第18話 宗教を後ろ盾にやりたい放題やった聖騎士、何故か勇者パーティの補佐役になったけど別に世界を救うとかどうでもいいです


あらすじ

ファンタジーな世界に転生したらチートも貰えず、両親が隠居した王国最強の騎士とか言う設定も存在せずに普通の村人に生まれたオレは、村を魔物から守る為、ただひたすらに戦っていた。


気づいた頃には20過ぎてて正直、行きき遅れ独身の聖騎士だった。

ある日暇を持て余して違法なカジノで賭博をやっていたところ、呼び出され勇者様とやらの付き添いになることになった。


別に世界を救うとかどうでもいいし、魔王は人間を襲ってない事実を知っているオレが、魔王を討伐して世界を救うとか意気込んでいる小僧を補佐する旅の話。


一章 1〜3話 転生と勇者が召喚された話

二章 4〜 転生してから勇者の付き添いになるまで

三章 未定 未定


◇◆1

1



死んだ。

そう思えたのは、死んでからしばらくしてからだった。

意識を取り戻してから最初に見たのは"白"だった。


純白、壮大な白。

勘違いするな、パンツのことを言っているのではないぞ。


鏡のように輝く大理石の床に『まるで人がゴミのようだ!』と言いたくなるほどの巨大なな神殿。

そして白く霞みがかった空。

白、白、白。

真っ白な空間だ。


300m先くらい先にあるその神殿なら自分がいる場所まで人の列がある。

300……いや298m先まである列に今並んでいるところだ。

人の列と言って見たが正確には人だけではない。

鼠、牛、虎、た……狸、えーと人間と言った感じで動物達も並んでいる。

動物と言った言い方で人間と分けるのは人間が自らがもっとも優れていると言う傲慢さのような気もするが、この列は僕たち動物が……という言い方もなんか違う気がする。


そして、人間のみに、三角の頭巾に白装束という夏に出るアレみたいな姿にされている。


アレとは幽霊のことだ、勘違いするな。



あー、ってことは死んだんだな。

ここでそう思えた。

子供の頃に見ていた昔話のアニメで死んだ人間がこんな格好をしていて閻魔様が地獄行きとか天国とか仕分け作業をするシーン。

アレだ。

俺が生きていた頃は残業5時間でブラックめ、死ね、とか思っていたものだが、閻魔様が休憩しているイメージとか無いし永遠に天国行きとか地獄行きとか仕分けしていると思うと頭が上がらない。

偉大なる先輩、いや、残業の神様……!!


尊敬できるのはいいが残業していると色々面倒になってくる時があったから閻魔様も面倒いから『お前から100人目まで地獄行きな』とか言われるかもしれない。うわ、嫌だ!

血の池とか剣山とか嫌だぁ!

同じ赤いやつならトマト風呂とか同じチクチクしているなら針ツボマッサージがいい!



離れていた時は閻魔様がいて嘘ついたやつの舌を引っこ抜いているのかと思ったが近づいてみれば巨大な椅子が鎮座しているだけで本人がいない。

色々と不安に思いながら並んでいるといよいよ自分の番が迫ってきた。

迫って来たからか、審判のやりとりが聞こえてくる。


【次の者、前へ】

「は、はい」

【羽島悠次郎 享年68歳。20歳までに10万円相当を万引き、32・33・41歳の時電車内での痴漢行為、42歳でホームレスに暴行、50歳で友人の財布から3万円の盗み、61歳でバス内で痴漢。で間違いないな】


え?罪状読み上げられんのかよ!うわ。

痴漢、って言う度に並んでいる女の人の顔が怖いわ。

ていうかこいつ悪人過ぎだろ。

地獄行きじゃねぇの?


【この罪状を持って貴様を……天国行きとする】

「え?!」

え??

いや、嘘だろ、え?天国?、は、え?

