第7話1日の終わり

 無視するか……


「そこの赤髪!呼んでいるのが聞こえないのですか!赤髪の清掃員!」


 俺に用事があるらしい。しかし俺はこれから昼食だ。


 イケメンで腹は膨れない。


「何だ?俺は今から昼食だ。早く要件を言ってくれないか?」

「そんな下らない理由で急かすと言うのですか!?この私が話かけているのですよ!」


 どの私だよ。でも何処かで見たことがあるような……


 ━━「貴方に魔法を撃った精霊王の契約者よ」


 精霊王の契約者様がどの面下げて来たのだろうか?


「無知な貴方に教えて上げましょう!私の名前はアイザック・アトランス!代々精霊王を受け継ぐアトランス家の現当主であり、学院長の一番弟子です!」


 一番弟子……?セツナの?

 セツナは俺以外に弟子はいない。

 つまり目の前の奴が弟子な事実などない。


 自称弟子アイザックとか痛いな。


 アトランス家は確か公爵家。

 俺とあまり年が離れてないように見える。

 それで当主なのだから優秀なのであろう。


『アトランス家当主は自称一番弟子の痛い奴』


 面白いから話ぐらい聞いてやろう。


「当主様が何のご用で?」

「単刀直入に言いましょう!学院長の元から去りなさい!弟子は私だけでいいのです!貴方のような清掃員が学院長の弟子!?ふざけないでください!どうせ清掃員になったのも落ちこぼれだからでしょう!恥ずかしく無いのですか!」


 転移したからあの後どうなったか知らないが、セツナは俺達の関係を説明したようだな。


 確かに清掃員は一般人だ。

 しかし、普通なら気づくハズだ。


『自分達が魔法を撃った清掃員が無傷』な事にな。


 俺なら警戒する。


 多分、セツナが助けたと解釈したんだろうけどな。

 アイザッくん大したことないな。

 精霊王の契約者って聞いたから期待したが、視野が狭い。


「そう思うのは勝手だし、俺の悪口は幾らでも言っていい。だがセツナに言うなよ。話は終わりだ」

「ふざけるのはいい加減にしてください!」


 突然、腕を振った。




 その先には━━




 ガシャ━━ンッ!



 俺達の親子丼。



 チャララーン♪(某必殺の人効果音)



 こいつは最低だな。どれだけの人がこの料理に関わってると思ってるんだ?

 食堂のおばあちゃんが作っただけじゃない。


 この料理は多くの人の努力が詰まっているッ!


 この人でなしいィィィィィィィィィィ!


 心の中で叫び口を開こうとした時━━



「学院長!」


 誰かが叫んだ。生徒がザワザワとし始め、俺も食堂の入り口に目を向けた。



 そこには長い銀髪を揺らしながら眠そうに食堂に入って来るセツナの姿があった。



 そしてセツナと目が合った。


 すると先程の眠そうな表情が吹っ飛び、小走りで寄ってきた。


「……アルカ……」


 抱きつこうとしたセツナをヒラリと避ける。


「……むぅ……」


 ぷくっと頬を膨らませて怒るセツナを無視してアイザックに言った。


「帰ったほうがいいぞ」


 するとアイザックは額に青筋を浮かべ怒鳴る。


「貴方は黙ってください!」


 アイザックがセツナに近づく。

 俺は忠告してやったんだけどな。


「学院長!貴方のような素晴らしい賢者にこの男は弟子に相応しくありません!即刻破門にしたほうがよろしいかと!貴方の弟子は1人でいいハズです!」


 すると━━


「……あ"……?」

「やめろ。学院が更地になるぞ」


 俺は咄嗟にセツナの腕を掴んだ。


 セツナの腕には複雑な彫刻が施された獅子を模した黄金の籠手が装着されていた。


「……こいつは……アルカをッ……」

「相手にするな。〈十二星の獅子レオ〉も消せ。周りを見ろ」


 アイザックも含めた食堂の人間はセツナの殺気に耐えれず、気絶していた。


 〈十二星の獅子レオ〉を仕舞ったセツナが下に目を向けて言った。



「……親子丼が落ちてる……酷い……」


 俺が起きたことを話した。


 するとセツナが再びアイザッくんに近づいた。


「ストップ!今度は杖を出すな!そいつ死ぬから」

「……アルカ……こいつ殺していい……?」

「冗談やめろ」


 セツナが渋々、杖を仕舞った。


「……忘れてた……午後はアルカは帰っていい……今日の仕事は修練場だけ……」

「了解。帰るわ。仕事頑張れよ。あとコイツらどうする?」

「……今日の記憶……消しておく……」

「任せた」


 食堂の人間を任せて俺は学院を後にした。






 ***




 怨嗟の森・セツナ邸




 俺は家に転移した。


 ここは怨嗟の森と呼ばれるている。

 名前は物騒だが体したことない

 森にはSSモンスターが当たり前に彷徨いているが、SSモンスターは人間が脅威にならないから基本温厚。

 そんなSSモンスターだが手を出すアホがいる。

 主に素材が目的の者、SSモンスター討伐の名誉。

 SSモンスターを倒すと国から膨大な報奨と貴族位が与えられるらしい。

 興味が無いから詳しい内容は分からない。とにかく色々な理由で無謀なアホが来てSSモンスターに殺される。

 こうして怨嗟の森って物騒な名前で呼ばれるようになった。

 俺達はSSモンスターが脅威にならない。

 セツナが人と関わりたくないからここに住んでいる。

 この森にはEXモンスターが住んでいる。

 そして彼女はガキの頃からの知り合いだ。この世界が生まれた時から存在しているらしい。


「おーい!さっさと出てこい!アタシは腹が減った!何か作れ!」


 外から声がした。俺は家の外に出る。


「ったく、おせぇよ。素材は持ってきたから何か作ってくれよ」


 瑠璃色の長髪を無造作に束ね、目尻の上がった目元に青みがかった黒い瞳。小麦色の肌にしなやかな肢体。服装は……全裸。全裸で仁王立ちしている。

 そして豊かな胸部が腕を組む事で強調される。

 紳士な俺は血涙を流しながら言った。


「服を着ろレア。着たら作ってやる。あと素材持ってきたじゃなくて、持ってこさせたんだろ。この前、雲じいが人使い荒いって嘆いてたぞ」


 雲じいとは雲の更に上を飛んでいるSSSモンスターの人語を解する龍だ。


「はいはい、着りゃいんだろ」


 レアが指を鳴らして一瞬で着替えた。

 深いスリットの入った法衣のような服に、三叉の槍の首飾り。


「ほら、そんなことより今日は鬼蟹だ!雲じいに取ってこさせた。上手く調理してくれよ」


 鬼蟹だとッ!

 鬼蟹は北の島に住み着いているSSSモンスター『羅刹蟹』と呼ばれている馬鹿デカイモンスターだ。

 そして奴の子分が鬼蟹だ。

 物凄く旨いが、滅多に食べられない。

 羅刹蟹は魔法無効の結界を島全体に張っている。近くに転移が出来ないから現地に何日もかけて向かわないといけない。

 そして鬼蟹はSSモンスターだから狩れる人間が殆んどいない。

 だから旨いと世間に知られていない。


「前言撤回。雲じい頑張れ」


 雲じいの嘆きと鬼蟹なら鬼蟹を選ぶな。









 飯を食った後レアは森に帰って行った。


「眠いな。セツナが帰ってくるまで寝るか」


 シアの姿が見えないのが気になったが襲ってくる睡魔に抗えず、俺は眠った。




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