Vol.4.1 【サプライズプレゼント】

平日の午後4時。

この時間は、近所の学校帰りの学生が来ることが多い。

その日も高校生の男女2人ずつの4人組の内、女の子1人欠けた3人が集まってコーヒーを飲みながら打ち合わせをしていた。


「やっぱりここはさ、ドカンとびっくりさせたいよね」

「そうそう。いつも静かな香奈だからこそ、こう誕生日にサプライズをしてやるのが良いんだよ」

「でも、工藤さんは本当に喜んでくれるのかな」

「大丈夫だって」

「それにあいつも表立っては怒るけど、内心は喜んでくれてるさ」

「うーん、工藤さんの場合、本当に怒っているだけなんじゃないかな」


なるほど。

今はこの場に居ない4人目の子の誕生日パーティーの打ち合わせといったところですか。

あの子は、これまで見ていた感じでは真面目で大人しい感じでしたね。

確かにサプライズを喜ぶタイプではないと思いますが、さて。


「じゃあ、どうするんだよ、拓也。ただケーキ食べてプレゼント渡すだけじゃつまんないだろ」

「そうだよ~。それにたっちゃんは渡すプレゼントは決めたの?

折角のチャンスなんだから、ここで一気に関係を深めないと、いつまでもこのままだよ」

「うぐっ。それは、その……

そうだ。こういう時は年長者の意見の聞いてみようよ。

あの、マスター。少しだけ相談に乗って貰えないでしょうか」

「はい、少しだけお待ちいただけますか」


ふむ、私の経験でお役に立てるでしょうか。

まあまずは他のお客様の注文を済まさせて頂きましょう。


「お待たせしました。

それで、少し聞こえていましたが、誕生日パーティーの相談ですか」

「はい。それとプレゼントについてもお知恵を頂けると助かるんですけど」

「ぜったいサプライズを仕掛けた方が楽しいと思うんですよ。マスターもそう思いますよね」

「プレゼントも普通じゃ面白くないよな」

「はぁ、ふたりはこう言ってるんですけど、僕にはどうにもそうは思えなくて」

「そう、ですね。

皆さんで楽しむのが目的なのか、彼女に喜んでもらう事が目的なのか、それによっても違うと思いますよ」

「それはもちろん、工藤さんに喜んでもらう事が一番です!」


そう断言するのは、拓也と呼ばれた男の子。

それをニヤニヤと笑って見守る他のふたり。


「なるほど。それではこれが正解、という訳ではないので、こういう方法もあるという風に聞いてほしいのですが……」

「……まさか、そんな。でも、確かにそれなら喜んでもらえますね。

うん、分かりました、やってみます。ふたりもそれで良いかな?」

「ああ、いいぜ。ならそれは前日の土曜日にするとして、当日の日曜日は絵里の家でパーティーな」

「そうだね~。当日はケーキ準備してるから。楽しみにしてるからね♪」

「さ、そうと決まればお前は今から電話して待ち合わせしておけって」

「い、今から!? う、分かったよ」


そう促されて電話を掛ける彼らにお辞儀をして、私は新しく入って来たお客様の元に向かう。

さて、上手く行ってくれれば良いのですが。



そして、次の週の火曜日の夕方。

先日の拓也くんと、工藤さんの2人が揃ってお店にやってきました。

ふむ、この様子ですと誕生日パーティーは大成功だったようですね。


「マスター。今日は先日のお礼に来ました」

「あの、拓也さんから聞きました。マスターのお陰で素敵な誕生日になれたこと」

「そうでしたか。それは良かった。

ですが私がしたのはやり方の一つを伝えたに過ぎません。

それを実行したのは彼ですよ」

「そう、ですね。

それにしてもビックリしました」



土曜日。

拓也は駅前で工藤さんと待ち合わせしてデパートの女性服売り場に行っていた。

「従妹の誕生日に服をプレゼントしたいんだけど、自分じゃ服のセンスがないから代わりに見繕ってほしい」

そう言われて「私の見立てでも良いなら」と快諾した工藤さんは、拓也と一緒に幾つかの服を選び出した。

拓也はそこで「従妹は工藤さんと同じくらいの背丈だから、一度着てみてくれないかな」と伝え、工藤さんに試着をお願いした。

そうして着てみた中で「工藤さんならどれが良かった?」そう聞かれるままに工藤さんが1つを選ぶと、拓也はお礼を言ってその服をレジに持って行った。

帰り際、拓也は工藤さんに向って言った。

「工藤さん。今日は付き合ってもらってありがとう。

それで、はい、これ。工藤さんの誕生日って明日だよね。

良かったら明日の誕生日パーティーに着て来てほしい」

そうして持っていたプレゼントを差し出したのだった。



「従妹にって言ってたのに突然渡すんだもの。

本当にびっくりしました」

「ごめんね。でもあれなら絶対に香奈さんに気に行ってもらえるはずだって思ったんだ。

実際にその、とっても似合ってたし、うん」

「う、うん。ありがとう」


そう言って赤くなるふたり。

なるほど、この様子を見るからに先日とは少し違う関係になれたのかもしれないですね。

それでは私からもショートケーキでお祝いさせて頂きましょう。

これからも彼らの未来が素敵でありますように。

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