本人も驚いちゃってるよ


「ほ、本当に天国ですか?」

【ぬ?何か不服でも?お主地獄がいいとか言う訳でも無かろう】

「は、はい!天国、天国がいいです!」

【うむ、では魂に癒しを】


との言葉で痴漢野郎はキラキラと光りながら消えて言った。


閻魔様と思われる神様、閻魔様でいいや、は魂に癒しをと言ったが天国は天使がいるとも永遠の癒しがあるとか言ってる訳でもなかったな。

もしかするとふつうの魂は浄化みたいなことがされて輪廻転生とかで、やばくて浄化できない奴とか処理に困った魂は地獄に送ってとりま放置とか言う展開なのかな?

考えてもどうしょもないけど、考えるのは好きだ。


そして俺の前にいた犬とおっさんも天国行きにされついに順番が回って来た。

あ、犬は終始ワンワンと吠えて終わった。

閻魔様もワンワン言ってたから、シュール過ぎてついつい吹いてしまったが地獄行きとか言われないだろう。(フラグ)



【次の者ぉ!】

「はい、ここに」


緊張するとおふざけが出る癖がこんなところでも出てしまった。

はい、ここにと言いながら騎士のポーズをとった俺に後ろに並んでいた奴が憐れみの目で見て来ていた。

やっちゃったね、どんまい 的な


【八田 涼介 享年46歳。20歳までに行った罪はなし。26歳で鳩に餌をやり28歳で上司に暴行。38歳で上司を暴行。39歳で上司を暴行。40歳で上司から金を巻き上げ、41歳で逮捕。46歳でスマホ見ながら運転でガソリンスタンドに突っ込み死亡。で間違いないな】


「はい、間違いありません」

うっわ、ひどい経歴。

まるで俺が暴力で解決するイかれたやつみたいではないか。

いや、そもそも俺は悪くない。

言い訳するように聞こえるかもしれないがちゃんと事情があるのだ。

上司に暴力したのも、残業代払わなかったからだし巻き上げたのも未払いの給料を微収しただけだ。


ガソスタに突っ込んだのは……ありぁミスだ。

モケモンGOっていうゲームに夢中になってガソスタにGOしちゃっただけだし。


うん、我輩はなーにも、悪いことなんてしてないですな。

ふほほほほ。




【貴様は地……ふぬ、貴様は転生だ。】


「は?転生ですか」

転生、転生とな。

今地獄って言おうとしなかったか?

地……地面?はないな。

やっぱり地獄って言おうとしただろ!

どこに地獄要素があるんだ!


「今、地獄って言おうとしましたよね?」



【最近の日本人が言う異世界転生おれつえー、はーれむ、むそう、ないせい、ちーととか言う奴だ】


思いっきり無視された。

あれか、一方通行みたいな。

会話がドッチボールなら、これは磔にされてひたすら豪速球を投げつけられているような……。


「な、何故、私は転生なのか教えて頂いても?」


【貴様は、"閻魔様って大変だなー"みたいなことを言ったではないか。人の思い如き目を瞑って、耳を塞いでもわかる。

そして、貴様はこころから見えない我に敬意を抱いていた。特別だ。特別待遇で異世界転生とやらをさせてやる。

ふぁんたじーでもんすたーとか言うのがいる世界だ。

もちろん、向こうの神に断りなぞ入れてないが我は忙しいのでな。

まさか断る訳ないよな?

