第6話美少女が困ってるなら何とかしたい

 

 ━━これは……夢ですね



 幼いエルフの少女が罵詈雑言の嵐を浴びている。


 少女の肌を魔法が切り裂き、悲鳴を上げる少女をエルフ達は嬉々として攻撃する。



 ━━憎い





 血溜まりに倒れ伏す少女





 ━━赦せない





 剣を持ったエルフが少女に近づく





 ━━必ず






 少女に剣を振り下ろした







 ━━復讐する














「ここは……」


 暗闇にエルフの少女は立っていた。


 彼女は先程の光景を思い出す。


「……趣味が悪い」


 彼女はギリッと奥歯を噛み鳴らした。



 そして突然女性の声が響いた。


『目が覚めたら君のそばに青年がいる。青年に君の過去を話して。彼なら何とか出来る」

「貴方は誰です?私の過去を知っているのですか?答えてください!」


 エルフの少女の声だけが暗闇に響いた。






 ***




「起きたな」


 エルフの美少女が目を覚ました。彼女が俺を見て大きく目を見開き、ズイッと顔を寄せてきた。


「どうした?」

「貴方が青年ですね」


 ……は?


「貴方が青年ですか?」


 意味がわからない。頭の打ち所が悪かったのだろうか?


「意味がわからない」

「今から私の過去を話します」


 急に過去を話すと言われてどうしろと?

 人の話を聞いてないな。霊体化しているシアに聞いた。


「(シア!話が通じない!)」


 ━━「そうね、聞いてあげなさい」


 ナンダッテ?


「(おい!嫉妬はどうした!)」


 ━━「いいから、聞いてあげなさい」


 幼女に嫉妬するシアが許可だと!?


「(いいのか?)」


 ━━「しつこいわ!」


 理不尽すぎる。


「わかった。話せ」


 彼女は一礼して話を始めた。






 ***

 

 


 私━━セレーナはアルフ・ユグドラシルの娘です。


 今から話すのはエルフの国『ユグドラシル』で数年前に起こった出来事。


 ユグドラシルの王族は『管理者』と呼ばれています。


 管理者には役目があります。


 それが『呪木殿』の管理。


 遥か昔、ユグドラシル初代国王モーメントが強大な闇精霊を封印しました。


 そのことからエルフは闇精霊の契約者を『忌み子』と呼びます。

 同族に忌み子が現れるとユグドラシルから追放します。


 そして初代国王が闇精霊を封印した場所こそが『呪木殿』です。


 幼少期に呪木殿に迷い込んでしまった私は、王族しか開けれない扉を無意識に開けてしまい一人の女性と出会いました。


 その女性こそが封印されていた闇精霊です。


 幼かった私は闇精霊とは知らず彼女に語りかけました。


 彼女は私を無視。


 幼い私は意地になって毎日彼女の元へ訪れ、語りかけました。


 そんな生活を続けて二年。


 十歳になった私は彼女をセリーナ姉様と呼び、慕っていました。


 彼女も心を開いてくれていたと思います。



 エルフの王族は十歳になると精霊契約の儀を行います。


 精霊契約の儀とはユグドラシルの国民が見守る中、風の精霊を呼び出して契約することです。


 そして精霊契約の儀に呼び出されたのは━━ セリーナ姉様でした。


 そこで初めて、私はセリーナ姉様が封印された闇精霊と知りました。


 例えセリーナ姉様が封印されていた闇精霊であっても、彼女と契約したかった。


 だから私はセリーナ姉様と契約をしました。


 そして封印された闇精霊との契約した私はその場で処刑命令が下されました。






 ***




「これが私の過去です」

「よく無事だったな」

「セリーナ姉様のおかげです」

「今も狙われているのか?」

「わかりません」

「それで解決してほしい事とは?」

 彼女が腕を捲り、両腕をこちらに見せた。

 そこには蛇の様な痣があった。


 ━━「精霊紋ね」


 シアが呟いた。


 精霊紋とは精霊王の契約者に刻まれている痣だ。

 俺も精霊紋が背中にある。


「消えかけているな」


 彼女の精霊紋が薄くなり、消えかかっていた。


「あの日からです」

「呼べないのか?」

「はい。魔力を込めても吸われるだけです」


 魔力不足以外で精霊を呼べないのは聞いた事がないな。


「成る程。それで俺が解決できるって言ったのは何故だ?俺はただの清掃員だ」


 そう言って彼女に清掃員のバッジを見せた。


「……実は私、少し前に意識が戻っていました」


 ま、まさか俺が魔法を使っていた所を見たのか……


「俺が炎馬帝を倒したのを見たのか!?」

「やはり普通の清掃員の方ではないんですね」


 くっ、誘導されたッ!


