7 レイプ未遂
修学旅行明けの学校には、明け方に見た夢の続きのような重い空気が漂っていた。昼休みまでが長かった。昼休みに近所の店にパンを買いに出たときに、店の近くで血相を変えた隆が話しかけてきた。
「ついに師岡がやりやがった。文華がレイプされそうになった」
隆は声を潜めて言った。
「……レイプ」
恒平は耳を疑った。師岡は二年生が修学旅行に行っている間に、文華の家に忍び込み、寝ているところを襲ったが、文華が大声を出して、家族が気づいたため逃げた、ということだった。
「それは、犯罪だろ」
「そうだ。しかし、親告罪だ」
「親告するしかないだろ」
「……ああ、俺は賛成だが」
「師岡は登校してる?」
「いや、してない」
「文華さんは?」
「してる」
文華は見たところ元気そうだが、レイプ未遂事件については、隆にしか話しておらず、親告もしてないという。親はそうすることにあまり気が進まないということだった。
「だけど、師岡を野放しにしておくのか?」
「それはできない。……その件で、田村さんに相談したいんだ。今日、田村さんの家、行かないか?」
「いいよ」
放課後、二人は原付で、雨が上がった夕暮れどき、田村の家へと向かった。親に買ってもらったばかりの原付に跨がる恒平は、隆の後に続いた。
「隆くん、久しぶりだな。元気?」
いつもの納屋の二階で田村と会うと、開口一番に言った。
「元気ではないです」
隆は文華の身に起きたことを話した。田村の顔が青ざめた。
「そんなことがあったとは」
「どうしたらいいんでしょうか? 裁判になってもそこまで罪は科されないようですし」
「そうかもな。とにかく、自分で何か仕返ししないと、気が済まないよな」
「はい、まさにそれが俺の今の気持ちです。よくわかりましたね」
二人は怒りで結束したようだった。それは正義への情熱でもあり、部外者の恒平も感化された。
「ぼくも協力します」
「そうか。助かるよ」と隆。
「おお、恒平くんも粋だね! 前に船の中で出会ったときよりも、かっこよくなったんじゃないか?」
「そうですか? そう言われると嬉しいです」
「よし、ここで結束を固める儀式をしよう」
田村はそう言うと、タバコに火を点けた。一口吸うと、恒平に渡した。恒平は田村に倣って、一口吸った。特に美味しいとは思えなかった。ただ、口の中に煙の味が広がっただけだった。そのタバコを隆に渡した。隆も二人に倣った。恒平にはこの儀式は効果があった。恒平は初めて誰かとのつながりを強く感じることができた。それにより、これまでの学業成績だけがIDという卑屈で、裸の王様のような自分から脱して、今初めて確固とした輪郭のある自分になれた気がした。
「さてと、何か案はある?」
田村は隆からタバコを受け取ると言った。
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