ん?ん?】


あ、すみません。

やっぱりドッチボールだったみたいです。


「ありがとうございます。それで能力は頂けるのでしょうか?」


【んん"では特別に創造の能力を与えよう。】


「おぉっ!」

創造魔法"クリエイトフード"とか言って料理無双に"クリエイトキャッスル"で一夜にして城をつくるとか夢が広がるなー。



【目を見開いて聞くが良い。この創造の能力はこんにゃ


「やっぱり要らないです!!」


ぬ?】


いや、いらねーよ。

夢を持たせて叩き落とす所業。

創造能力でこんにゃくとかアレじゃん。

嫌だよ。

もらったら転生地点が上空とかありそうだし。


【要らないのか?】


「はい、転生までさせていただけるのに能力までよこせと言うのはあまりにも不敬かと思いまして」


【本当に?】

「はい」


【いいの?】

「はい」


【ホンマに?】

「はい」

なんで最後、関西弁なんだよ。




【ふむ、そうか。

よかろう。

貴様は向こうの世界に転生する。どんな世界なのか詳しくは調べてないからわからんが"ふぁんたじー"じゃ。】


「ありがとうございます」



感謝をしながら頭を下げると

閻魔様は照れ隠しのような咳払いをした。








【魂に良き来世をあらんことを…】





◇◆2

2


異世界転生も悪くない。

そんなことを思っていたこともありました。

閻魔様がふぁんたじーな世界だぜと言っていた通り、イメージ通りのテンプレファンタジーだった。

魔物に魔法、スキルに職業が神様からの祝福で決まるイかれたシステム。

職業選択に自由がないとかおかしいだろ!

だいたい3歳から5歳の間に行われる真器の儀という神様から職業を与えられる儀式で俺は戦士という職業を与えられた。


農家、戦士、狩人、魔法使い、神官、技術者というたった6つしか職業はない。

王族も貴族もどれか一つを持って生まれて貴族のくせに農家の職業を与えられることもある。

だがここは権力者というべきか、教会の秘術とやらを使えばやり直しができるらしく実質的に農家の貴族はいない。

秘術と言う割には1村人に生まれた俺でも知っているし、そもそも神様が与えた職業なのにやり直しがきくってどういうことだよと思う訳だが、そこはご都合主義とか言う奴だろう。

転生したなら魔法を使って見たかったがあいにく俺にはご都合主義は働かなかったみたいで魔法が使えなく農家の次に多い凡職"戦士"になった。


魔物が普通にいて魔王とか言うなんかやばそうな存在が暴れている世界で農家とかどうすればいいのかと絶望しなければいけないかもしれないが神様とやらはそこまで鬼畜ではないらしく、職業解放というシステムも導入している。


例えば、話題にした農家だが経験を積み条件を満たすことで分岐する職業に転職が可能だ。

魚を取り続ければ漁師。

悪意を持って物を奪えば盗賊。

人を殺せば暗殺者。

と言った具合だ。

一般的には知らされていないのでわからないが職業解放は何段階もあり農家から竜騎士になったツワモノの伝説があるほどだ。


これは親が言語を教えるために聞かせてくれた本の物語だが。


俺を生んだ両親、生んだというよりもう生まれる前から生まれていたが。

えー、この世界での産みの親である、父セバスと母カルナは人間種の騎士だ。

戦士職の職業解放で騎士になっただけで誰かに従えているわけではないようでとてもややこしい。

生まれて初めて父の名前がセバスだとわかったとき執事かテメエはと突っ込かけたものの、贅肉を蓄えた無線ヒゲのおっさんだったので何も言わずに口を閉じた。


人間種とか人間でいいじゃないかと思うかもしれないが、閻魔様が言ってた通りやっぱり"ふぁんたじー"な世界なので、エルフとかドワーフとかが存在する。

するらしい。

大陸の端っこ側、海の近くの村なのでエルフもドワーフも見たことないし、そもそも村人以外の人間をあまり見ない。

俺の両親は実は最強の騎士で隠居していたとか、聖剣を守るために生まれた村だとか、同い年の可愛い女の子がいるとか、閻魔様がやっぱりチートをくれてたとかそんなことはなかった。


