二日目

十九時頃だろうか、目覚めた私はまだ完全には薬が抜けておらず、頭や耳の違和感から楽になりたい気持ちと再び薬を試したい気持ちで、DXMに手を出そうか迷っていた。そうこうしている内に二十一時頃になり、再び知人の動画配信が始まった。

私が「昨夜は『抱きしめて』と『デキストロメトルファンタジー』を聞きまくりました」とコメントを打つととても嬉しい事を言われた。


「その二曲は僕がDXMをやる時に聴く為に作った曲だからね、正しい使い方ですよ」


そんな事を言われると益々私はもう一度DXMを試したくなった。その直後、他のリスナーから興味深いレスポンスが付いた。「"DXMて"だもんね」と。


「そうそう、"DXMて"で"抱きしめて"って読むんですよ」


嗚呼もう、これはやるしかない。放送は深夜○時頃終わり、私はコンビニに駆け込んで酒とツマミと明日の食料を買い込んだ。帰宅してすぐ、吐かない為の食料と、効きを強める為の発泡酒を流し込み、余った酒で二十錠のDXMを飲み込んだ。

一時間して、もう十錠入れた。その頃には深夜二時を回っていた。更に一時間して迷った挙句、アップテンポの曲の勢いで十錠流し込んだ。

それからはもう本当にキツかった。記憶はまちまちだが、ピークは自分が何者なのかも忘れていた。今を認識している化物にでもなったような気分だった。現在しか解らないのだ。過去も未来も考えられない。外の街灯の薄明かりで陰影だけで認識出来る部屋も、自分の部屋だという認識を失っていた。夢だか何だか分からない世界に飛ばされ続け、恐怖心や焦燥感に見舞われた。

音楽を作った知人の顔も薄ぼんやりとして関係性も名前も思い出せないが、大切な人だという事は覚えていた。その声が理解出来る度に夢中で『抱きしめて』までリストを戻した。半分無意識だった様に思う。

部屋に日が差してもカフェインを摂り過ぎた様にらんらんとしていた。明るさで漸く見えてきた部屋も絵の様にしか認識出来なかった。入口と窓の事は覚えていたがキッチンは覚えていなかった。ひし形の部屋が都内のどこかに有るという記憶だけはその時も存在した。

後から気付いた事だが、私のイメージしていた部屋の一部に化物を見る様な幻覚ではないのだ。私の場合は見える視界全てが幻覚の様な物だった。目なんて開けても閉じても殆ど同じなのだ。

何度も死にたいと思ったが身体が動かなかったので、薬が抜けたら首を吊ろうと思った。自殺したい気持ちが何度もやって来た。

昼過ぎ、漸く時計を認識出来た。早く終わってくれと思いながら眠る為にα波の流れる長時間のBGMを控え目の音量で流した。どうしても眠りたかった。DXMから逃げ出したかった。

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