を引っ張った。
俺の手に柔らかいシアスライムの感触が伝わった。
そして手におさまらない大きなシアスライムの弾力に暫く夢中になった。
「どうかしら?」
「……癒サレマス」
「気に入ってもらえて嬉しいわ。ねぇ、アルカ」
シアが俺の頬に手を添え、ゆっくりと顔が近づいてきて━━
「はッ!?」
気がついたら自室だった。外は夜。ベッドの上でもない。
「夢だったな」
やはり先程の光景は夢だったに違いない。
シアが腕の中で規則正しい寝息をたてながら眠っていた。
シアを優しく抱えて、ベッドに寝かせた。
先程の感触を思いだし、視線がシアスライムに向いてしまう。
「はぁ……落ち着け。外の空気吸ってから、セツナにセレーナの事でも聞きに行くか」
扉を開けようとした時、服が濡れている事に気がついた。
「シアの涙か……」
思えば、シアが泣いたのを見たのは初めてだった。
「必ず答えを出さないといけないな」
俺は決心して自室を後にした。
***
セツナの話で分かったことは三つ。
・アルフはセレーナの生存の情報を掴んでいない。
・前学院長が偶然、満身創痍のセレーナを保護。
・現在は二人暮らし。
「はぁ……自衛が出来ないのが辛いだろうな」
部屋に戻るとシアはいなかった。
「あいつ、起きたのか」
俺はベッドに横になった。
「最近、シアの姿が消えることが多いな」
セレーナの事で動いているのだろうな。
「ん……?気のせいか……」
枕元が少し湿っていたような気がしたが、思考を切り替えた。
「いい場所探さないとな」
シアが喜びそうな場所を考えながら眠った。
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