第23話魔法使い、異世界のからスカウトされ世界を超えて就職する


あらすじ

古の時代、化け物を閉じ込めるため作られた世界に暮らす魔法使いヴァルウスの元に見たことのない文字で書かれた手紙が届く。魔法の力を借りて読んでみれば自分宛てではないスカウト状だった。


"魔法警察は貴方を歓迎します。高待遇、衣食住完備、週休三日制''


聞いたこともない組織だったが賞金稼ぎなんていう安定しない仕事をさっさと辞めてしまいたかった彼は、誘いに乗り手紙に記された手順に従って魔法を使う。



飛ばされた先は異世界。

古の時代、化け物を閉じ込めた世界と別れたはずの新世界と呼ばれる場所だった。


◇◆



賞金稼ぎ《蒼極の狼》ヴァルウスの今日も一日が始まる。

黒い煉瓦造りの街が広がり中央には白く輝く城が見下ろすなか路地裏を疾走していた。

前方の集団は豪華な馬車に乗り必死で逃げているようだった。

それを追うのがヴァルウス・シュタイン仕事仲間からはウルスと呼ばれる賞金稼ぎだ。


幅1m程度で人、一人が駆け抜けるのがやっとの幅を横幅10mはありそうな巨大馬車が走り抜けて行く。

馬車が通る瞬間空間が歪み道幅がぐんと広がり、通った後は元に戻って行く。



「待てやこらぁ!」


「待つわけねぇだろ!!!!!来んな!」


鬼の形相でウルスは追いかける。

魔法の力で加速した彼はただ一人で走り追う。

白いファーに青のロングコート。裾が走るたびにバサバサとひらめき音を立てる。

オールバックにした銀髪、獰猛に笑った口元と馬車に負けない速さで疾走するその姿は狼を思わせる。

それもそのはず、ヴァルウス・シュタインは《蒼極の狼》という本人の嫌がる二つ名を持つ吸血鬼と魔法使いのハーフ、賞金稼ぎなのだから。



「パパぁ!」

「あと少しだから頑張れっ!」


馬車に乗った獲物が逃げる。

恐ろしい顔で追いかけてくるウルスに馬車に乗った賞金首指定を受けた人物の子供が悲鳴をあげる。


「逃げんなこら!死ね!!殺すぞ!止まれ!!!!!」


逃げないわけがない。



酷い無法地帯"ロッテルデム"。

元は国益のリゾート地として開発していたが莫大な借金を抱え国が破産。それに伴い工事し終えたにもかかわらず使われることなく放棄されていた場所だった。


それをしめしめとやってきた魔法使い達が占領、今や魔法使い達の都市となっている。

街は魔法使いの好みに合わせて魔改造された。道には人間と見た目の変わらない魔法使いだけでなく、吸血鬼、死にかけ、トカゲ頭、でか豚、老い顔と言った様々な種族がいた。


吸血鬼以外は魔法使いが侮辱をこめて読んでいる名称で、トカゲ頭がリザードマン、でか豚がオークやトロール、老い顔がゴブリンとドワーフと言った感じだ。

彼らは奴隷か奴隷に毛が生えた程度の自由しか許されず、魔法世界では産まれながらにして強大な力をもつ魔法使いと、長く生きて知識と力を蓄えた吸血鬼たちが支配階級を占めていた。


魔法使いと吸血鬼を魔人種以外の人型で魔法を使える種族を亜人種と呼び、魔法を使えない人間を人間種と区別した。


もちろんこの言い方は魔人種が言い出した表現であるが、人間種たちが超常現象やらファンタジーなどと表現してイメージしている魔法使いと同じだ。



魔法世界にも普通の人間たちと同じように国家や法律などがあるが、ここのように魔法使いが勝手に集まって都市を作ってしまう場合もある。

そういう場所は国家も干渉しなければ法律も適用されない。というか見放されている。どうせ干渉できないなら犯罪者でも押し込んでおくかと言わんばかりに罪の軽く収容していると国家予算を圧迫して来そうな輩を無法地帯に追放している。

ただし凶悪な犯罪者は追放すると世界正服だとか、人間種の世界に迷惑をかけたりだとかロクなことをしないので地下深くに封印している。



ちなみに世界魔法機関(WWO)は、魔法世界の秩序と平和のために世界中で使える法を制定し首狩り部隊という凶悪犯罪者を捕まえる組織を従えている。

この法律は全ての魔法国家が憲法として制定していて各国、法律は違えど内容は逸脱したものはない。


WWOが定め世界の魔法国家が憲法としたこの法を国際法と言い、国際法に未申請での都市の生成および100人以上の集団の組織化、人間の建造物の占領などを禁止しているはずなのだが、あとが立たない。

いずれも無法地帯と強烈な支配体制の国家が出来てしまう可能性があるため国際法で禁止しているのだが、勝手に作る連中は自由だの高貴な血を持つ自分が領地を持てないだのおかしなことをいう。

