第21話「邁進する若人たち」

 新メンバー・ジョシュア先輩を加え、私たちのチームはますます勢いづいた。

 まず何と言ってもコーチ指南役として働いてくれるのがありがたい。もっぱらコニー君から魔法を教わり、カナタ君の提案で体力作りっぽいことをやってきた私たちだが、ジョシュア先輩――先輩は有名軍閥の家柄である――の知見によって後者が本格化したのは大きい。


「さぁカナタ、もっと打ち込んでくるんだ! 強く、速く、鋭く……幾度でもだ。その程度ではドラゴンどころか大鬼オーガさえ斬れないぞ!」


「ッ……おっす!! 次、よろしくお願いします!!」


 てかジョシュア先輩、むっちゃスパルタ……というよりは、常人と基準点が違うみたいなとこある。もしかしてあの人めちゃくちゃ強くない?

 カナタ君も騎士志望だけあって運動神経は相当なものだが、ジョシュア先輩はまた一つレベルが違う気がする。カナタ君が1歩踏み込む間に2歩動いているし、1度木剣を振るう間に3度は反撃している。正直かなり大人げない。


「……、はぁ……はっ……ふぅッ……」


「だ……大丈夫? コニー君……」


「はぁ……っ、……そう、だな。予想してはいたが、ジョシュアさんと肩を並べて戦うとなれば……この水準の訓練が要求される……。同じ前衛として、あの領域での攻防を……、あれに喰らいつけるだけの体力を捻出ねんしゅつできるカナタの根気は……業腹ながら、認めざるを得ない」


 ―――ちなみに、それこそジョシュア先輩のような例外も居るには居るけれど、一般的に魔術師ウィザードという職業人ジョブは基礎体力に優れない。

 これはゲーム的なバランス調整の結果というわけではなく、この世界において生命力HP魔力MPがほぼ等しい存在であることが原因だ。

 超常の神秘を司る魔力とは本来、人体にとって余計あるいは不自然な能力パラメータであると同時に、独立した機能でもない。

 要は『生命力』という大きな器の中に『魔力』という小さな器が内包されており、それでいて器全体に入る中身生命力なのだ。

 だから、魔力が多い人ほど=基礎体力の容量を圧迫していることになる。


「……。認識を改めると言えば……君たちもだな。性別も経験値も、チームでの役割も違うんだ。僕たちと同量の訓練は指示されていないだろうが……息が戻るのが早い。何か秘密があるのか?」


「さぁ? 特に何も。ねー、ノエル様」


「うん。きっとジョシュアさんの見立てが良いんだよ。身体は疲れるけど、辛くなることはないもん」


「そーそー。若いって良いよね……いやマジで……」


 言いつつ、ジョシュア先輩が調達してきたドリンクを飲み干す。

 サイジョウさんの件で学園地下の迷宮ダンジョンに行った時、アルト先生にもらった回復薬ヒールポットと同じブランド……の、少しグレードが低い安物らしいが、ぶっちゃけこっちの方が美味しい。多分だけど、変な風味の薬草がそこまでたくさん使われてないからだと思う。


「あー、もしくはあれかな。コニー君たちは知らないかもだけどさ、農村暮らしって結構体力要るんだよね。畑の土耕して、水とか肥料とか運ばなきゃだし。きこりの人とかも、本当に馬鹿に出来ないくらい力強いよ」


「ほう。そういうものか」


「そういうものなのです。というか……何かの本で読んだけど、昔の貴族とかは農奴兼民兵が常備軍代わりだったらしいし。現代いまだって中央政府の統制とか、都心からの富が行き渡ってない辺境はそうなんじゃないの?」


「……セテラさん。君は―――何というか、時々不気味なくらい博識だな。北方貴族の末裔の先祖返り、というのはどうやら本当らしい。その割に気品が皆無なのは気になるが」


「一言多いぞ貴族サマ」


「ふふっ。そうだよ、セテラは凄い子なんだ。セテラが知恵を出してくれたおかげで村の困りごとが解決したのも、一度や二度じゃないんだから」


「やー、それほどでもー。あんなの私じゃなくても、いつか誰かが思いついたようなことばっかりだって……」


 これはまぁ、謙遜だが本心でもある。

 色々と知恵を出したのは事実だけど、知識チートというほどのことはしていない。

 我が故郷ランベは小さくて貧しい村だったが、それでも住民全員がプロの農家だ。道具の使い方や作物の種類、土地の整備なんかはみんなの方が詳しいに決まっている。

 私が助言したのは……ちょっとした算数とか、公衆衛生にまつわることとか、前世で先進国に住んでいた身として無視できなかった部分だけだ。


「興味深い。―――この国の歴史は、エメリチア人の渡来から始まったと言われる。エメリチア大陸は厳しい土地だが、その環境に適応するために、彼らは非常に優れた知識と技術を持っていた。現代では失われた強力な魔術も……」


 お、なんか物々しいが飛び出してきたぞ。

 エメリチア大陸ねぇ……。開拓調査の前線基地に、ジョシュア先輩が留学してたんだっけ? DLCか大型アップデートの匂いがするぜ。


「ふむ。僕たちがこうして城塞都市の中で安穏と暮らしていけるのも、先人が常に自然から学んできたことの集大成というわけか。……お祖父様のお言葉が、ようやく腑に落ちた気分だ」


 そして、白藍色の髪の御曹司は、恥ずかしげもなく言い放った。


「感謝するよ、セテラ、ノエル。君たちとの出会いは無意味ではなかった。この挑戦がどのような結果に終わろうとも、僕が君たちに敬意を払うことに変わりはない」


 ―――ぶっ。

 私は喉元から暴発しかけたドリンクを努めて飲み込んだ。

 コニー君は困った顔をしている。しまった、直前にどんな表情だったか見ていなかった。


「そ、……そんなこと言えたんだ、コニー君」


「? 得難い経験をくれた相手に感謝を伝えるのは当然だ。僕は差別主義者ではない。もしそうなら、純血の魔法貴族でない時点で君たちと手を組むことなど考えていない。まぁ、実戦で背中を預ける以上、君らの能力に不満があるのは事実だが……それはそれ、これはこれだ」


 あ~~~~~も~~~~~~~~この子はほんっとも~~~~~~~~~!!

 ズルくないですかそういうの!? 如何にも傲慢クール美形貴族みたいな顔と第一印象しといて、何だその豊かな情緒は!

 いや~、前回のダイナさんの時も思ったんですけどね。やっぱり、ありますよね。揺り戻しというか、手のかかる子ほどかわいいというか、最初は嫌だな~怖いな~と感じた人の方が、いざ仲良くなってみると良い奴~!! ってなるみたいな。

 クール系美少年、サイコ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!死


「ふひ……えっへへ、そんなぁ褒め過ぎだよぅふふふ……」


「……さっそく撤回したくなってきたな」


「ごめんコニー君、こうなったらしばらく帰ってこないから。普段のセテラとは別の生き物だと思って、忘れてあげて」


 なんか親友ノエル様に距離を取られた気もするけど、うるせ~~~~~~!!!!! しらね~~~~~~~~~!!!!!!!

 っしゃあっ、元気出たぞ! トレーニング再開しますかっ!

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