異世界転生したら終わりじゃない


あらすじ

あらすじっ☆

喉に野菜を詰まらせて死んだ青年、八代伊吹は三途の川の前で途方にくれていた。

中途半端に死んだせいで天国にも地獄にも行けず、現世にも帰れない。

そんなおり、三途の川にいた死神に声をかけられ死神業にスカウトされる。

25日に5日働くだけ、高収入、現世に行き放題、有給転生も可。

死後から始める再就職!

死後から始まるスローライフ!!

ヤッタァ!勝ち組ふぉぉぉー!!!!!


嘘です。以下本当のあらすじ。

◆◇


野菜を喉に詰まらせ死んだ青年、八代伊吹は神道を信仰していたにも関わらずそれに気づかず仏教の葬式をしてしまったせいで、天国にも地獄にも行けずに三途の川の前で彷徨うことになってしまった。

気を効かせた死神に、死神にならないかと誘われるも仏教徒じゃないという理由でお断りされてしまう。

流石に可哀想だと考えた死神の独断により違う世界に生まれ変わらせてもらえることになった。


どんな世界に生まれ変わるか、性別も、種族もわからない。そんな中で異世界に身、一つで転生する。


そこにあるのは、彼が目指すスローライフか、はたまた

◇◆1


僕の名前は八代伊吹。


どっちも苗字のようだってよく言われるけど、響きが良くてなかなか気に入っているんだ。


小中高と普通の学校に通い大学もそこそこで卒業、就職も上手くいってその祝いで食べた中華ラーメンに入っていた水菜を喉に詰まらせ御陀仏したっぽい。


仏教はあんまり信じていないから御陀仏じゃないかもしれないけど、とりあえずわかることは、喉に野菜を詰まらせたってことだ。

目の前に見えている花畑や川が俗に言う三途の川だとして、僕はまだその川を渡っていないようだから、もしかするとまだ死んでいないのかもしれない。


人間の死とはなんなのか。

コンピュータの電源が切れた状態みたいに死んだら自分が死んだことに気づかず意識が途絶えた状態になるのではないかと思っていたが、本当にこんなものがあるとは思いもしなかった。


透き通る三途の川を見て無性に喉が渇いてきた僕は、手ですくって水を飲んでみようとするも、水はまるでなかったかのように手をすり抜けていった。

川の中に口を突っ込んでも飲めないらしい。どうやらただ見えているだけで実態はないらしい。

いや、ゲームで言う見えているけどプレイヤーには触れないオブジェクト的な感じか?


川を渡って行く船を見ながらそんなことを考えた。


ーーー


三途の川の前に来てしばらく。

無表情でぞろぞろ船に乗って向こう側へ行く死人たちを見ながら僕は途方に暮れていた。

最初は三途の川を渡らなければ現世に戻れるんじゃないかと思い待っていたが、如何にもこうにも現世に戻れる気がしない。

三途の川をみたけど戻ってきたら植物状態から治ったみたいな話を聞いていたから、三途の川を渡ると言うことは生きるのを諦め死を受け入れてしまうと言うことだと考え渡らないようにしていたが、現世の人間は僕を治療してくれる感じではないのだろうか。

何日経ったのか、最初は美しいと思ったここも、今では飽きてきた。


変わらない風景、飲めない水、渡れない川、無反応の死人たちと事務的な橋渡しの死神たち。


治療も受けられてないのか現世に戻れずこれだけ時間が経てばおそらく肉体は死んでいるが葬儀をされていないのか、渡賃を持たされていないし、服も現世で来ていたまんまだ。

白い着物……あー、死装束だっけ?

自我がある自分とほかの死人たちの違いは死装束に身を包んでいるか否か。

多分これが、自分が精神まで死んでいない特徴なのだろう。

今まで20年くらい生きてきて空から女の子が降ってきたり、ステキな力に目覚めたり、そんな面白い出来事はなかったが、まさか死んでから目覚めるとは。


ぼ、僕にこんな力が……!


