第3話 逃亡①

 僕は、静かに眠る幼竜をブランケットにくるんで抱き抱えたまま、ひたすらに森の中を走っていた。


「やっぱりな、ここを通るんじゃないかと思ってた」

 ドキッとして、足を止めた。

 前方から聞き覚えのある声。


 茂みから現れたのはカダン地区の同期生、マサとゴンだった。


「マサ……ゴン……」

 監視官の命令で、僕を捕らえに来たに違いない……


「昔から、この辺が俺らの遊び場だったからなぁ、秘密基地とか」

 ニヤリと笑みを浮かべるゴン。


「びっくりしたぜ、朝早くに起こされたと思ったら、ハビトの確保命令とはな」

 苦笑いのマサ。


 僕には二人に負い目がある……

 戦闘力なら随一のマサ、

 巧みな戦略で他を圧倒するゴン、

 そんな二人ではなく、僕が竜守になってしまったこと……


「通してくれ、今は捕まるわけにはいかない!」

 事情を話している時間は無い、

 話しても理解して貰えるかも分からない……


「まぁ焦るなよハビト、この道は地元の俺達じゃなきゃ知らない」

 ゴンがなだめるように言う。


「全部話せとは言わない。でもこれだけは聞かせてくれ、"違うんだよな?"」

 マサが真剣な表情で僕に聞く。


「違う! でも何が起こってるかも分からない。だから、それを僕は確かめたい」

 この二人には隠し事は無しだ。


 マサとゴンは顔を見合わせて、マサが口を開いた。

「分かった。俺達はここでなにも見なかった。ハビトを発見出来なかった。そうだよな?ゴン」

「あぁ……何も見てない」


 そこには昔から変わらぬ、二人の無邪気な笑顔があった。


「ありがとう、マサ、ゴン」

 僕は二人に頭を下げた。


「やめろよハビト、それじゃお前を推薦した俺達のメンツが無いだろう?」

 いつもの苦笑いのマサ。


 推薦……?!

 そんな……だから俺は竜守に……


「騒動が落ち着いたら、必ず助けに行くよ」

 友達想いで優しいゴンも昔のままだ。


 二人に見送られ、僕は再び走り出した。


 僕が竜守に選ばれた理由……

 それは、こういう運命にあったからかもしれない。

 僕にしか出来ない"何か"が、あるのかもしれない……


 一路、リシータへ!



 続く。

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