徐広2  嵐雹への言葉  

410 年、徐広じょこうは散騎常侍となり、

また徐州大中正となり、正員常侍に。


この頃嵐や雹による

被害が多くなっていた。

これらの事態を受け、

徐広は劉裕りゅうゆうに建言をしている。


その内容とは、こんな感じだ。


「風や雹の被害は、決して災害、

 とまでは言い切れません。

 古の聖賢は、むしろこれらを、

 己が身を律する契機として見、

 そこから国を立て直しました。


 さてこの私は、かたじけなくも

 劉裕様の幕佐として加えて頂き、

 その恩を忘れることはできません。

 が、ここで少しながら、

 些細な点に気がつきましたため、

 ご報告に参りました。


 劉裕様は義の旗を立てられ、

 この国をお救いになられた。

 その神武により、

 国は平和を取り戻しました。

 さらに質素倹約を旨とされ、

 政務に邁進なされており、

 平穏をもたらしましたること、

 まさに神が如き働きである、と

 申せましょう。


 とは申せ、未だ問題は山積。

 アメとムチとを

 使い分けねばならぬ局面も多く、

 未だ褒賞の下されていない戦功も多く、

 すべてをすぐに片付ける、

 と言うわけにもゆかぬありさま。


 あらゆるところで政務が滞っており、

 物事をスピーディに進めるのは、

 難しい、と申すより他ございません。


 このような状態で、

 更にこまごまとした煩瑣ごとが

 舞い込むのです。

 人々が日々の生活に不安を覚えるのも

 已むを得ぬこと、と申せましょう。


 今、市場には衣食が多く出回り、

 その価格を下落させております。

 そのため民は

 やや怠惰となっておるようです。

 また強盗などの事件も

 発生しております。

 この辺りは、世俗のルールが

 未整備であることに

 端を発しているよう思われます。


 思うに、義熙の始めに見ていた志から、

 やや離れた民の暮らし向きと

 なってしまっているよう思われます。

 これは、何故なのでしょうか?


 安逸に流れゆくのが、

 人々の性情と申せます。

 今ここで、古の法に立ち返り、

 綱紀の引き締めを図るべきと考えます。

 こうして民情を引き締めることにより、

 人々の働きは活性化するでしょう。


 どうか、深くのご検討を

 頂けますでしょうか」


この後に大司農となったが、

著作郎であったことは元のままだった。


416 年に晉紀が完成。全四十六巻。

安帝に献上された。


そして間もなく、祕書監となった。




六年,遷散騎常侍,又領徐州大中正,轉正員常侍。時有風雹為災,廣獻書高祖曰:「風雹變未必為災,古之聖賢輒懼而修己,所以興政化而隆德教也。嘗忝服事,宿眷未忘,思竭塵露,率誠于習。明公初建義旗,匡復宗社,神武應運,信宿平夷。且恭謙儉約,虛心匪懈,來蘇之化,功用若神。頃事故既多,刑德並用,戰功殷積,報敍難盡,萬機繁湊,固應難速,且小細煩密,羣下多懼。又穀帛豐賤,而民情不勸,禁司互設,而劫盜多有,誠由俗弊未易整,而望深未易炳。追思義熙之始,如有不同,何者?好安願逸,萬物之大趣,習舊駭新,凡識所不免。要當俯順羣情,抑揚隨俗,則朝野歡泰,具瞻允康矣。言無可採,願矜其愚款之志。」又轉大司農,領著作郎皆如故。十二年,晉紀成,凡四十六卷,表上之。遷祕書監。


(宋書55-4_規箴)




相変わらずトバシ訳しかできないのが無念。しかし結構重要なことが書かれていますね。いろんなことが並列して処理されているものだから、どうにも政務に渋滞が起こっていたようだ。その中で何を優先するかがうまく見極め切れていないうちに、下々の統制がやや疎かになり始めていたのを徐広が感じ取った。そこで下々の統制の優先順位を上げてほしい、と要請した感じか。


南燕なんえん戦、五斗米道ごとべいどう劉毅りゅうき討伐、しょく討伐。デカい軍功が多すぎるものな。これまでの伝でも立てた軍功に対する褒賞がものすごく遅れる、ってのがザラにあった。その辺は何らかの事情があったんじゃ、って思ってたんだが、単純に決裁に渋滞が起こってた、ってのもあったのかもしれない。なるほどー。


そうして考えると、劉裕の組織って官僚に致命的な人材不足があった感じ? まあ、でなきゃ劉穆之りゅうぼくしひとりの死亡で中央の政務が止まるなんて恐ろしい事態には陥らないか。その辺の執政システム構築は、その後どう改善が図られてったんでしょうね。興味深いところです。

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