最弱職で死に戻り、鬼畜難易度異世界を攻略するには死ぬっきゃない!


あらすじ

夢か現実。現実は小説より奇なりなんていうけれど、夢だと思っていたら、自作ゲームの世界の適当に配置したモブNPCに憑依した。


新アップデートの作業に追われウトウトしながらファイルの整理をしていた俺はいつのまにか見慣れない屋敷の前で知らない少女に憑依していた。

ちょっとしたすれ違いで同僚に殺された俺は復活する。

よく分からず外に出ていつのまにか死ぬ、暴漢に襲われて死ぬ、お金がなくて飢えて死ぬ、交通ルールがわからなくて馬車に轢かれて死ぬ、野良犬に食われて死ぬ。


死んで死んでようやく気づく。

あれ、ここ俺の作ったゲームの世界に似てるなと。


◇◆1


人生はクソゲーだと言う。

確かにリセットもセーブ出来ないしロードをして何度もやり直すことなんて出来ない。生まれてくる場所、環境によってはリセット不可避の害悪スタートなんてあるだろう。

日本という現在最も平和といってもいい地に生まれ、食に困らず飢えず渇かず、屋根のついた家に住み努力次第では成り上がれる。多少差別はあれども文言無用で殺される機会なんて稀にしかない。

ゲームで言えば全フィールドが序盤のモンスターしか出ない地帯、ゲームと違ってクソ難しいクエストを受けずとも金と時間さえあればスキル(技術)を覚えられ、怪我をしても薬草なんて原始的なものを使わずともいい。

なんて神ゲー。

クソゲーというのは初手即死のドラゴンズレアだとか、見えない弾幕で開始3秒で死ぬコンボイの謎とかじゃないだろうか。

人生ってのは神ゲーだ。無限に分岐するやり直しができない最高のストーリー。

リセットが効かない一度きりの特別なプレイデータ。

クソクソいいながらやり込んでしまう中毒性。

人殺しをするもよし、スキル上げもせずに寿命まで生きるもよし、無謀に突っ込み続けて楽しさを取るもよし。

なんだって出来る最高なゲームだ。

一ゲーム開発者として自分もそんな神ゲーを作ってみたいとつくづく思っていた。


だからこそ言おう。




人生はクソゲーだったと。



◇ 第1話 外れキャラ◇




夕暮れ時、ランプも無しに薄暗くなってきた空を横目に今日も今日とて掃除をする。


正直もう秋になってきて少し肌寒いな。と思いつつこれ以外に自分がやれる仕事がないという現状にため息が出た。


あーあ、給料は安いし、毎日片付けても片付けても舞い散る枯葉に嫌気がさしてくるわ、従えてる主人の趣味が悪いし坊ちゃんもスカート捲りなんてやってきて嫌になっちゃうな……



と、思ったところでアレ?と思うわけよ。ん??なんかおかしくない?

スカート?掃除?なんのこっちゃ。

いつのまにか手に持っていた跨がったら空に飛べそうな箒を放り投げて全身を見る。


「は?うわ、きも……なんだこれ、は?」


紺色の生地のドレスに白いフリル、秋葉原にいるような性欲丸出しのミニスカではないレトロでシックな正統派のメイド服だ。

ドラ○もんのポケットのように腹に着いた白いフリルから何の気なしに手鏡を取り出した。

色々意味がわからないが、熱湯に触った時のように反射的に取り出した件については今考えるべきではないだろう。今は突っ込むより状況確認がベストだ、ベストオブベスト。ちょっと何言ってるかわからないな。


日は沈んで白まった空とは対照的に辺りは暗い。鏡に映った空の白さと"私"の暗さの彩度差の所為で顔が見えない。

ただ一つ言うことがあるとすれば綺麗になっている……だろうか。


髭もない、ニキビもない、眉毛も太くない、顔を触っても脂っぽくない腕から剛毛が生えてない。はえーすっごい



「メアリー!何してるのです!早く掃除をしなさい」


「はーい!!今やります!」


あーあ、あの人うるさいんだよね。やだなあ、少しくらい休んだっていいじゃない、あー、掃除やるか。

屋敷の二階からこちらに怒鳴ってきたおばさんに怒られて箒を拾って集めた枯葉をちりとりに入れ……


「いや、はーいじゃねぇよ!?!」


ばちーん、とギャクマンガのように地面に箒を叩きつけた。

メアリーって誰やねん。

俺か?俺のことメアリー言うたやん。

うわー、引くわ。

ないわー、41歳ナイスガイ独身貴族の俺が?


