第14話 心配する木曜日
大品質会議の資料が思うように進まず、今日も残業だ。日付を跨ぎかけた駅のホームは閑散としている。
これで明日は早出して会議の準備をしなければならないのだから、堪らないな。
半分に欠けた月を見敢えて、白く煙る息を吐き出した。
今日もつむぎからの連絡はなかったが、彼女への怒りはもうない。今はただ心配性の自分との戦いになっていた。
私とは会話したくない何かしらの事情ができた。言葉にするとすとんと受け入れられた。
別につむぎのことが嫌いになったわけではない。ここ最近が少し熱しすぎていたのだ。
私とつむぎは日曜日を一緒に過ごすというただの同盟関係。相手を拘束する効力はないし、相手に尽くさなければいけない義務もない。私たちの関係は日曜日を何もせずに怠惰に過ごすというただ一点で共有されていたに過ぎない。
もしつむぎが、日曜日に何かしたいことがあるのなら、ただの足かせにしかならない。
家に帰る前にコンビニに寄った。
料理は好きだけれど、こんな時間ではスーパーなんて開いてはいない。冷蔵庫の中身をチーズケーキにしてしまったため食材の買い置きはなく、こうやって残業が続くとコンビニ弁当ばかりの不摂生な食事になってしまう。
不味くはないが味気なく、正直好きではない。
いらっしゃいませーと気の抜けた挨拶をするアルバイトを横目に、私は雑誌コーナーを通り過ぎて、栄養ドリンクの棚に立ち寄る。翼を授けてくれるらしい魔法のポーションを買い物かごに入れ、明日の朝食のサンドイッチと夜ご飯用の弁当も籠に入れ、レジへと向かう。
並んでいる途中で、ふと思い至って、再び栄養ドリンクの棚に戻る。魔法のポーションをも一つ籠に入れ、ついでにチョコレートをかごに入れてレジに並んだ。
「まぁ、私からの差し入れなんて受け取らないかもしれないけど」
それならそれでもいい。そういう意志を示してくれただけで、私の欲求は満足するはずだ。
袋を二つにしてくれという依頼をすると、髪を染めたアルバイトは怪訝な顔を向けるもちゃんと仕事をしてくれた。
月を見上げて家を目指す。
今日もつむぎの家の電気がついていた。
インターフォンへと手を伸ばしかけたけれど、結局勇気が出ず、ボタンは押せなかった。
取っ手に買ってきたばかりの袋をかけ、自分の部屋の鍵を開ける。
つむぎが今どんな状況かわからないけれど、隣に私がいて応援していることが伝わればいいと思いつつ、私はすぐにベッドへと潜り込んだ。
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