第2話T先輩

僕は、勿論学校にいずらくなった。部活なんて所詮クラブ活動、大学のサークルみたいなものだなんて考えている者はいない。一端、所属すると、あなたはその部活の人なのね、と永遠に烙印を押されたような心持ちだった。クラスの女子からは、「金子君、野球部3日で辞めたんだって。え?待って。それ、冗談でしょ。」なんて言葉が後ろの席から聞こえてくるような気がした。腹の底から、死にたいと思ったこと、学校を辞めたいと両親に相談したこと、涙で床を濡らしたこと、少年野球の仲間に風の噂で、「やっぱりな、あいつだし、続かないだろう。」と言われたこと全てが僕を壊していった。誰にも会いたくなかった。もう限界だとも思った。しかし、そんな中でも一つだけ僕には望みがあった。同じ高校に通う、中学校の野球部の1つ上のT先輩の存分だ。T 先輩は、中学校時代、ショートをやっていて、同級生の先輩方からは、カズと呼ばれていた。T先輩は、2年生の頃からレギュラーに入るくらい運動神経がよいばかりかルックスも良かった。中学校のある集会で学校の女子が選ぶ人気男子ランキングで1位に選ばれたこともあった。T 先輩に僕は、高校入学当初、特別な憧れがあったわけでもなかった。同じ高校に通うことになった中学校の同級生にT先輩が、野球部ではなく、バスケ部に所属していることを聞きつけたことが、興味を覚えるきっかけとなった。高校からバスケを始めて、ついていくことができるのだろうか。T 先輩ばどれくらい上手いのだろうか。僕のこと、覚えてくれているかな。色々な感情が沸き起こる。このまま、帰宅部で3日で野球部を辞めた男として、学園生活を終わらせたくない。バスケなんてやったことないけど、とりあえず行ってみよう。クラスのバスケ部の人に練習日を聞き、僕は緑のコートの体育館に向かった。初日の練習、この人は風邪が、それとも地声かわからない白髪の中年の男の声が体育館のコートに、響き渡っていた。「T!リバウンド、走れ!」T 先輩の動きは、到底高校からバスケを始めたとは思いますほどの華麗なパス裁き、ドリブル、それからレイアップシュート。T先輩が、コートの片隅から見つめる僕に一瞬目をやると、すぐに自分のプレーに集中する。「こいつ、俺と同じ中学の奴なんだよ。どうしたの、今頃。バスケやんの?」僕は、二つ返事に、「はい」と答えた。いちいち、今までの経緯を説明するのは、めんどうだった。また、もう、T 先輩のプレーを見てこうなりたいとそれは確かな憧れへと変わっていったのを感じていたのだ。隣にいた、ジャニーズにでもいそうな顔立ちの良い選手は、何がおかしいかわからないが僕を見て笑っている。







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