おいおい、いつから俺はスカートを履くような人間になった?

女装趣味とか他人を主人様なんて呼ぶハードなプレイには手を出した覚えがないぞ、と考えていったいこれはどういうことだ。


「メアリー!!何をしてるの!!早く、しなさい!給料減らすわよ!!!!!」


「うっせえぞ!クソババア、俺はメアリーじゃねぇよ!てかメアリーって誰だよ!!!」


「!?!!!?」


二階から癇癪ババアの怒鳴り声に応襲した俺は悪くない。ないよな?

ポケットから電子タバコを取り出そうとしてさっき取り出した手鏡以外もっていないことに気づいて泣いた。ポケットの隅に溜まっていたゴミと塵がパラパラと出てきた。……泣いていいすか。



うん、夢だ。これは夢。ありえない。

あれだ、こんな夢見たことあるし。

あれだな愛の強さっていうやつ。

ゲーム運営者としての自作ゲーム愛が爆発してゲームの夢を見ている的な。

昨晩の夢が舌が引きちぎられて自分の舌を生で食うとか言う猟奇的な内容だったからそれよりはマシ。

なんだ、誰だかわからない人に憑依してババアに怒られる夢か?

今後のアップデートで追加してもいいかも知れん。

いろんなパロディネタを突っ込んで来たけど正直ネタ切れ感あったし、メイド少女を怒るクソババアの会話……あー、クエストでもいいな。


考え事をしていると建物のドアを乱暴に開けたおばさんが顔を真っ赤にして鬼の形相でこちらにかけてきたのに気づいた。


うはっ、顔真っ赤やん、ぶふふワロタ。


「メアリーィィィ!!!!!!!!!!」


わー、怖い怖い。

逃げようとした俺は地面に投げつけた箒に足を取られて転んだ。

どこ目つけて歩いてんじゃボケェ!

箒にガンを飛ばしている間にもみるみるうちに迫り来るおばさん。


「おにばばあ!こっちくんな!」


「鬼ババアとは何ごとですか!?」


何もかもこんな長いスカートをはいている自分が悪い。長いスカートが絡まって足が上がらんし何しろ重い。小学生の時入学式で始めてスーツを着せられた時のような身体を包む倦怠感に似た重量。

とにかく体を動かし辛い。

ユニクロのスーパーなんとかジーンズが欲しい。スーパーストレッチだったけ?

足をもたつかせながら立って走り出そうとした俺は首の後ろを引っ張られて引き戻された。


「あ、こ、こんばんは」


青筋を立てて赤鬼から青鬼に第二形態化したおばさんに捕まった。

おわた……。



「ええ、お昼ぶりねメアリーちゃん」


そうなのかー。ふーん。


「えっと、十分お若いですよ?」

シワを寄せていると本当に鬼ババアになっちゃいますよ?


「そうかしら、ふふふ」


そうそう、お若いよ。鬼ババアとか言った覚えがないから許してちょんまげ。


「ええ!そうですとも、はははお姉さんのようなお綺麗な方は見たことがございません」


「それはそうとさっきのことは忘れませんよ?」


いやぁ!!侵されるぅ!アアー!!

帽子の中に誰もいませんよ。と言いたげな恐ろしい顔をして俺の上に馬乗りになった。

今の俺が少女じゃなくて元の姿ならえっちぃな描写になるだろうがそんなことを考える余裕がなくなってくるほどにただただ恐ろしい。

小学生の頃、近所で有名な癇癪持ちが住んでいる家にピンポンダッシュを決めて追いかけ回された時並みの恐怖に見舞われていた。

夢なのに恐ろしい。

30年ぶりのおねしょをするかもしれないという別の恐怖にも襲われながらおばさんの顔を見る。

誰なんだアンタ、てか俺が憑依?している少女の設定も分からん。

不親切だぞ!


