episode3 PPSW

幼少期、僕はいじめられていた。

「○○くんのことが好き。」

「○○の消しゴム盗んじゃった!」


最初はそんな心の声がちらほらと聞こえてくるだけだった。

クラスの中で物がなくなったときに、次から次へと僕が見つけるものだから、僕が犯人だと言われたこともあった。


何しろ気味悪がられていた。


歳を重ねるに連れ、聞こえる声の範囲は広くなっていった。

サトラレなんていう漫画が連載されていたのを読んで、じゃあ僕はサトルか。とも思った。


ただ、あの漫画に関していえば、その世界の中ではサトラレ対策委員会なんていう保護組織があった。

自分の心の声が世間にダダ漏れていることを、本人に知られないよう普通の生活を送ってもらうために結成された国家レベルの組織だったと記憶している。


僕が生きるこの現実世界にはそんな組織は存在しない。

僕は一人だ。


心無い人の声が聞こえてしまうことにより、気を病んだり、友人関係が破綻したこともあった。


しかし、僕にはそのストレスを発散するすべがあった。


精神感応テレキネシス、一般的にテレパシーと呼ばれる五官以外で感じ取る能力の他に、念力サイコキネシスを扱うことができた。


最も、MARVELに登場するスカーレットのように壊滅的な破壊力を持つような威力は毛頭ない。

いいところ、自分で持てる範囲の物質を少し移動させたり飛ばしたり、変形させたりする程度。

それでも使い方一つで便利なものだった。


家の鍵を忘れた。

鍵を外そう。


お年寄りが歩行困難で困っているな。

軽く支えてあげよう。


ミニスカートの子がいる。

少し……。


というように。

僕はモラルを持ち合わせていたので、犯罪に手を染めるようなことは一切しなかった。


聞こえなくてもよいことが聞こえてしまう見返り。

とでも思っていた。


─────


懐かしい記憶がいくつか蘇る中、口の中の砂を噛んで我に返った。


「っぺ!え、あ、あ、アシュリー?ここは……。」

「Papillon Pharmacy School of Witchcraftでス♪」

「パ、パピヨン、ファーマシー…スクール……、おぶ、うぃっちくらふと……?」

「はイ!パピヨン魔法薬科学校でス!」


不思議な体験の中で育ったものだから、ハリーポッターのたぐいのものは多かれ少なかれ存在しているだろうとは思っていた。


だがしかし、ここにはそんな荘厳な雰囲気はなく、ちっぽけな平屋が一軒建っているだけだった。

古びて風化したアーチにはうっすらとPPSWの文字。

錆びで軋むドアを押して中へ入った。


眼前に広がるのはワンフロアの空間で、今は使用されていないのだろうが暖炉が置いてあり、壁という壁にはびっしりとボロ布のような本が平積みになって天井まで重なっていた。


現実にこのような体験をしたら、普通の人は驚くんだろうな。


「で、アシュリー。ダンブルドア校長はどこにいるの?」

「ベニマル!ここは小説の世界じゃなイ!ここには私とあなたしかいなイ!」


つまりはこういう話だった。


彼女は裕福な育ちで、いわゆる箱入り娘だ。

郊外やダウンタウンに出て遊ぶことはたとえ友人と一緒でも許してもらえなかった。

ダンスの練習でハイスクールの帰りが遅くなり、郊外の寂れたエリアを通過したときだった。

木製の塀にぽっかりと穴が空いているのが目に止まり、覗き込んだ。

その穴はどこまでもどこまでも続いており、まるで合わせ鏡のようだった。


吸い込まれるように塀の穴をくぐり、飛び越え進んだ先にあったのがあのすべり台であり、あの砂場であった。


気がついたときには、この部屋で本の虫になっていたというのだ。


壁にある一冊の本を手に取りパラパラとめくる。


英字表記のその本には、興味深い反面、笑ってしまうような内容が綴られていた。

『How to make The Flying Sorceress』

『Another me』


「空飛ぶ……魔法の箒の作り方?もうひとりの……自分?」

「That's interesting!それ、作っタ!」

「はい?」


アシュリーは暖炉の横に立てかけてあった箒を手に取りまたがった。

そしてふわふわと浮かぶ彼女の影から、もうひとりの彼女が現れたのだ。


「Hi!ベニマル。I'm Sally.」


愕然として落としてしまった本は、最後のページが開かれていた。


However, these canただし、これらのものは only be made by youお前しか作ってはならない.】

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