ただの田舎のただただ普通の両親の元に生まれたチートを持たない凡職を授かったただちょっとだけ違う知識を持った一人の少年。

手押しポンプでTUEEEしてやると思った3歳。

特に珍しくもない魔法職が持っている生活魔法というスキルで大量の水が出せる件で打ち砕かれた4歳。


だったらマヨネーズだこら。

と希望を抱いた6歳。

翌日、クミクミというマヨネーズに超似た調味料を知り絶望した。



そして医療知識チートがあるやんけ!と懲りずに調子に乗った10歳。

だが、神官の回復魔法が消毒も応急処置もせずに凄い力でなんとかなってしまうことを思い出し、俺は普通の少年になった。


料理が出来るわけでもないし、異世界転生のために準備をしていたわけでもない俺に思いついたネタはすぐきれた。

料理はレトルトもしくは外食。

カップ麺にお湯を入れて3分経てば食えるのを知っているがそれが何に役に立つのか。


考えるだけ無駄。

ジジイとババアと老いぼれとおっさんばっかりのこの辺境にある寂れた村に希望はなかった。

将棋もチェスも完敗。

魔法がこもっていて指示すれば動くチェス的なものがあり、全然こっちの方が面白かった。

同世代の子供がいない。ライバルも、幼馴染もいない。



魔物という危機に常に晒され村人でしかも子供の頃から戦いをさせられてきた俺はいつからか戦うことに、いや、圧倒的な雑魚を蹴散らすことに楽しさを見出していた。

この世界にはレベルやステータスと言った親切なものはなかったがそれぞれの職業には熟練値が存在し努力すればするだけ強くなる、そんな効果があった。

熟練値がmaxになれば職業解放で転職出来るし、さらに強くなれる。

戦士に生まれたからといって剣が自然と使えるようになるわけではないから修練は欠かせない。



凡職"戦士"を授かってから両親とともに狩をし、村では畑を耕し、夜は本を読み、また朝早くに狩にでての繰り返し。


大人の精神を持った転生者でありながらあまりのこき使いっぷりに児童虐待ではないのかと嘆いたほどにハードスケジュール。

空き時間に実践という形で木刀の打ち合いをしてくれる父。

その父だが、デブのくせに職業補正でなかなか動きが早く負けず嫌いで、不意を突かれるとマジで勝ちに来てなかなか大人気ない。

前世も入れたら同い年くらいなのでこんな奴がいると思うと恥ずかしい。


ーーーお前が言うな、という言葉が聞こえた気もしたが気のせいだろう




本当に異世界転生も楽じゃない、そう思った。


◇◆3



3





ん?何だ?



霧に覆われていた意識が覚醒すると、いつのまにか座っていたようだ。

肌から伝わるヒヤリとした感覚によくよくあたりを見てみれば石造りの壮大な空間がそこにはあった。


僕を中心にした円からなる幾何学模様からはキラキラと白い光が漏れ出している。


そして遠目に見るように、長く白い髭を、腹には脂肪を蓄えた老人はピカピカと輝くとても趣味の悪い椅子に座っている。

右手でグラスに入ったワインのようなものを飲みながら、空いた左手ではべらかせている美女の胸をわしわしと触り口元を緩ませているが、目はぎろりと肉食獣が獲物を見るようにこちらを見ていた。

僕を取り囲む形で重厚な金属鎧達もこちらをジッとみつめている。



すると髭を生やしたおっさんは突然立ち上がり大袈裟な素振りを見せてこちらに語り掛けてきた。






「よっこらせ、うぉっ……ごほん。



よくぞ参られた勇者よ!

我が神よ……悲願がついに叶います…ぐずっ。


あー、我はアルデンテ教国Ⅻ位階首長アーデウス・フィルク・アビスである」




なんか締まらない紹介だがこのおっさんは王様らしい。首長というのは確か王様だったし。

ターバン巻いた石油王の国とかの、人。

でもアラブ系では無いみたいだ。

ちょっと顔の濃いヨーロッパ人、国で例えるならイタリアと言ったところかな。

イタリア語なら僕でも話せるな

ボンジョールノ!ピッザ!ナポリタン!



ん?

こんな下らないことじゃなくてさっきなんか凄いこと言わなかったかな?

