第10話 ぷるんぷるんに迫るテロル
テロリストのアンはアジトで計画を練っていた。
「ナルト二十周年記念展!? 行くっきゃない!」
計画というのは「次はどこに遊びに行こうかなー」という計画である。
「でも結構さきだなァ。それまでこっちいられるかな」
ちなみにアジトというのはいわゆるウィークリーマンションのレアパレス西馬込、某有名アイドルがCMをやっているアレである。
「しかしこういうイベント系は行き出したらキリがないなあ。絞らなあかん」
小奇麗な部屋の小奇麗なベッドの上でゴロゴロ転がる。Tシャツにスパッツで髪をチョコンと結んでいるその姿は下手をすれば小学生にも見えかねない。
ちなみに彼女の年齢は当年とって二十七歳である。
――そこへ。
「ただいまです」
彼女の相棒である青髪の大男ギルバードが現れた。
ちなみに彼はつい先日十九歳の誕生日を迎えたばかり。
「おーギル。どうだった? 今日の収穫は」
アンはまったく悪びれることなく、寝っ転がったままポテチなんぞ食いながら、部下に仕事の報告を促す。
「大きな収穫がありました」
「なに!?」思わずベッドから飛び起きた。
「見つけたのか!? 例のセキマチユウジロウの息子!」
「はい」
「おお! それでどうした! 住所つきとめた? それとももう拉致っちゃった?」
「いえそれが……発見して尾行していたのですが、妙に警戒心が強いヤツでして、取り逃がしてしまいましたー」
「えーーー!? なにやってんだよお!」
ベッドから立ち上がりギルバードのお腹に相撲取りの立ち合いのような頭突きを食らわせた。
ギルバードは思った。
(ぜんぜん痛くねえ。かわいい)
「でも大丈夫です! ちゃんと盗聴器をつけることには成功しましたので!」
「ああそうなんだ」
「住所を特定するのは時間の問題かと」
「そっか。じゃあそれでも聞きながら昼ご飯食べよー」
そういって彼女はピザ屋のチラシを手に取った。
「おはようございますー!」
夏休みが始まって以降、天音は毎日のように仁の部屋に勝手に入ってきていた。まるで半同棲カップルだ。ただし普通の半同棲カップルが合鍵を使って勝手に入るのに対し、彼女は鍵穴を通って勝手に入ってくる。
「あっ! は、ハダカ! ごめんなさい!」
もっとも。当たり前だがそういった行為は行われていない。物理的に不可能だからだ。まあだからこそ彼女も平気で部屋に来るという側面もあるが。
「天音さん! おはようございます。いえいえ構いませんよ」
「そ、それならよかった。ねえ仁くん。着替えたら昨日のつづきやろうよ」
その代わり、というわけでもないが、二人の心の距離が縮まった証拠に二人はお互いを名前で呼び合うようになっていた。
「はい。いいですよ」
二人は部屋で一緒にDVDを見たり一緒に絵を描いたり宿題をしたり。今日はどうやらゲームで対戦をしているようだ。
「うーむ。また負けてしまいました。天音さんもうすっかり慣れられましたね」
「ええ。ゲームに関してはむしろ以前よりやりやすいかもしれないです。頑張れば全部のボタンいっぺんに押したりできるし」
そういってピョンピョンとびはねて見せる。仁はそんな天音を見て思った。
(最近こういう変な動きがすげーカワイイと思うようになってしまった。僕はやはりなにかに目覚めているのかもしれない)
「よーし。次行こう! 今度も勝つぞ!」
「おっ!なかなかやるな! でも!」
「よっしゃ! 四連勝!」
彼女は最近はおしとやかでお嬢様らしい一面だけでなく、こういう無邪気な一面も隠さなくなってきた。
仁はそんな彼女をますます好ましく思うようになっていた。
「えーっと。天音さん」
「なに?」
「毎日こうやって遊びにきてくれて嬉しのですが、そのごめんなさい」
「なにがですか?」
「夏休みなのに外出もできなくて」
「あー大丈夫大丈夫! どっちにしろいつも引きこもってますしー。人ごみキライだからコミケとかも行かないしー」
天音は透明な触手でポンポンと仁の肩を叩いた。
「でもですね。本当に外出したくならないですか?」
「うん。大丈夫ー」
「本当に? 一回も?」
すると天音はしばらく思考したのち。
「もしかして。どこか一緒に行きたいところがあるの?」
と仁をからかうような、弾んだ声で言った。
「ええそうなんです」
仁はベッドの下に隠したチラシを取り出し天音に見せた。
「カキ氷フェス!?」
「これなら天音さんでも楽しめると思いまして……どうでしょうか?」
「行く! ゼッタイ行く!」
天音は触手で仁の全身をぐるぐる巻きにした。本人としては抱きついているイメージなのだろう。
「ってこれもう明日ですね! 今日は久々にアレの中で寝ないと!」
「場所は池袋だそうです」
「じゃあついでに帰り同人ショップとか寄って帰りましょう! 仁くんにオススメのBL選んであげる!」
BLをゴリ推しするのはそろそろやめて。とは言い出せない仁であった。
――一方。レアパレス西馬込。
「池袋第二公園カキ氷フェス。これで間違いないですね。くくく。ちょれえヤツらだ」
ギルバードは嬉々とした様子でノートパソコンをいじくっていた。
一方、アンはピザを咀嚼しながらぶぜん顔。
「ねえもう特定終わったんでしょー? じゃあそれ切って」
と盗聴音声の再生器を指さす。
「なぜですか?」
「バカっぷるのバカ会話もう聞きたくない」
「いろいろ気になる点があるのでもうちょっと聞きたいのですが」
「じゃーイヤホンでもして一人で聞いて!」
アンは深い溜息をつく。
「あーあーいいなー。同棲してんのかなー。してみたいなー」
(……今オレと一緒に住んでるようなもんなんだけどなあ)
などと考えながらギルバードはイヤホンを再生器に刺す。
「ねえ。気になることってなに?」
「いえ。なにか不自然な会話があったように思いまして」
「なんかあったっけ?」
「今日はアレの中で寝なきゃ。とか言ってませんでした? アレって一体なんだろう?」
「んなこと言ってたっけ」
アンは全然興味なさそうに小指を耳の穴に突っ込んでアクビをしながら会話していた。
「ええ。あとはなんかゲームに関しては以前よりも今の状態がやりやすい? とか頑張れば全部のボタンを押せるとかなんとか?」
「へーなんだろうね。調べといて。私お昼寝するー」
すると。彼女はベッドに倒れ込み、寝息をたて始めた。
(まったくなんてヤツだ。ヒトに仕事全部押し付けて)
しかし。寝顔があまりに可愛かったので許した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます