第2話「始まる新生活」
みなさん、こんにちはっ!
私、セテラ! 辺境の寂れたド田舎出身のド平民なので、今は姓はありません!
出身地は大陸北部、妖精の森にあったランベ村!
というかまぁ、ぶっちゃけアレ人間の住む場所じゃなくて、森の奥に作られた虫カゴだったね。
妖精、つまりフェアリーが一緒に住んでたんだけどさぁ、全然可愛げのあるタイプじゃないの。外見はピンキリだけど、とにかく、相手は人間の手足とか平気でむしる類の畜生どもでさ。
で、かくかくしかじかで、妖精たちのボスがブチギレて暴走したらしくて、森も村も大変なことになっちゃった。
私もこれにモロ巻き込まれて、何ならフツーに気絶してて、気がついたら故郷が消し飛んでた感じだったんですけど……。
それから色々あってー、ありがたいことに命だけは助かってー、何のかんので今に至るわけ。
幼馴染で親友のノエルって娘が、何やら知らんイケメンを連れてきた時は面食らったものの―――お国のそこそこ偉い人らしいその方のおかげで、森の復興とか村人の社会復帰とかは話がついたらしい。
いや、改めて考えるとマジでありがてぇな。アンファール王国のお役人さんは神か?
「―――……―ラ」
さて、そんなわけでスタートした王都パルミオーネでの新生活! やっぱりファンタジー世界と言えばこーゆー素敵な繁華街よネ。
スタート位置がいきなり高難度ダンジョンだったのには閉口したけど、どうも私の歩む覇道はまだまだ始まったばかりのようだ。
近頃は単純に無双モノってだけじゃあ売れないからね。逆境イベントも適度に配置してくれないと。やっぱり劣勢からの大逆転っていうカタルシスに勝る胸熱展開は無いんですよ、王道の良さみを理解できない輩に本物の面白さは作れないんです。
……閑話休題。
実はさっき回想した騒動で、そもそもの発端は私の親友ことノエルだったんだ。
あの子が妖精たちの追手を振り切って村を飛び出して、アンファール王国の政府に助けを求めたから、謎のイケメン氏が村の調査にやって来たって寸法だね。
「……―テ――ラ。セ―……―ラ―――……」
んで、ここだけの話、ノエルの身体には秘密があるとかないとか、魔法の素養があるとかないとかで。
役人さん兼魔法使いでもあるイケメン氏の紹介で、こうやって王立パルミオーネ中央学園に編入する流れとなり―――。
ここからが私、セテラの出番!!
ねぇノエル、はじめての学校で色々と不安じゃない? 不安でしょ? 不安だよね? じゃあ私がついてってあげるよ!
と、半ば強引にノエル……は本当に不安がってて『セテラが付いて来てくれるなら嬉しい』って言ってくれてたから、どちらかというと母親のエルミナさんを説得し、こうやって王立学園の編入枠に捻じ込んでもらったのです! ヤッター!!
ついに始まった夢の異世界魔法学園ライフ!! 前世では夢女子としてそれなりに鳴らした私を満足させてくれる男子は現れるのか!?
いいや、絶ッッッ対現れるね! チラッと見た感じ正統派イケメンもワイルド成分マシマシハンサムもカワイイ系ショタっ子も、もー至れり尽くせりって感じだし!
「ふっ……ふふふ……」
え? たかがいち役人の紹介で、こんな大国の最高学府に、世間知らずの田舎者が2人も編入させてもらえるなんて変だって?