ゆ、勇者とか。





「まず初めに、謝罪させて頂こうと思たう。

我々の事情でここに呼び出した事、大変申し訳なく思っている


今まで普通に生きていたというのに勇者という職業を義務を勝手に追わせてしまったこと、謝罪してもしきれない。

ただ、我の話を聞いて欲しい。

第一に、我は私利私欲の為に勇者を召喚したのでは無いということ。


そして、今この世界は魔王とその眷属である魔族により危機に瀕しているということだ。」


「勇者よ。この通りだ、頼む。

無辜の民を、未来を託す子達を、我々を助けてくれ」


そう締めくくり、王様は膝を曲げて地面に頭をつけるような形で僕に頭を下げた。土下座と言いたいが脂肪によって土下座にはならずクラウチングスタートのような格好になっている。


「へ、陛下! なりませぬ!」


先程までおっぱいをわしわしされていた女の人が陛下(笑)により頭をあげるように言う。





「うん、それもそうか。あーめんど……して、勇者よ。

魔王討伐の話受けて頂けるか?」



今耳を疑うようなことを言っていたが気のせいだろう。


それにしても、召喚勇者というわけだし僕にはきっとチートがあるはず。

それに魔王わ倒す勇者なんて憧れるじゃ無いか!


「はい、やります!魔王を討伐し世界に平和をもたらします!」



「おお!勇者よ!感謝するぞ。

では、彼を連れて行くがよい」


え?ステータス確認とか鑑定とか姫とイチャイチャとか騎士団長と訓練とか手頃なダンジョンでレベル上げとか無いの?

そんな困惑をしていると王様の左手にある黒い扉がギィィ…と音を立てて開いた。


首元から爪先まで真っ黒な服を着て、頭には白と黒のツイン帽、目つきの悪い半目をしており、口は不気味に釣り上がっていた。

黒いピエロ。

ファンタジーなこの世界観をぶち壊す奴が出てきた。


勇者になったからかなのかはわからないけれど黒く禍々しい波動の片手剣を二本ぶら下げ、コミカルな動きをしながらこちらに近づいてくる。


「ひっ…」

あまりの不気味さについ悲鳴に似た声が出かけ口を閉じる。


そしてピエロは僕の前に立つと背中から取り出した白い板にサラサラと何かを書き上げクルリとこちらに見せた。



【おうおうおう!随分弱そうな坊ちゃんじゃねぇか!がははは。オレは、ラージュ。よろしくな(゜ω゜)>】



ヤバイ奴だ。こいつ。


◇◆4

4


あの神が俺を転生させた理由は気まぐれだったが、俺にとっては幸運だった。

約束通り転生し、村人になったのは以前話したよな?


朝起きては畑を耕し、昼になれば魔物を狩り、夜になれば死なないために修練を積まなければいけない。

最初は転生したことからきた興奮や、前世のブラックな環境から解放された喜びで田舎でスローライフを送っているようなそんな気持ちだった。

だが、あの限界集落は、俺以外の子供はいねぇし女もねぇ。

最初は村のババアが使う魔法に興奮したものだが、使える種類は2、3個程度。

見飽きてしまったし、そもそも俺には使えんし。

田舎過ぎて商人も来ない、領主の兵が微収しにくるわけでもない。

村にある本も少ない。

職業的に魔法とか使えない。

教会もない。

料理も地味で飽きる。

転生者だけど、役立ちそうな知識とかない。



この世界が魔物とか言う超怪異的存在に脅かされ、人間は職業という呪われたシステムの下に生きているせいか、前世で言われていたファンタジー世界よりもダークで澱んでいる。

村人たちは時にして盗賊に変貌し、周辺の村と戦争を行い、奪った男は労働力へ女は逃げられないように手足を奪われ、ぼろぼろになるまで使われ、子供は食べ物を与えられずひたすら雑用をこなすことになる。