あああああ!!役にたたねぇ!マジなんだよコレ…ェ……いらな。


何というか、困ったことにこの力?のせいで船にも乗れないし川も泳げないのだ。


三途の川の橋渡しの船頭さんに渡賃なくても船に乗せてもらえるか試しに聞いたところ、オッケーをもらったのだがいざ乗ろうとすると船をすり抜けてしまったのだ。船頭とは言っても死神だが、彼らも不思議がっていたのが特徴的だった。


なんとかならないかって聞いたら、知らんとしか言われないっていう、ね。


それでこうやって途方にくれて、河原に座り込んでいたわけですよ。

はー。やってられないね。


あんなに死にたくないって思っていたけど、こんなに暇だと死んでもいいかな、なんて思えてくる。まあ川を渡れないから死ねないんだけども。


よくみてみれば、死装束に身を纏った死人たちはしばらくするとふらふら歩いて行ってしまっているのが見えた。

あまりにも暇なので、死神の手伝いをする意味もあって、列に並ばない死人たちの手を引っ張って列に並ばせていると、いつのまにか死人が来なくなって全員運び終えていた。


「お、君。半霊くんじゃないか?」


船から降りてきた死神が僕に話しかけてきた。


「あー、久しぶりです」


自分よりも目線一つ高い彼女は最初に僕が話しかけた死神だ。

僕のことをみて生きているようで死んでいると語り、半霊だね☆ってと軽いノリで言ってきたのだ。


「やーや、君のおかげで仕事早く終わったよ。どうだい?この後飲みに行かないかい?」


「えっ、いいんすか!ありがとうございます」


いつものノリで返してしまったが死んでる自分は食べ物は食べられるのだろうか。

川の水や船から透けてしまったように死んでも生きてもない状態では無理なんじゃないだろうか。

まあ、地面に立てているという例外もあるだろうが。


「あー、待って。ちょっと待って」


サラサラとした赤い髪の生えた頭を抑えながら、何かを思い出すようにタンマをかけた。


「うん、ダメだね。いや、あ!アレがあるじゃん」


うんうんと、一人で頷いて納得した死神は僕の右手を掴むと強引に引っ張って歩き始めた。


「え?ちょっと、どこ行くんですか?」


「ああそうだった。うん、君さ。半霊だからこのままだと一生彼処にいることになるかもしれないんだよね」


「は、はぁ」

マジかよ、ゾッとしたわ


「今日の働きっぷり見て思ったんよ、君を死神にしちゃえばいいやって!どうかな?良くない?」


「うーん、死神とか良くわからないんですけど、」


「死神は楽だよー。勝手に天国や地獄には行けなくとも現世に行ったり徳ポイントを貯めれば服を買ったり生まれ変わって新しい人生を送ったり出来て仕事は25日中に5日やればいいし、食べ物は美味しいしね」


な、なんか思ってた死神と違うんだが。

この死神もなんかチャラいなって思ったけど死神全体がこれなのか……。


「あれ、現世に自由に行けるって」


「んー、そう。君、自分が死んだ後どうなったか知りたくない?

もしかしたら、自分が死んだのを見たら成仏して天国に行けるかもよー」


現世!現世に行けるってまじかよ。

実体がないなら映画見放題、入場制限ないから侵入し放題。

神ってる。死神ってる!


「死神、なります!!よろしくお願いします。先輩!」


僕は死神に握手をして挨拶をした。

これからは先輩、後輩の中になるだろう。

べ、別に死神になるのに欲深い打算ばなかった……いいね?


