第3話 スピンオフ 晴美と榊が付き合うまで

俺は迂闊だったのかもしれない。


いや、迂闊だったんだろう。


考えなしに、どうせふられるから、なんて考えで女子バレー部の伊沢に告白してしまった。


いつも、同じ体育館の中で見てたから、かっこいいとか、可愛いとか、色んなことを思ってた。けど、告白なんてするつもりはなかったんだ。


話すようになった切っ掛けは、自主練習のときに、人数が少なくて男女合同になったときだ。そこで、俺とペアを組んだのが伊沢だったんだ。


女子バレー部の人気は伊沢と安田の2人が独占してるようなものだ。


安田は容姿。あいつにとってバレーはステータスらしい。自分はバレーをやっている、ということで注目を集めようという意思が嫌というくらい見えてくる。


一方で、伊沢は実力、性格、容姿。その全てで評判だった。


親友らしい、陸上部の中本の心配をよくしてるし、バレーだって、練習熱心で向上心もある。


容姿だって、少し吊り目気味だけどセミロングの髪を後ろでアップにしてるのは反則気味に可愛かった。


だからといって、俺は手を出すつもりなんてなかった。


結局、俺はバレーだけで精一杯だったから。好きだからずっとやってきた。


それなりに、自分の実力に自信だって持ってる。


だから、やれる。


2年のまとめ役にされることも多いけど、そういう時は大体伊沢も一緒だ。


問題ない。


それが、昨日2人きりになった途端に俺が告白してしまった。


自分がこんなに我慢できない奴だなんてことを初めて知った瞬間でもあった。


「いいよ、私は」


返ってきた答えはこれだった。つまり、OK。


俺、明日になったら刺されるんじゃないだろうか?


そんなことはないって、思っときたいけど、それが頭から離れなかった。


あいつ、ファン多いからなぁ…
















次の日。


朝練の前にそれは起きた。


「あ、榊。これ」


そう言いながら、伊沢が俺に小さな袋を差し出した。


「どうせ今日もパン食でしょ? だったらこれでも食べてよ」


何事かと思って、中身を確認してみる。小さいけど、弁当だった。


マジで?


「少ない?」


「いや。そういうわけじゃないけど」


少ないとかそういう問題じゃない。


そうじゃなくて、伊沢。昨日のあれは本気だったのか、マジで。


「じゃ、何か不満? 私じゃ足りない?」


「そうでもない。そういう話じゃなくて」


うまく言えない。


「俺は、昨日ふられるつもりで言ったんだ。何でOK出したんだよ」


「私がいいと思ったからに決まってるでしょ。不満なの?」


んなわけない。だったら最初から伝えようなんて思わない。


けど、叶うなんて思ってなかったんだ。


「不満じゃないならいいでしょ? 榊君、千晶みたいでいいなって思ってたから」


千晶って、たしか、伊沢の友達の中本だったな。で、俺が中本みたい?


あいつは結構内気な感じで、不器用な感じだけど。俺、あいつに似てるのか?


「あ、千晶の不器用さとかそういうのとは別だよ。あれは千晶だけの魅力。


 で、私が言ってるのは一生懸命なところ。そこが千晶に似てるから。そういうのいいなって思えるんだ」


一生懸命、ね。


俺としては泥臭いって感じだけど、それがいいって思える人もいるってことかな。


「まぁ、この弁当はありがたく貰っとく。ありがとな」


そろそろ練習も始まるし、人も集まり始めた。


いつまでもこのままにしとくといきなりばれてしまう。


それだけは避けたい。だって、ばれたら終わりだろ?本気で刺されるぞ。


「うん。じゃ、そっちも頑張ってね」


彼女になってしまった伊沢の声を聞きながら、俺は鞄の中に弁当をしまった。


それから、周りに気付かれないようにこっちに手を振ってくれた伊沢を見て、漸く本当に伊沢が彼女になったんだって納得できた。


本当に、できた彼女だよ。
















昼休み。今日は試合が近いわけでもないからミーティングもない。


だから、時間ができた。


「あ、榊君、こっちこっち」


だからってさ、教室で呼ぶなよ。


後ろから刺されるの怖いからなるべく大人しくしときたいんだから。


俺は、貰った弁当を持って指で廊下を指した。伊沢は頷いて出てきてくれた。


「頼む。もうちょっと隠そうとかそういう気を起こしてくれ」


廊下を少し間を空けて歩きながら言った。


「何で? 付き合ってるんだから、別に恥ずかしがることじゃないと思うけど」


俺は恥ずかしくはないけど、後ろから刺される危険があるんだが。


もっとも、そんなことは言えないんだけどな。


「あ、話変わるけどさ」


「ん、あぁ」


俺、何も言ってないけど。沈黙を肯定と取られてしまったのか。


「宮古ってさ、千晶のこと好きだよね?」


何を今更、と思った。


隆哉とは小学校の頃からの付き合いで、足が速いもんだからずっと陸上をやってた。


それで、入学式の日に一目惚れした女子がいるって聞いてたらそれが中本だったって話。


しかも、その中本もあいつと同じ陸上部に入った。何でも、結構速いらしいけど本番には弱いとか。


まぁ、そんなだから隆哉も張り切っていいところを見せようとしてるんだけど、見事に空回り。中本はあまりにいいタイムを残す隆哉を『遠い人』と認識してる。つまり、近くで見る対象にすら見られていないのだ。


「それでさ、宮古と千晶の距離を縮めてあげたいんだ。宮古の空回りを見てるのも楽しいけど、いつまでもそれ楽しんでると宮古がかわいそうになってくるし」


楽しんでたのかよ。


「で、どうするんだ?」


「え? 千晶を無理矢理近付くような状況に追い込むから。後は宮古の度胸しだいでしょ」


こいつはあれだ。自分のだろうが、他人のだろうが恋路を兎に角楽しむタイプだ。


とはいっても、告白する相手もされてOKする相手ぐらいはきちんと選ぶ。まだ、俺がどういう基準でOKされたかはイマイチ理解できてないけど。


「度胸か…… まぁ、焚きつければ度胸ぐらい見せるんじゃないのか」


「かもね」


少し笑って、伊沢が立ち止まった。


「上、行こ」


「上?」


この先は屋上しかない。で、その屋上の鍵はいつも閉められてる。


「上の踊り場で食べようよ。そしたら、目立たないでしょ?」


本当。


腹の立つくらい人の事を理解してくれてる。


多分、周りのことを考えながら動いてるんだろうな。練習中もそんな感じだし。


「わかった。ありがとな」


「ううん。寧ろ考えなしに教室で食べようとした私が悪かったかもね。今度からは週に1回か2回にしようか? それぐらいのペースで2人抜けたぐらいじゃ誰も何も言わないよね」


だからだろうか。


これから先、一緒にいるのが楽しみになってきている自分がいることに気付いた。


「じゃ、早く食べよ? 色々お話もしたいし」


「あぁ」


きっと、もっと仲良くなれる。


そう思って、頑張ろうって決めた。


「あ、名前で呼んでいい? 伸吾って」


「……恥ずかしくない程度に頼む」

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ゲームに負けたら憧れの人に告白することになりました セナ @w-name

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