第10話「進み行く探求」
一念発起してイヴド祭に向けて特訓を開始した私たちだが、実際やっていることと言えば……まぁ、ぶっちゃけ地味なものだ。
アンファール王国で用いられる『
我らがアルト先生によると――測量こそ未発達で不完全だが――この世界は、私の知る
今は
コニー君は既に色々と戦略を考案しているらしいが、それもコニー君の指示を実行できる地力があって初めて成立するもの。
だからまずは、そして結局のところ、地道な基礎訓練こそが私たちの一番の課題となるわけだ。
体力トレーニングを共通の日課として、カナタ君は剣技と戦術を、ノエルは治癒術の活用を勉強することとなった。
そして、かく言う私ことセテラはといえば―――――。
――――――――――――――――――――――――――――――
例の適性検査による、私の属性の診断結果が出た。
ギースロー教授とオットー先生の考察に曰く、
「古い時代の資料に近い例がありました。かつて当学園にも居たそうですよ。貴種とは縁遠い市井の人でありながら、多くの属性に適した魔力の持ち主がね」
「ノエル・ウィンバートの母方はエメリチア系の血筋であったな。ならば貴様らの故地である辺境に、他の北部魔法貴族の
「ふふ、我々も不勉強でしたねぇ。王立学園で教鞭を取っていると、この歳になっても驚きと発見が絶えませんよ」
「我々というのは余計だ。まったく人騒がせな。ただ珍しいだけの適性など、そう褒めそやすものでもなし」
「おや。このような生徒は初めて見た、と騒いでいたのはギースロー教授の方ではありませんか」
「だから一言多いぞマクレディ、貴様は昔からそうやって……」
「すいません生徒の前でイチャつくのやめてもらっていいですか?」
―――――細かい理屈に目を瞑れば、私の適性は『本物の魔法貴族には及ばないけど、四大属性を満遍なく使える』感じらしい。要は器用貧乏型ね。
この流れでもし欠点が無いチート能力だったら、確実に何か
ちなみにそのことをノエルとアルト先生に話したら、
「同世代、同地域に2人……ね。偶然ってのは怖ェなァ。なァノエル?」
「はは……。そ、そうですね……すごい偶然……」
何やら意味深な反応が返ってきた。
くそ、やっぱりお前ら付き合ってんな?
――――――――――――――――――――――――――――――
さて、気を取り直して特訓の時間だ。
チームリーダーのコニー君に適性検査の結果を伝えたら、めちゃくちゃ驚いたような、微妙に呆れたような顔をしていた。
後はぶっきらぼうな励ましの言葉しかもらわなかったが、今回ばかりはコニー君の態度にも納得せざるを得ない。
とはいえ、たとえ伝統と実績ある魔法貴族の出身者でも、実戦で四大属性すべてを使いこなせる魔法使いはそう居ないらしい。このへんは前にカナタ君も言ってたね。
我らがコニー君からは『どの属性も"そこそこ出来る"のなら、自分の性格上好ましい魔法を訓練すればいい。得手不得手があるのは僕らも市井の民も同じだ。魔法という分野であれば尚更な』とのお墨付きをもらった。
ちなみにコニー君のオススメは、安全に訓練できて応用性も高い水属性らしい。
「私の魔法―――かぁ」
……んな大層な。
私ゃ所詮はクソ田舎の村娘で、前世でさえごく普通のOLだぞ。
何が四大属性の魔力だよ、しかも器用貧乏とはどういう了見だ。そんなビミョーな転生特典なんざ持て余すだけだっての。知略チートタイプの転生勇者様ならいざ知らず……。
贅沢な悩み、とはよく言ったものだ。たとえどれだけ贅沢が出来る身の上になっても、人間は己の悩みからは逃れられない。
「う~、私の魔法……個性……オリジナル……。……あ」
そういえば。そもそも、ミュトスのクラスメイトたちは、どうしてミュトスに通うことになったのだろう?
誰も覚えていないほど古く、マイナーな魔術系統の継承者―――これは、コニー君が言うところの『奇襲』に最適なスキルの持ち主なのではなかろうか?
