第4話 逃亡②

 あれからどれくらい走って来ただろう?

 森の隙間から見える太陽は、少し西に傾いていた。


(腹減ったなぁ……)


 食べ物と言えば、急いで詰めてきた干し芋と、幼竜のための川魚のみだ。


 干し芋はカダン地区ではありふれた保存食で、作り方は失くなった婆ちゃんに教わっていた。

 幼少期、"おやつ"というものを知った僕にくれたのも、この干し芋だった。


 今では自分で作ったものだけど、頬張るとどこか婆ちゃんの味がした……


(今日中にリシータに辿り着けるけど、暗くなりそうだ、隠れて眠れる場所を探そう……)


 街道に出れば見つかるリスクは高くなる。

 このまま森の中を進むしかない。


 まだ明るかったが、丁度良さそうな使われていない古びた小屋を発見した。

 僕はそこで夜を越すことを決めた。


 西日が朱く小屋の隙間から差す頃、

「ぴーぴー!」

 おっと! 大王さまのお目覚めだ。


 僕はサッと川魚を取り出し、幼竜に与えた。

 幼竜は嬉しそうに川魚を頬張っている……


 そういえば、まじまじと見るのは初めてかも?


 見た目は、白いふわふわの体毛に覆われた小動物。

 これがまさか守護竜(神竜)の生まれ変わりと言っても誰も信じないだろう。


 ほぼ犬、である。


 一心不乱に魚を食べているようなので、少しだけ体を触ってみた……

 背中には少しだけゴツゴツとした突起物がある。

 羽になる部分かな?

 犬との違いを言えば、取って付けたような尻尾ではなく、背中から真っ直ぐに繋がった尻尾の形状をしている。

 以外、ほぼ犬だった。


(しばらくは"犬です"と言えば誤魔化せるかも?)


 生え変わりが早くなければ……


 竜の生体など知るよしも無い。


 幼竜は、いつの間にか食べ終わったのか、そのまま丸まりスースーと寝息を立てていた。


「僕の名前は"ハビト"だよ……君の呼び名だけでも決めておかないとね……」

 丸い背中を擦りながら、僕もいつの間にか眠りに落ちていた……


「……ト……ハィト……」

 幼児に呼ばれている気がして、僕は目を覚ました。

 が、同然僕以外の人間などいない。


「ハィト……」

 いや、確かに僕を呼ぶ声?


 声の主は僕の懐で丸くなっていた幼竜だった!


「しゃ、喋った?!」

 舌足らずだが、僕の名前を呼んでいる!


(おいおいマジかよ)

 一昨日の夕方生まれて(?)

 竜って三日目で喋れるのか?


 さらに、ひょこひょこと歩きだすと、僕の頬に頬擦ほおずりしてきた。


(やべー、めちゃくちゃ可愛い!)


 僕が起きたのを見届けると、大きな黒い瞳をパチクリさせて、そのまま丸くなって、また寝てしまった。


(これは、育て方も含めて、早く誰かに相談出来ないとマズイな……)


 すぐに僕は幼竜をまたブランケットに包むと、小屋の外の安全を確かめて、再びリシータへ向けて歩みだした。


 そろそろカダンの森を抜ける……そうしたらリシータ地区だ。


 お昼近くに森を抜け、眩しい太陽が顔を照らす。


 一瞬目が霞み、慣れてきた頃に目に入ってきたのは、少し遠くに高くそびえる"セントラルタワー"だった。


 ロックボーケの中枢にして、竜守の総括でもあるセントラル。


 威信とも言える、そのタワーのごとく強大な組織に対して、僕のような若輩者が太刀打ちできるすぺなどあるのだろうか?


 不安を数えてたらキリが無い。


 僕は首を横に振り、セントラルを越えた森の先、ダイの家を目指した。



 続く。

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