第12話「探る解法」
自分のための情報を仕入れに出かけたら、新しいクエストが発生してしまった。しかも完全に私の手には余るレベルの奴が。
重い。重いよ。どう考えてもその場の勢いで聞いていい家庭の事情じゃないよ。文句を言いたいわけではないけれど、サイジョウさんも何で私にそんなこと話すのよ。
現状だとクエストの達成条件というか、着地点すら見えてこない。ベストなのは……どんな形であれ、サイジョウさんと家族の仲が戻ることだと思うけど……。
「ん~……。なんで不用意に首突っ込んじゃったかなぁ、私」
思えば私らしくもない。『困ったことはないか?』なんて、主観的には40年ほどに及ぶ長い人生の中でも、初めて言った台詞のような気がする。
―――ランベ村のセテラちゃんには悪いなぁ、と思って過ごしてきた転生者人生だったが。
考えてみれば有り得なくもない話だ、何たってこちらは一度死んでいるのだから。
そういえば、前世と比べて遥かに不便で、かつ残酷なあの村での生活を、苦しくはあっても当たり前の現実として受け入れていたのは……。
「ま、いっか」
ちょっと不安な気持ちになりかけたが、そう口にしてみたら肩の力が抜けた。我ながら能天気すぎる。
しかし、たとえ
「フッ……『魔眼の件をどうにかする』『自分にとって役に立つ知識も持ち帰る』。両方やらなくっちゃあならないのが、乗り掛かった舟の辛いところだな」
覚悟はいいか?
「私は出来てるっ!」
さぁ、私のチート主人公伝説を始めようか!
――――――――――――――――――――――――――――――
「というわけで、よっす~アルト先生」
「……あのなァ……。俺はお前の友達じゃねェんだぞ。ちったァ立場ってもんを弁えやがれ」
「いい歳こいてノエル相手にデレデレしてる癖によく言うよ、傍から見てるとほとんど事案だからねアレ。いくら顔が良いからって、何でも許されると思わないことだよ」
「わかったわかった、俺の負けだ。ったく面倒くせェ生徒だな……」
今日は運良く、放課後もアルト先生が教室に残っている日だ。
先生は自分の作業に中途で口を出されるのが嫌いなので、書類仕事をする時も一人になりたがるとはノエルからの情報である。
「私一人でうんうん唸ってても解決しないと思ったので、ここはもう我らが宮廷魔術師先生に解決してもらう他ないかと!」
「知らねェよ、そもそも何の話なんだ」
かくかくしかじかまるまるうまうま。あ、ここはオフレコでね。私はサイジョウさんから聞いた話をアルト先生に丸投げした。
曰く、サイジョウさんは魔眼という特別な才能を持っていたが、そのせいで故郷で大きな事件を起こしてしまい、いたたまれなくなってアンファール王国に留学してきた。可能ならばこの魔眼の力を制御する方法を見つけて帰り、迷惑をかけてしまった家族や知己の人たちに償いたい―――とのことだった。
魔眼に代表される『魔術的異能』については、個人差が激しい上に過去のデータも乏しく、まだまだわかっていないことが多い。
しかし……しかしですよ、そういう難題こそ、この宮廷魔術師サマならば上手いことやってくれるのではないか? と希望を持っての相談だ。
だって宮廷魔術師だよ? 並みの魔術師じゃないもんな。並みじゃない魔導具とかいっぱい持ってるんでしょきっと。ほれほれ。
「要するに"魔眼殺し"の類が欲しいのか。それもとびきり上等な奴」
「そう! そうなの! あるでしょ何か!」
「あー……サイジョウには悪ィが、結論から言うと無いな。大体、そんな代物があるならとうの昔に手に入ってるんじゃねェか? この国は世界随一の魔導大国だぜ、魔眼の研究者なんて腐るほど居るはずだ。なのに見つからねェってのは……。生まれる時代を間違えちまった、って奴か。気の毒に」
「……! な……何なの、それ……っ」
……でも。
ふざけないでよ、なんて、とてもではないが言えなかった。
私だってもはや魔法使いの端くれだ。魔法が万能の力でないことは知っているし、アルト先生が持つ宮廷魔術師の肩書きにどれほど重い意味があるかも理解できる。他ならぬアンファール王国最強の魔法使いの言葉だ。私のような小娘のわがままで覆るような事実ではない―――。
「と、まァ。普通の魔術師ならそう言うんだろォが」
「え?」
「素直に俺を頼って正解だぜ、魔法使い1年生。そしてお前を頼ったサイジョウもな」
そう言うとアルト先生は、いつか見た浮遊する手帳を取り出し、手を触れずに指の動きだけでページをめくっていく。
やがてめくるのを止め、持っていた羽根ペンにインクをつけ足し、何かしら書き込んでまた目的のページを探す。それをしばらく繰り返してから、
「どこの世界も、いつの時代でも―――あるんだよなァ、そういうの。たった一言、誰かに話してみれば済むことでもよォ。過去は変えられなくて、選んだ道は引き返せなくて、一度負った傷は簡単には癒えない。周りが何を言ってどう繕おうが、自分の中で踏ん切りがつかない限り、人間は前に進めない」
「……、……うん。そうだね」
「だからさ、よくやったよお前。どんな魔法を使ったんだ? あんな難儀そうな奴から本音を引き出すなんて」
「……さぁ? 日頃の行いが良いからかな?」
それについてはマジでわからない。
完璧に偶然というか……よっぽど深刻な悩みというのは、友人知人よりむしろ、多少距離のある人の方が話しやすいとか……そんな感じのことだと思う。多分。きっと。メイビー。
「はァー。しかし、いくら何でも傷ついちまうね。実を言やァよ、この学園に赴任してから――授業での質問を除けば――お前とノエル以外の生徒に話しかけられたことって無ェんだよなァ……。そんなに話しかけんなオーラ出してっかな……」
「あぁ……それは、最初の挨拶の時から出てたよ。放課後はいっつもすぐ帰ろうとするし。私だってノエルに聞いてなかったら、今日なら先生が教室に残ってるなんて知らなかったからね」
「……待て。なんで俺の予定をノエルが知ってんだよ」
「私が知る訳ないじゃん。てゆーか、さっきから何書いてんの?」
「クソ、釈然としねェ……!」
アルト先生が手帳のページを破ると、紙片は独りでに折り畳まれて、一羽の鳥のような形状を象った。それはまるで本物の鳥のようにパタパタと羽ばたき、机の端に留まって首を傾げたりなどしている。
「これは……。わざわざ鳥ちゃんにした意味ある? 捕まえてごらんってか」
「お、勘が良いな。得体の知れない術式が掛かった魔導具にはホイホイ触らないこと、安全意識が高くて大変よろしい」
「ありがと、内申点には色つけといてね。それで……」
「俺は何事も手前ェのことは手前ェで解決するべきだと思っている、自分も他人もな。だが、俺はいま仮にも担任として生徒を預かっている身だ。困っている教え子たちを無暗に突き放すわけにもいかない。―――少し付き合え。明日は休みだろ?」
えっ……何その台詞、トゥンク……!
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