episode5 cure
酒を飲む前に牛乳を飲むと良いとか、乳製品を摂ると良いという話をたびたび耳にするが、あれは本当なのだろうか。
アルコールとともに失われるビタミンやミネラルの補給や、肝機能を高めるためにタンパク質を補ったほうが効率はいいと思うのだが。
かく言う僕は、酒を飲む前に決まって口に入れるお菓子がある。
歯ごたえが非常に強く、日本製のグミでは味わえない食感と、蛍光ペンで塗布したのかと思わせるカラーリングが特徴だ。
これには大豆成分が含まれており、先述したタンパク質が含まれている気がする……、という気休めだが。
遊びに来ていたアシュリーが寝静まったのを見計らって、僕は夜の街に繰り出した。
酒が飲みたい、女の子と話がしたい、飲み会の二次会で。
老若男女が訪れるこの店にはカウンター席が数席、その背後にボックス席が広く設置されていた。
「ベニちゃんいらっしゃい!」
「こんばんは。」
「お飲み物は何にしますか?瓶ビール?何ビールにする?」
僕は元々どんな酒も飲める
辛うじて日本酒。
というのも、アシュリーに処方された例の
「ビンビン来てますね。」
「ベニちゃん頭湧いてるんじゃないの?酔っ払ってるの?」
「そうじゃないんですよ。はは……。」
カウンター越しにこうやって僕をからかうスレンダーな女性は美月さん。
瓶ビールを絶妙な泡心地で注いでくれるので、これも何かの能力なのかと思ってしまう。
美月さんの横で、恰幅のいい男性とチリ産の赤ワインを飲み干している派手なドレスの女性がこの店のママ、春ちゃん。
その奥、カウンターの隅にいる橋本環奈にそっくりな女の子が
カウンター席には僕を含め三人の客がそれぞれ会話を楽しんでいる。
─────
平日ということもあってか、客の数は増えないまま閉店を迎えようとしていた。
それでも3時間程は飲み続けただろうか。
二人の客は一足先に会計し、最後の一人の客は僕だけとなった。
先の客を見送り、戻ってきた風ちゃんが大きな目を見開いた。
「今日もいる!私にはわかる!」
「ああ、わかってるよ。確かにいる。……と思う。」
「思う?ベニちゃん見えるんじゃないの?」
「静かに、美月さんとママに聞こえちゃうよ。」
「う、うぅ……。」
そう、
繁華街には幽霊話は付き物なのだが、こうも怖がられてしまうと話は別だ。
風ちゃんは霊感とまではいかないが、何か異質な者の存在を感じ取ることができるのだ。
僕も同様、生まれ持ったこの体質のせいで幽霊と呼ばれる存在を見ることができた。
「今日はよくわからないんだ。その、風邪薬を飲んでいるから。副作用かもしれないな。」
「早く治してよね!」
「そうだね。早く治さないと……。」
そう言って僕は店を後にした。
寒空の中から一瞬、女の子の声が聞こえた気がしたが、振り返ることはしなかった。
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