あぁ、それはぶっちゃけ私にもよくわかんないんだけど……うーん、あのイケメン氏がどれだけ偉い人かにもよる、よね。実は国の王子様とかだったりして……むふふ。
何にせよ、こんな空前絶後のラッキーを呼び込んでくれたノエルには、感謝の念を禁じ得ない。
もうノエルには足向けて寝られないね。私も王立学園に通うお嬢様になることだし、今度からノエルお姉様って呼んじゃおうかしら。うふふ。
「……セテラ―――」
「嗚呼!! 今まで色々あったけど生きててよかった!!」
「ひゃっ!?」
「!? え!? あっ! 居たんですかノエルお姉様!」
「……お姉様?」
「いえなんでもないです。忘れてください」
「そ、そう?」
あっっっっっっっっっっっっっぶな某ジャンルの逆ハーオリ主夢本の作業配信中に母親が自室に凸ってきた時並みに焦った。
いくら相手がノエルとはいえ、つい先程まで私が浮かべていたであろう邪で醜悪なオリジナル笑顔をお見せするわけにはいかない。自分のことを"お姉様"などと呼ぶ女がそんな顔をしていたら、純真無垢なノエル様は卒倒して以後口も聞いてくれなくなるだろう。
まだ例のイケメン氏の連絡先を聞き出してな……ゲフンゲフン、ま、私とて誰かに嫌われるのはフツーにイヤだからな。
それに、新しい環境に身を投じたことで、交友関係がリセットされているのは私も同じなのである。何だかんだ知り合いがいると安心だよね。
「やっぱり、初めての学校で緊張してる……? いつもよりちょっと変だよ、セテラ」
「んー? ……あはは、そうかも知れないね。だって、あの王立学園だよ? 少し前までランベ村で豆ばっか食べてたのが嘘みたい」
「……そうだね」
「ってか、緊張してるのはノエルも同じでしょ? 制服のボタン、掛け違えてるよ」
「え? ……っ、ほ、本当だっ! ありがとうセテラっ、うわぁ、わたしってばこんないきなり……!」
「んもーしょーがないなーセテラちゃんが直しますよそのくらいー」
あーもうノエルはかわいいなぁ!
まったく、どういうことだろう。こんな如何にも男受け狙ってキャラクリしましたー、みたいなフワフワ雰囲気の超絶美少女に、妬みも嫉みも湧いてこないなんて。私らしくもない……。
でも、こう、ノエルは持ってるんだよね。母性本能や庇護欲を掻き立てるものを……寺生まれ、もとい村長の娘ってすごい。私は改めてそう思った。
そういえば、史実の中世ヨーロッパにはまだ『服のボタン』っていう技術が存在しなかったと聞いたことがあるけど、この世界には普通にあるのね。そのへんチグハグなのも異世界転生モノらしいっちゃらしいけど。
「ん。これでよしっと! さぁ、行きますよお姉様!」
「うん! ……って、また『お姉様』?」
――――――――――――――――――――――――――――――
どこの世界でも入学式は―――ではなく、私たちはこの秋からの中途編入なので始業式なのだが、とりあえず普通にだるかった。さっそくひとつ勉強になりました。
ひたすら学園長の話が長い。つーか、生徒がこんだけイケメン揃いなんだから教師陣にもさぞイイ男が……って思ったら、くたびれたオッサンか明らかに体育担当のゴリラか目つきがやべーオタクみたいな奴しか居ないじゃねーのさ。この辺りも前世と一緒かよ。
「皆さん、お久しぶりです。そしてご入学おめでとうございます、ウィンバートさん、セテラさん。私は応用魔術科の主任講師、オットー・マクレディです。年齢も性別も異なる皆さんですが、新入生の方も在学生の方も、ここではみな同じ『ミュトス』の仲間ということで、仲良くしていただきたいと思い……」
んん~~~~~このオットー先生もな~~~~~~~~~ナイスミドルではあるんだけどな~~~~~~~~~~~~~~~。
私のタイプではないっていうか……そもそも左手に指輪してっし。
そういや、私は辺鄙な田舎で育ったから最近まで知らなかったんだけど、この世界でも結婚したら指輪を贈り合う風習があるんだよね。
まぁ、ここが本当の本当に物理法則から何から異なる別の宇宙みたいなものだとしたら、私が今こうして人間の形をしていることさえ不思議なので、恐らくパラレルワールドとかそういうやつなのだろう。
収斂進化って言葉もあるくらいだし、発達した文明ってのは大なり小なり似てくるのかも知れない。
と、それはいいとして……。
「はぁ……」
さてさて、まずざっと見たところ弊クラス、よそと比べて圧倒的に生徒数が少ない。
王立学園は一般学部と魔法学部、あと兵役訓練課程という3つの学部に分かれているが、魔法そのものは他学部の生徒でも選択科目にチョイスすれば授業を受けられる。
さすが王国最高峰の教育機関だけあって、学生たちの間でも『この歳から魔法ばかり勉強している訳にもいかない』という風潮が大勢を占めており、そもそも魔法学部に来たがる者自体が珍しいのだ。
アンファールには『魔術師ギルド』も存在しているから、魔法を覚えたいだけなら学園を卒業してからでも間に合うしね。
「えぇっと……セテラ、どうしたの? 具合でも悪いの?」
「いや、別に……はぁー…………」
「―――尚、当校では学科主任の他に、クラスごとに1名、担任講師を定めることとなっています。恥を忍んでお話しますが……少々、事情がございまして、現在の当校はいささか人手不足でしてねぇ……。あくまで臨時なので、ずっと同じ方というわけにはいかないのですが、皆さんのクラス担任をご紹介します」
で、そんな魔法学部の中でもさらに人気の差があって、『
てか、概ねそこらに収まらないマイナーで雑多な体系の魔法――要は近現代になり、一般に進歩の余地がないと見なされたか、後継者が居なくなって廃れたもの――が『
実態としてはもはや魔法を勉強したり研究する、というよりは無形文化財の保護に近いらしく、とにかくウチは……いわゆる『落ちこぼれ』のレッテルをはられている……基礎属性魔法も扱えないような『落ちこぼれ』が、魔術師って肩書きだけに憧れて何となく入る学科だと……。
大丈夫かなぁ、私の玉の輿異世界ライフ。すっかり峠は越したもんだと思ってたけど、存外まだ道は長いのかも知れn
「―――はじめまして、でいいか? アルト・ディエゴ=ペイラーだ。本当はただの客員研究員なんだが、今回の出向では、臨時担任としてここの1年を預かることになった。短い間だとは思うが……まァ、その、何だ。精々仲良くやろう」
「は?」
「えっ?」
……す……す……す、―――――すっっっげぇ!!
