episode4 twins
放課後の廊下でサリーに薬をもらい僕は落ち着きを取り戻していた。
僕のテレパシーと思わしき能力は、実のところ自分で制御ができるわけではない。
そう、偏頭痛が起きるときのように視神経付近が熱くなり、
「なあ、サリー。」
「Hmm?どうしましたカ?」
「アシュリーはちゃんと仕事してるんだろうか。」
「No!していませン。タコになっていル。」
パーマンという漫画をご存知だろうか。
宇宙人からパーマンセットというマントやマスク、バッジを受け取り、怪力や飛行が可能となる正義のヒーロー漫画である。
作中にコピーローボットという人形が登場する。
その人形の鼻を押すことで、押した人間や動物そっくりのコピーになり、記憶も引き継がれるという代物だ。
しかしアシュリーの影から生成されるサリーという分身は、アシュリーと姿形は瓜二つだが、瞳の色が異なる。
意識は共有しているそうだが、人格はそれぞれ独立しているようだった。
分身が存在できるのはおよそ30分、それに加えてどちらか一方が躍動しているときは、もう一方は無気力状態となる。
バランスを考慮して行動しなければならないのだ。
性能の悪い双子といったところだろうか。
─────
「ふーん。それで、僕の体調を整えるために薬を作って届けてくれたってわけね。」
「Yes!Blunt medicine!これでベニマルの病気を治しタ!」
「鈍くなる薬……。随分とざっくりとした薬品名だな……。色々鈍くなってるんじゃないだろうか。」
「それは、初めかラ!」
Papillon Pharmacy School of Witchcraft、PPSWことパピヨン魔法薬科学校、通称パピヨンには未だ謎めいた部分が大半だ。
数十冊の本を無作為に持って帰国したものの、中の文字を読めるのは彼女だけだった。
表紙は読み取ることができるのだが、一枚ページをめくると
僕の家に彼女がよく遊びに来るようになってからというもの、ボロ布さながらの本の束が廊下を占拠しはじめてきていた。
しかし不思議なものだ。
数ヶ月前にパピヨンから持ち帰った本の数は、多くて20冊程度のはず。
それがどうだろう、今廊下に目をやるだけで100、いや200冊はあるのではないだろうか。
「ねえアシュリー、普通に思ったことを聞いちゃうけど、この本ってどこから持ってきたの?本の数、明らかに多くなってるよね……。」
「ん?不思議に思いますカ?気になりますカ?知りたいですカ?知りたいですネ?」
覚えたてのハイハイをする赤ん坊のように、満面の笑みでにじり寄る彼女に視線が釘付けになってしまったが、当然疑問に思うことでもあるため小刻みに頷いた。
スッと立ち上がった彼女は、鼻歌交じりに目薬のような小瓶を取り出した。
聞いたことのある鼻歌だ。
マジックショーのときによく流れる……、オリーブの首飾りという曲名だっただろうか。
テンポよく小瓶から液体を自分の足元に垂らし、もうひとりの彼女が現れた。
ここまでは数回目撃しているので何の違和感もない。
「Hi!ベニマル!調子はいかがですカ?」
「やあ、サリー。おかげさまで好調だよ。これから何が始まるのだろうか。」
ペリドットアイを持つ彼女は無造作に廊下に放ってあったナップサックを拾い、その中から真っ白なチョークを取り出した。
黒を基調とした僕の部屋の壁に、何の断りもなく彼女たちはお絵かきを始めてしまった。
ドア……?
これはドアを描いている?
「まさか、まさかでしょう。そんなバカな……。」
「フフフーン、まさかだと思いましたカ?」
「フフフフフーン、私はドラえもんが、好きでス!」
「あー……!やっぱり……ね……。」
これは紛れもなく、どこでもドアだ。
ここから先は想像がつく。
「このドアを開くと、パピヨンなんだな?そうなんだな?」
「はイ!そのとおりでス!」
サリーがドアのプレートであろう部分を指差し微笑んでいる。
しっかりと【Papillon Pharmacy School of Witchcraft】と書かれていた。
「もう驚きはしないけどさ、2つだけ質問してもいいかな。」
「はイ。」
「どうゾ。」
「これって、どこでも行けるの?例えば、そのドアのプレートにハワイって書いたとしたら。」
「No!そんなに世の中甘くありませン!」
「行き先はパピヨンだけでス!」
そう言って、一冊の本を突き出してきた。
「なるほど、the gateway to PPSW……か。じゃあもうひとつ。それって二人で描く意味はあったの?ものすごいエネルギーを消費するから二人がかりじゃないと」
「No!」
「だめだとか……、ってわけじゃないのね。」
「ただの、余興でス!」
もはや何でもありかと思いきや、絶妙なところで現実的な制限がかかるのが可笑しく思えた。
これからお酒を飲みにでも行こうかと思っていたところだから、どんなに飲んでも泥酔しない魔法の薬なんてものがあると助かるのだが。
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