第14話 京都のところてん(くずきりでなく)

 翌朝。

「よーし! 全員いるなー。いないヤツは手えあげろー」

 尾崎先生の古いギャグとともに、一行を乗せたバスは京都へ向かった。

「きょーと♪ きょーと♪」

 天音はすごく小さな声で控えめにはしゃいでいた。

 いつの時代も女性は京都という場所が好きらしい。

 それにもうすぐ元の体に戻れるからゴキゲン、ということもあるのだろう。

「おやツノタローのヤツ。バスを追走しているようですね、どこまで僕のことがスキなんでしょうか」

「じゃあツノちゃんに京都を案内してもらいましょうか」

 本日は自由行動の日。京都に着いたあとは人殺しと放火以外はなにをしてもOKである。

「えーっとまずはレンタル着物屋で着物に着替えてー。それからいろんなところを散策ですね。銀閣寺とか行きたいなー.。あと私が唯一食べるコトのできる京都名物くずきり。これは欠かせません」

「だ、大丈夫ですかね……着物とか……」

「平気平気! だって京都ですもん!」

「そう言う問題じゃ……」

 二人は京都をアホというほどに堪能。着物を着た二人が鹿に跨って祇園を闊歩する様子はツイッターで五〇〇〇〇回以上リツイートされ朝のワイドショーでも取り上げられたとか。

 宿に帰ったあとも、天音が湯葉をギリいけると判断して食し、ちょっと変な色になったり、魔美先生が宴会場で水芸を披露、すべての料理が水浸しになったり、枕投げ大会でうっかりふすまを貫通し尾崎先生に殺されかけたり。

 さまざまなトラブルがありつつもつつがなく修学旅行二日目が終了した。

 ――そしてその日の深夜二十四時。


(先生にみつかりませんように……)

 仁は誰もいない一階ロビーの隅っこで天音を待っていた。

『目的地』の場所は既にレイに確認済みだ。

(近いのはありがたいな。タクシーとか呼ばなくて済んだ)

 などと考えていると――。

 コツコツという足跡が聞こえてくる。

 仁は一応顔を見られないように、置いてあった新聞紙で顔を隠した。

 すると。

「エッチなスポーツ新聞で顔隠すのやめなよ」

「おまえか」

 レイは新聞をひゅっと取り上げてパラパラとめくってみせた。

 ピンク色でモコモコした実に女の子っぽいパジャマを着て、ご丁寧にさきっちょにポンポンがついたナイトキャップなんぞを被っている。

「またそんなオタサーの姫がサークル合宿で本気出したみたいな格好をしてからに……」

「京都の夜は冷えるからね」

「……まあいいけどさ」

 レイはスポーツ新聞のヌード写真がでっかく載っている面を上にしてテーブルに置いた。

「いまから行くの?」

「ああ」

「この学校がガバガバスクールで良かったね。普通の学校だったらなかなか旅館の外になんか出られないよ」

「そうなのかな?」

 レイは質問には答えず無言。一旦大きく息を吸ってから次の言葉を紡いだ。

「アマネさんとはうまくいってるの?」

「えっ!? ああ……まあ悪くはないんじゃないかと」

「ふーんそれはよかったね」

 こどもでもあやすように仁のアタマをポンポンと撫でた。

「今までスキな人ができてもうまくいった試しがないもんね」

「その通りだけど……大きなお世話だよ」

「今回もなんだかんだメシウマになるのに期待してる。それじゃね」

 仁に背を向けて去っていく。

(なんだあ? あいつ最近前にも増して様子が変だな)

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