なんてこった! 担任ガチャSSRなんて次元じゃねぇ!
純白めいた銀髪、紅い瞳、濡れたような漆黒の外套―――間違いない、例のイケメン役人魔法使い氏だ!!
いや、イケメン教師カモン! とは思ったけど、さすがに都合よすぎない? 私ってば残念ながら転生特典でチート的神の祝福とか貰った覚えないんだけど? え? これが主人公補正って奴?
「あ―――アルト・ディエゴ=ペイラー!? 宮廷魔術師の!?」
「アルト? アルトって、あの"角狩り"のアルト?」
「銀の髪と……鈍色の国章。すごい、お姉ちゃんから聞いた通り、本物の"黒銀卿"だ……!」
「え。リリのお姉さんって確か、魔術師ギルドに務めてるんだよね? じゃあ本当に、……やば」
てゆーか、ん? ナニよ。何か私らよりも周りの子たちの方がよっぽど驚いているのだが。
このお方ってば王都じゃ有名人なんだろうか? やばい、無邪気に喜んでられない。理解がまるで追いつかない。
「とは言っても、俺は俺でそれなりに忙しい。そもそも教壇に立つこと自体が稀だし、授業を受け持ったところで、大抵は他の学科で扱う魔術の講義になる。別な仕事の片手間にお前たちの面倒を見る形になるから、相談事があれば学園中を駆けずり回って探しに来い。尤もそんな苦労をするくらいなら、一度こっちのオットー教授か、生徒指導室の……あー……」
「ゴデル教官ですね。はい、彼や私に話を通してくれた方が無難です」
あら残念。会える機会は少ないのね、担任なのに。
つかオットー先生、教授なんだ。意外と偉いんだな。この世界の学校っていうのがどういうシステムなのか、まだ全容が見えてないから何とも言えないんだけど。
「そうそう、そういうことだ。さて、何か質問は?」
固まる同級生一同。まぁ、そりゃそうですわな。
アルト先生の素性はよく知らないけど面識がある(いや正確には私はほぼ無いけど)、っていう私らでさえ言葉を失ってるもん。まして落ちこぼれ学部のマイナー魔術師の卵たちといわんや。
「よろしい。理解の早い子供は好きだぞ。うん。じゃ、本日はこれで解散だ。明日の午前は教科書の購買とか、授業があっても復習で潰れるだろ。それから午後は……あァ、
…………。……ん?
「とにかく、懇親会だ懇親会。つまり、いつもの調子に戻るのは明後日以降だから、今日のところは安心して寝てろってこと―――以上。……そォいや教授、解散の挨拶っていつもどォしてるんですか」
「では、本日のところは私が日直の代わりを。起立、礼!」
何だかアルト先生が気になる台詞を呟いたように聞こえたが、質問タイムはとうに打ち切られてしまっていたのでどうしようもなかった。
オットー教授に呼応した生徒たち迫真の挨拶――後から知ったのだが、そもそもアルト先生は宮仕えの魔術師なので、オットー教授よりもさらにお偉いさんらしい――に生返事を寄越し、そそくさと立ち去るアルト先生……。
私とノエル様も呆けて雑な感じになっていたのは棚に上げるとして、うんうん、公務員は基本はホワイトだからね、仕方ないね。ていうかどんな職場でも普通に定時で帰りたいよね。わかるわかる。
「……セテラ」
「ん? どったのノエル様?」
「や……やっぱり、追いかけよう! アルトさんのことっ!」
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