第11話 困惑する月曜日
どんなに嫌なことがあったって、月曜日は平等にやってくる。
朝起きたら、LINEにメッセージが届いていた。
つむぎからのたった六文字のメッセージ。
『ごめんなさい』
ようやく返事が来たと安堵する一方で、謝罪の言葉一つで片付けてしまうつむぎの態度に、いささか怒りを覚えた。
私が昨日、どんな気持ちでメッセージを送り、待っていたのか、つむぎは考えたのだろうか?
通知があったのは深夜二時過ぎ。それ以降、釈明も言い訳もない。一方的に押しかけて来る関係だったとはいえ、昨日の日曜日は以前からチーズケーキを食べる約束をしていた。ドタキャンするならするで、事前に連絡が欲しい。
そんなわけで、寝起きは最悪。不愉快な気分にさせられたまま、一週間がスタートする。
電車に揺られ、会社へ着く。
ワンフロアの壁を全て取り払ったボーダレスなオフィスの、入り口に一番近い席が私の定位置だ。フリーアドレスを謳いつつも、業務のしやすさから個人の席が決まっている辺り、この会社は古き日本の企業から脱却できていない。自分の席の周りに私物を置けないという、痛恨の弊害のみが社員を苦しめている。
パソコンのディスプレイしか置かれていない殺風景な机を前に、私は大きく溜め息を吐いた。
普段何気なく生活している場所に、悪意を持った視線を向けてしまう。感情が荒れている証拠だ。
「おはようございます……」
早出をする上司に向かって味気ない挨拶をして、ディスプレイの前に腰を下ろした。
パソコンを立ち上げると、ToDoリストとして使っているポストイットが目に入る。積まれた仕事を眺めて、今日のスケジュールを頭に描き、伊達眼鏡をかけて仕事モードに切り替えた。
ごめんなさい、とはどういう意味だろう。
私は何を謝られたのだろう。
昨日、NNDの活動ができなかったことだろうか?
連絡もせずに約束を反故にしたことだろうか?
これまで振り回して、ということだろうか?
「……」
わからない。そのすべてのような気もするし、どれも違うという気もする。
つむぎの性格を考えれば、あんな一言で片づけてしまえるとは思えない。ごめんという気持ちがあるのなら、全身全霊で謝ってくるだろう。こっちがもういいと言っても、それじゃ収まらないと言って縋りつく姿など容易に想像がつく。
ならば、そうできない状態に陥ってしまったのだろうか?
何か事件に巻き込まれたとか……。
いや、考え過ぎか。
巻き込まれたなら謝罪ではなく助けを求める。遠慮なく助けてと言える信頼関係を構築できたと、私は思っている。
「……」
目の前のディスプレイでは、数行書いた文末にカーソルが固定され、チカチカと点滅していた。さっきから報告書が全く進んでいない。製品の不具合を詫び、ユーザーに原因を説明するための報告書。大筋は決まっていて後は文章に起こすだけだというのに、かれこれ一時間も同じ場所で止まっていた。
私はキーボードに手を伸ばし、つむぎのことを頭の隅に追いやって、どうにか文章をひねり出した。
結局仕事に身が入らず、ポストイットに書かれていた今日のノルマはこなしきれなかった。
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