「気絶していた時に声がしました」

「声?」

「目が覚めたら目の前の青年を頼れと私に告げました」


 信じ難い話だが嘘だとは思わない。


「何年も調べましたが……手がかりは何一つ見つかりませんでした。もしセリーナ姉様に何かあったら私は……」

 彼女が俯いた。


 ━━「アルカ、助けるわよ」


 どういう風の吹き回しかシアが言った。


「(お前どうした?お前は本物か?)」


 ━━「本物よ!少し気になっただけ。でも今は無理ね」


「(シアでも無理なのか?)」


 ━━「今すぐ出来ないだけよ!」


「(わかった)」


 俺は彼女に言った。


「何とか出来るかもしれない」

「本当ですかッ!?」


 彼女が首元を掴んでガクガクと揺さぶった。


「……やめてくれ……」

「あッ……すみません。興奮してしまいました」

「大丈夫だ」

「本当にありがとうございます。私に何か出来る事は?」


 ━━「ないわよ。さっさと送りなさい」


「特に無いな。学院に戻るぞ」






 ***




 セレーナを学院に送った後、俺は学院の中庭の椅子に座った。


「(何故セレーナは風の精霊を呼び出せなかったんだ?)」


 ━━「精霊は自分の相性の良い契約者に引き寄せられるのよ。だから封印も解けた。あのエルフの少女が闇精霊と出会ってなければ風の精霊が来たハズよ。闇精霊との繋がりの方が強かったって事ね」


「(成る程な。精霊紋が消えかけているのは?)」


 ━━「彼女の精霊が休眠状態だからよ」


「(休眠状態?セツナにもそんな事は教えられてないな)」


 俺が唸るとシアが上機嫌に説明を始めた。


 ━━「ふふっ、あの根暗に勝ったわ。説明するわ。休眠状態は精霊の霊核、心臓みたいな物。霊核は膨大な魔力の結晶。それを何らかの原因で損傷して精霊が活動を停止せざるを得なくなることね。でも外的要因で精霊王の霊核を損傷させるなんて芸当が可能な人間は滅多にいないわね。なら精霊自信が自分の霊核を使って何かを成したとしか考えられないわね。つまり契約者に何らかの事件が起こって不足した魔力を自分の霊核で補った結果、損傷が激しく活動出来なくなったってことね」


「どうやったら召喚出来るようになる?」


 ━━「基本、自然回復を待つしかないわ。あの様子だと三百年ぐらいね」


 人なら寿命でポックリ死んでるな。


「いつ治すんだ?」


 ━━「準備が整ったら言うわ」


「了解。俺は昼を食べに行く」



 俺は食堂に向かって歩きだした。






 ***




 イリアーナ魔法学院・食堂




 俺はモテ期が来たかもしれん。

 セツナとシアは除外だ。

 二人の好感度は限界を越えているからな。


 俺は食堂の生徒全員の視線を一人占めにしている。

 目を吊り上げ、死を感じる程の熱い視線だ。


「皆の視線が熱いな」

「貴方が向けられてるのは殺気よ。熱い視線じゃないわ」


 セツナが絶賛する昼食を食べに、食堂にやってきた。

 俺を奴等は舐めている。

 SSモンスターに囲まれて飯を食ってきた俺にひよっこの殺気が効くわけがない。

 だから昼食は諦めない。


「おばちゃん、オススメ何?」

「アッハッハッ、この雰囲気であんた食べてくのかい?私は構わんけどね。今日はクレイジー・バードの親子丼がオススメだよ」


 何ッ!?クレイジー・バードが学院で食べられるのかッ!


 奴は高級だ。流石、名門。


「それ1つ。すまん、やっぱ2つ」

「あいよー、出来たら点滅するから待ってな」

「これは?」

「これは呼び札って言って、料理が出来たらこれが点滅すんだよ」

「へぇ、便利だな」


 俺は空いてる席に座った。殺気を放つだけで手は出してこない様だ。


 ━━「さっき、貴方自分の分しか頼まなかったわね?」


 シアが怒る。


「(いや、お前食べるの?食事必要無いよね?)」


 ━━「ふふっ、貴方が後悔しないためよ。見なさい!」


 シアを見るといつものドレスではなかった。

 青と黒を基調とした制服。紫髪を後頭部にまとめ垂らし、腰のくびれが彼女の双丘を強調している。

 そしてスカートが短いが見えない。

 これが精霊神の加護かッ!


 ━━「どうかしら?」


 一緒に通いたいですッ!


「(シアがいたら勉強に支障をきたすな)」


 ━━「どういうこと?」


「(視線がシアから離せなくなるからな)」


 俺は内心ニヤニヤとしながらシアの反応を待つ。たまには言い返さないとな。


 すると━━


 ━━「……な……そ、そうなのね……」


 耳まで真っ赤にしたシアが自分の髪を指で弄びながら横を向いた。


 ドキッと心臓が高鳴った。


 俺がダメージ負ってどうすんだ?


 自分にツッコミながら理性を葉巻にしてポイした。


 おのれ精霊神!此度は引き分けだッ!


 ━━「……に、認識阻害の結界を張りなさい……そ、それなら実体化できるわ」


 普通のシアに戻ってくれ!さっきポイした理性がローリングしながら戻ってくる。


 すると━━


 呼び札が点滅した。


「(て、点滅したから行ってくる)」


 良いタイミングだ、おばあちゃん!


「ほら、持ってきな!」


 蓋がされた親子丼を受け取った俺は席に向かった。

 シアは平常モードだった。


「(結界張って食べるか)」


 ━━「ええ、楽しみよ!」


「赤髪!」


 俺が結界を張ろうとした時、誰かが声を上げた。


 肩で切り揃えた水色の髪。メガネの奥には眼球が落ちそうな程に開かれた双眸。


 イライラオーラ全開のイケメンが仁王立ちしていた。






 

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