「灯台下暗し……っ! 幸せの青い鳥!」
「集中を乱すな」
「あいだぁ!?」
コニー君の氷魔法が発動し、形成された手のひら大の氷塊が私の脳天に直撃した。既に途切れかかっていた集中が完全に破られ、お椀の上で維持していた水球が弾ける。
このやり取りにも慣れたもので、コニー君は『水と氷は処分が楽でいい』と作った氷塊を火魔法で打ち消す小技を多用している。
そういえば"完全に発動した魔法を後からキャンセルする"というのはかなりの高等技術らしく、ましてや土や水のような、魔力を物質に変換する魔法ならもっと難しい。魔力由来の物質は、基となった魔力を宿していることを除けば、そうでない物質とほとんど差が無いからだ。
なので、敵の攻撃魔法を防御したい時は、自分に向かってくるものと相反する性質を持つ魔法をぶつけるのが基本となる。ちょうど今のコニー君のように。
「魔術師の家系でないはずの者が、先祖返りで魔力に目覚める……という話は、決して聞かないわけではない。魔法貴族にも家格の差や序列はある。没落して平民に身をやつす者も居るだろう」
「そうなんだ。世知辛いねー」
「しかし、四大属性すべての適性が発現したとなると、確かに前代未聞だ。ギースロー教授が驚くのも無理はない」
「うっひょ、コニー君からもお墨付きもらっちゃった。自信つくわー、自己肯定感ライジングだわ。ほれほれ、もっと褒めるがよいぞ」
「とはいえ―――魔法界の常識を揺るがすだけの才を持ちながら、当の本人がこの調子ではな。君には執務室よりもベースキャンプの方が似合いそうだ」
「……あっ、今ちょっと馬鹿にされた!? なに? 私じゃ貴族様にはなれないってこと?」
「馬鹿になどしていない。第一、君は爵位を与えると言われても固辞するんじゃないか? 貴族の務めは極めて多岐に渡る、算術ひとつで躓いている君にこなせるとは思えん」
「コニー君さぁ、友達少ないでしょ」
「それとこれに何の関係が?」
「図星かよ。というか、それなら少しくらい落ち込めっての」
「友情なら交わしているさ、君が想像しているよりずっと多くな。腹の中ではお互いどう思っているか知らんが……まぁ、それが貴族の務めで生き方というものだ。寂しくも虚しくもない」
「ふぅん……」
……そっか。そうなのか、そうだよね。
コニー君にとっちゃ、私たちは単なる御前試合の駒でしかないわけで。まだ友達じゃあ、ないんだよね。
それはちょっと、寂しいな。
「……話し込み過ぎた。僕はこのあと用事がある、やや早いが今日の訓練は切り上げだ。戸締りは頼んだぞ」
「はいはーい。ゆっくりさせてもらうね」
そうのたまいつつ、小窓から外の様子を覗けば、ノエル様とカナタ君が学園外周の走り込みから戻ってきているところだった。
私たちやコニー君にも個々人で都合があるので、そのへんは適当にローテーションを組んで回している。今日は私がコニー君に付き合ってもらって魔法の特訓に勤しみ、その間あの2人は自由にさせていたわけだが───。
ウフフ、なんだか微笑ましいじゃあないですか。今は普通のお友達といった具合だけれど、ここから関係が発展する可能性も十二分にありまっせこれは。
アルト先生とは……別に先生は悪い人じゃないし、ノエル本人も弁えていると思うけれど、やっぱり
健全な交友関係が築けて何よりだ。というか、冷静に考えたら王都に来て初めての友達なわけだし、男女の云々を抜きに大切にして欲しい。
「友達、か」
―――ミュトスのクラスメイトたち。
お誂え向きとはまさにこのこと。キャラエピ埋めはやり込みプレイの華だ。私も人付き合いは得意な方ではないが、もう少し踏み込んでみてもいい頃合いかも知れない。
「よしっ。頑張れセテラ!」
みんなの魔法を知って、私の魔法を見つけるんだ―――!
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