大きく上に手を振り上げてギロチンの刃を下ろすように頰をパチンと叩かれる。

いってぇ!?は!?ぎゃぁぁぁあ!死ぬ!ああああああ!!!!!


「メアリーィィィ!反省っ!しなっさい!……っ!きいてっ!いるのっ!ですか!!」


怒鳴りながら交互にぶたれる頰はジンジンして首の骨も少し痛む。

夢とは言え痛いものは痛い。

痛くなかったら夢は妄言。夢でも痛いものは痛い。

頭に血が上っているのか、やめてと言っても謝っても頰を叩くのをやめてくれはしなかった。

最初は鼻、次は目、だんだん場所がずれてきた。だんだん耳が遠くなってきて、鼻血と唾が喉に詰まって息ができなくなった。

苦しくてもがいて頭をあげようとして片手で掴まれて地面に叩きつけられて、俺は意識を手放した。





◇◆2






いつか旅行で行ったカルフォルニアのような砂混じりの薄黄色い空、天井にはめ込まれたステンドグラスから覗く光が俺を照らしている。

頰を叩かれ鼻血を詰まらせて窒息したのは夢だったのか。

石造りの教会に置かれた姿見を見て唖然とした。


まだ夢は覚めていないらしい。

ロングのメイド服に身を包み片手に背の丈程ある箒を持った少女がバカみたいな顔をして立っている。彼女の名前はメアリー、俺が夢か現実か憑依している体の持ち主である。

あの後何があったのか知らないが気づいた時には木製の椅子に座っていた。

塵しか入っていなかったばすのポケットには聖書のような小さくてページ数がある本が入れられていた。

それもいつの間に。

寝ている間に変なことされてないだろうな。

いくら自分じゃなくても夢でも意識が自分が動かしている体をべたべた触られるのは嫌だぞ。


何の為にあるのかわからない姿見の前で自分の体を確認していると、後ろで穏やかな笑みを浮かべている神父らしき人が見えた。


あの表情はあれだな。

『おお、メアリーよ、こんなところで死んでしまうとは情けない。』

だろ。……違う?知ってた。



「くぁwせdrftgyふじこlp」

言葉に言い表せない頭がおかしい発言をしてみる。なんか言わなくてはいけないような気がした。

頭がおかしいと自分でわかっているやつは頭はおかしくない。すなわち少女に憑依して頰を叩かれて意識を失ってRPGのテンプレみたいに教会みたいな場所で目を覚ました俺も頭はおかしくない、むしろ正常 Q.E.D証明完了。


「おお 目覚めましたか そなたに "ノール"の 祝福が あらんことを」


変な間をとって突然喋りだした神父を放置して外に出る。

出ようとして思ったより扉が重くて開かない。ぐーと、押してみたが開かなくて、なにもかも貧弱なのが悪い、体の持ち主は肉を食えと悪態をついているとさっきの神父がやってきて扉を開けてくれた。

「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございます」


引き戸だった。そりぁ、あかんわ。恥ずかしい。


「いえいえ、お困りでしたらいつでも来てください」


灰色のもちゃもちゃした髭を生やした神父さんはニコリと笑ってみせた。

お爺さんなのに力あるんすね。びっくりドンキー。


「ああ、待ち為され」

そう言って呼び止めた神父は、ポケットに手を突っ込んで中から見覚えのあるコインを取り出した。


「お嬢ちゃん、大したお金じゃないが使いなさい」


控えめに言って聖人かな?


「え、あ、ありがとう、ございます」

つい、言葉を詰まらせた。

感動からじゃない、コミ症だからだ。


それでも感謝はしている。

ぺこりとお辞儀をして金銭を受け取った。


なんだかわからないけど、いい気分だ!

手を振って鼻歌を歌いながら道に出た俺は砂煙をあげながら走ってきた馬車に轢かれて死んだ。



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