魔人種の総人口数が極めて少ない為、誰しもが教科書に載る偉人の血をいくつか継いでいるしその辺を歩いている人だって親戚だ。

つまり、都市作り始めた国際法ガン無視のイカれた魔法使い達は、自分達を貴族やら由緒正しい家系だの言って都市を作ることを正当化しているが、どうもいいわけ苦しい。


何故このようなことが起こるようになってしまったのか。

魔人種というのは、本質的に知識を求める賢い種族であるはずなのだが、近年人間種の思想に染まった愚か者が増えているらしかった。



ウルスは腰から抜き取ったハンドガンを路地を疾走する馬車に向けて撃つ。

窓越しにこちらを見ていた幼い子供に向けて打ったがやはりというべきか、庇った男にあたる。


「貴様、血も涙もないのか!!!!!?」


馬車から何やらクレームが届いたが血も涙もないし、卑怯もクソも根っからの賞金稼ぎの哲学にはありやしない。


乾いた音が二、三回鳴り前方の馬車から一人が地面に投げ出された。


執事の格好をしたその人物は逃げる仲間を前に"止まるんじゃねぇぞ……"とは言わなかったが、「旦那さま坊っちゃまどうかご無事で……」と言ったのをウルスを耳に捉えた。


その旦那様とやらは、この執事を投げ捨てていけば時間が稼げるとでも思ったのだろうが、考えが甘い。

どちらが血も涙もないかわかったものじゃない。


「あんな奴を命がけで守る意味なんてあるのかね……」


そう呟いてとりあえず目の前に転がって馬鹿を捕まえることにした。



「縄よーקשור」

そこに容赦なく降りかかる魔法。


ウルスが明らかに容量を超える大きな縄をポケットより取り出す。

それ!っと、投げると意思を持っているような動きでスルスルと倒れた男を縛った。


「ぎゃぁぁぁ!!!痛い痛いぃいいいい!!!!!」


「大げさな」


銀色に光る縄は縛ると執事は身体からシュウシュウと煙を上げた。

聖銀で作られた縄が吸血鬼にかけられた呪いを刺激しているようだった。

普通の縄では怪力で逃げてしまうからと、同じ吸血鬼の血をひくものとして銀製の縄で縛るというのはかなり悪質だ。

弱々しくぐったりしているところを見ると大げさでもない。



今追いかけているのもそんな自称魔法貴族のロッテルデム家だ。

神王レイディス家という勝手に都市を作る愚か者たちが掲げるよくわからん旗下の血を継ぐ、由緒正しい家系らしい。

夫アルベルト、妻ナインの間に3人の子供とペットが1匹。それから執事がいたがさっき落脱した。


無法地帯を作って周辺の魔法国家で活動しているテロリストを匿っている疑いで賞金首になっているのだが、本人からしたらそんなつもりはないので、ウルスはいきなり命を狙ってきた狂人だ。

そもそも下町で馬車に乗っていたロッテルデム家を理由も述べず叫びながら強襲したウルスが悪い。


子供がいるとそれを庇って捕まえやすくなるとか仲間に自慢気にはなしている彼の器の程が知れる。

子供さえ人質にしてしまえば、こっちのものだ。とばかりに酷いゲス顔をしているのは賞金稼ぎのヴァルウス。どんな手を使っても捕まえるがキャッチコピーで、仕事仲間や取引先から親しみをこめて狂狼と罵られていた。


「火よーלעוף」


捕まえた時のことを考えてクツクツと笑いながら家族の背中を追いかけているとロッテルデムの領主アルベルトが杖を構えて魔法を放って来た。


「おっと」


半身で避けると真っ赤な炎が顔のスレスレを飛んで行った。


分岐する路地をとにかく右に左に逃げて行く。

右へ曲がった時、ウルスは凶悪に笑った。馬鹿め、その先は行き止まりだぞ!

地図を暗記していた彼は今まで以上のスピードで追いかける。



地図は一応、ちゃんとした国の機関が調べたものだから隠し通路が実はありました!てへぺろ☆なんてことはないはずだ。


「ふははは!どこに行こうというのかね?」


大佐みたいなことを言いながら路地に滑り込んだ彼は、背中にくくりつけてあったショットガンを両手で持ち忠告も無しにいきなりぶっ放す。



「きゃぁぁぁああああ!!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「「ひぃいいいい!!!!!」」


見た感じ誰も居ないし逃げた痕跡もなくまるで突然消えた。馬車もなくただゴミ箱とちり紙が落ちているようにしか見えなかった。馬車はガラガラと音を立てて左の路地を走っていたが、ウルスの目は透明化して馬車から飛び降り右へ入るロッテルデム家をみていた。

普通の賞金稼ぎならテレポートで逃げたと判断するだろうが、熟練した対人戦闘のプロの前にしては無駄な足掻きだった。

ただ吹き飛ばすことだけに特化した弾丸をセットしていたショットガンが背中に戻すと麻痺の魔法が込められた弾丸をハンドガンにセットする。


吹き飛ばされてまともに動けない5人に黙って麻痺弾を打ち込んで行く。


麻痺弾を撃ち込まれながら子供二人が酷い形相で睨んできていたが、睨まれても困る。


そうして今日も仕事が終わる。



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