「お、おう。いい意気込みだぞー!半霊くん!それじゃあ行こうか」



あくまでも僕としては先輩のお役に立ちたくて死神をするんだ。


死神をやっている自分を思い浮かべてちょっとやって行けるか心配になった。




◇◆2


三人称

ーーー





「伊吹……。そんな馬鹿みたいな死に方するなんて……笑えねえよ」


目尻から湧き出した涙を袖で拭きながら友人は去っていった。


葬式前夜、会場に集まった人々は安らかに眠る八代の顔を見て別れの言葉を告げていた。


「ぐずっ……おにいちゃん。変な死に方したらネタにして笑っていいなんて言ってたけど、すんっ……本当にこんなのって……ほんと馬鹿なの……」


八代芽衣(やしろめい)、八代伊吹の妹である彼女は兄の急去を聞きつけ高校のクラスメイトと遊びに行っていた卒業旅行先から飛んできたのだ。

通夜に参列し、葬儀が始まる明日。

通夜には参加できなかった友人や親戚達が火葬される前に伊吹へ最後の別れと感謝を告げに来ていたのだった。


「いち兄なら、ほら綺麗な顔してるだろ、死んでるんだぜって言ってるかもな……くくく」


伊吹のことをいち兄と呼び、笑いながらも顔を真っ赤に腫らして泣いている

青年は従兄弟の浜松海斗(はままつかいと)だ。

伊吹より年下の彼は引きこもりでロクデナシの兄に変わって伊吹のことをほんとうの兄のように思っていた。

だからこそ、こんな時に伊吹がなんていうかだいたい想像出来て、それが逆に笑えなかった。



「ほら、これな、葬儀屋の人が綺麗にしてくれたんだ。伊吹も綺麗に化粧してもらって喜んでるぞ」


父、八代桜楽(やしろおうらく)は眠る伊吹の遺骸を指してそう静かに言った。

世界規模で流行った大規模な感染症からも逃れ無事に大学を卒業、就職も決まり、まさに順風満帆だった矢先、息子の訃報を聞いた彼は耳を疑った。

会社にかかってきたその電話に、悪い冗談だと笑い、深刻な声で告げられると怒り、辛抱強く死んだことを告げられ唖然として会社から早退した。


スーツを汗だくにして走りづらい革靴を履いたまま駆けつけた病院で、ベッドに横たわる息子の姿を見た彼は現実を受け入れ涙を流した。

喉が急に乾いて息が苦しくなった。

いい歳した大人が大声を出して泣く姿に誰もが気まずそうにしていた。


伊吹の死因は窒息死だった。


子供時代から喉の力が弱く、良くものを詰まらせてきたが、まさか野菜を詰まらせて死ぬとは思っても見なかった。

死んでしばらくだっているのか、血の気のない白い唇に、眼球が上に向いた虚ろな目、紫色の肌と体のあちこちに出来た黄点が伊吹が死んだことを示していた。


これ以上痛まないように遺体は、丁寧に処置され冷凍された。

冷凍された伊吹には綿でできた死装束を被せられ葬儀屋の手によって紫色の肌が見えないよう生前の写真を元に化粧が施された。

桐でできた棺桶には大きな白い花が入れられ死者をあの世に送るための包装が体に巻かれていた。

あの世に行っても寂しくないように棺に好きなものを入れても良いと言われた参列者達は、柏餅やカップラーメン、読みかけのマンガ本、大切にしていた壊れた時計、伊吹が書いたライトノベルなどが入れられた。


妹の芽衣は何処から持ってきたのか伊吹の黒歴史ノートを放り込んでいた。



そうして各々が別れを告げた翌日、朝から葬儀が始まった。

黒いスーツに身を纏った参列者達は椅子に座り見届ける。

お寺から来たお坊さんがお経らしきものを読み上げ、淡々と葬儀は続いて行く。

幾度かの合掌とお経の読み上げが終わり小休憩を挟んだのち、参列者達は最後のお別れをした。

前に集められた彼らは閉められて行く棺と眠る伊吹を視界に収めながら合掌をした。


棺は親族や友人によって持ち上げられ霊柩車に運び込まれると火葬場に向かった。


淡々と説明をして行く火葬場の人間に半数は、現実を受け止められずにふわふわとした気持ちでいた。


火葬炉に飲み込まれて行く棺を見届けながら心から冥福を祈った。

死者は生き返らない。


ただただ、残された人たちは死者に祈りを捧げることしか出来ないのだ。





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