当然、ほとんどが死んでいき死体は他のゴミとともに穴に埋められ捨てられる。

俺の村も3年に一度くらいの周期で戦争を行い、毎回勝利していた。

平和な世界、いや平和で腑抜けた国で育って悲惨な面を見ず死んだ前世を持つ俺は最初はこんなの間違っていると、やめさせようと思っていた。


だが、奪わなければ死ぬ。


それがこの世界の法則だ。


そうわかってからは自分のために、奪われるような弱いものにならないように死にものぐるいで修練をし技術を習得した。


勝ち続けた無敗記録の神話もそう長くは続かず14度目の冬、周辺の村でも特に仲が悪かった珠眼の村とうちの村である血呪の村で大規模な世界が行われた。

相手側の珠眼の村は珠眼の人種のみで集まった村で珠色の眼の人が世界で最も優れているとか前世の隣国を思い出させるようなことを主張しており、それに対してうちの血呪の村の由来は、職業によって制限を受けず誰でも使える独自の魔法、血呪術というものを使う人種で集まっていたからだ。

血呪術は、血を使った結構おぞましい魔法で、黒魔術とか邪神教徒とか言った方がわかりやすい。

もしくは吸血鬼。


血呪術は村に受け継がれる特殊な刺青を彫ることで発動可能で俺も使うことができる。

上であげていた奪った村人の使い方はウチには該当せず、いつも儀式の材料として潰されていたし、人間由来の材料をよく使うので捨てられることはなかった。


村のババアが言っていたが

『人間、余すところがない』


だとよ。クジラか!


つまらないツッコミはさておき、戦争の発端はなんだったか。

うちの村長は向こうが畑を荒らしたとかなんとかと説明していたが、俺は見たぞ。

村長が地下で珠色の眼をした女を抱いていたのを。


戦争になると知った時俺は確信した。

あ、村長が原因だろ。と

ばったり出会えば殺し合いが始まるような仲が悪い人種がうちの村で暮らせるわけがないし、そもそも女は外に出ないというのがほとんどの村のルールであるから、どうせロクでもない方法で拉致したんだと思う。


三人称という神の目線で見てたわけじゃねえからわからないが、戦いは泥沼だった。

職業というシステムで強化された人間の持つ不思議なエネルギーを取り込み更なる強化が可能な血呪の村と、個人によって様々な能力を持つ珠眼を持ち、人数もこちらの3倍はいる珠眼の村。

当時、戦士職を第四段階まで解放し、守護騎士という職業になっていた俺は例の血呪術により6人ほどの力を取り込んでいた。

守護騎士は盾を持つことで防御力が凄まじく上昇し、移動速度が落ちるがスタミナ回復と身体回復という効果、スキルみたいなのが発動する。

動く要塞的な存在で、超強い職業だが囲まれて仕舞えば死ぬ。

防御力向上というのはなかなか謎な効果で、敵意有無関係なく自分に害がありそうな攻撃に対して防御力が向上し身を守るというもので、肌が鉄のように硬くなるとか、血管が浮き出るほどムキムキになるなんてことはない。


第四職ですらそんな人外職だが、うちには4職が30、五職が8、六職が2いた。

俺の親?第二職止まりだ。


戦争では前世の陣なんて全く役立たない。

前列に戦士職、2列目に魔法職または狩人系、3列目に回復職、4列目にまた戦士職

技術者は待機だ。

戦士♤、魔法♡、狩人♧、回復♢で表すと


♤ ♤

♡ ♡


とか、

♤ ♤

♧♡♧

こんな感じの隊の組み方だ。

前列が盾役になり、魔法、狩職が遠距離攻撃、回復が盾役と敵の攻撃により負傷した魔法と狩職を癒す。

後ろにいる戦士は相手に回り込まれた際に命がけで壁になったり、前列に何かあった時の予備だ。


ちなみに囲まれた際は

♡ ♡

♤♢♤

とか

♧♡

♤♢♤

に組めと子供の頃から散々聞かされたし、訓練も受けたおかげで戦時でも出来た。

俺も眼が斬られたり、敵の魔法で焼かれたりしたがその度に回復職と職業の効果により一瞬で元に戻り、狼狽える敵を叩き潰した。


結局、どちらかが白旗をあげるとこなく、気づいたら俺一人しかいなかったみたいな状況で、勝ったのか負けたのかよくわからない戦になった。

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